1話 逃避行
「私たちの地球が壊れていく・・・。」
私が生まれ、育ってきた地球。
お父さん、お母さんの笑顔が溢れ、友達と楽しい時間を過ごした小学校時代。
初恋をし、男性にドキドキしながら、淡い時間を過ごした中学・高校時代。
宇宙科学の研究に没頭をしていた大学時代。
研究をしながらも、同じ研究室の男性と一緒に過ごした夜。
いずれも、多くの思い出が詰まっている地球。
地球は美しかった。
昔は温暖化や氷河期もあったようだけど、私がいたときは爽やかな気候に覆われていた。
特に四季は、いろいろな色に彩られ、心に感動を与えてくれた。
そんな地球が地球外生命体から攻撃される。
リーダーのミロがそれを救おうとしたけど、守りきれなかった。
地球は目の前で崩壊していく。
地球では大きなハリケーンがいくつも発生し、熱風と暴風雨が荒れ狂う。
ものすごい速度で回転をし、青い水に溢れた惑星と言われた頃の面影はどこにもない。
そのせいか、いくつもの火山が巨大噴火を起こし、空気にガラス質の火山灰を撒き散らす。
もう、人間が住める環境はどこにもなくなっていた。
私は、幸いかどうかは分からないけど、宇宙飛行士として訓練中だった。
ミロからも、地球外生命体から攻撃された時の戦い方を学んだりもしていた。
そんなミロから、4人だけでも新惑星に移住し、人類のDNAを残してくれと伝えられる。
ミロも救おうとしたけど、最後まで地球の存続に向けた手を撃ち続けると言い、断った。
また、家族、同僚等を救い出すこともできなかった。
特に、訓練していない一般人は、宇宙飛行には体力的についていけない。
私達4人が宇宙船で飛び立ったとき、地球は眩い光に包まれた。
誰もコントロールできないイオが地球に衝突した。
眩い光を放ち、地球の4分の1ぐらいは宇宙空間に飛び散る。
残った地球も火に包まれた。
あまりの急激な環境の変化で、宇宙に逃げ出せた人はどのぐらいいたかは分からない。
連絡がとれないので、私達4人だけなのだと思う。
絶望という名の闇が宇宙船の中を覆う。
故郷を失うことでどれだけの精神的負担を受けるのか、経験しないと分からないと思う。
昔から聖書等にも、そのような事件はあったけど、今までは空想の世界でしかなかった。
でも、地球はなくなり、私たちが帰る世界はもうない。
私達4人は、長い時間、窓から地球が粉々に飛び散る姿を見ているしかなかった。
ただ立ち尽くし、昔の思い出と将来への不安が頭の中を渦巻く。
そして、地球が崩壊することに何もできなかった自責の念とともに。
「乃愛、これから、どうするの?」
女性兵士の一華が、罪悪感と不安を混ぜたような表情で私の顔を見つめる。
罪悪感を抱えたままよりも、このまま宇宙船を爆破して死ぬ方がいいかもと呟く。
男性兵士の陽翔が、そんなことはないと言い、落ち着かせようと一華の肩に手をかけた。
一華は、陽翔を睨みつけ、あなたに罪悪感はないのと手を払う。
「大学で私が研究していたのは、地球に最も近い環境で、最も地球に近い惑星のこと。プロキシマ・ケンタウリという赤色矮星を回る惑星には液体の水もあることが確認されているの。そこに移住しようと思っている。」
「そこで、どうするの?」
「どうして、ミロが私達を宇宙に放ったの。人類のDNAを存続させるためでしょう。そのためには、確実に、私たちがどこかの惑星で生き延びて、子孫を繋げていかなければいけない。私たちの背負った使命はそういうこと。罪悪感とか、そういうことは忘れて、使命を果たさないと。」
これまで目線が定まらなかった一華は、私を見つめ、目に光がともる。
それでも、自分たちだけが助かっていいのかという嫌悪感は消えていない。
人類全ての人が、お前達は救ってくれなかったという悲鳴が耳元で鳴り響く。
「到着するまで、どのぐらいかかるの?」
「今から、太陽を使ってスイングバイ航法で行くと、なんとか20年ぐらいで行けると思う。この宇宙船にあるコールドスリープを使えば、寝ているうちに自動運転で着くはず。」
「コールドスリープは聞いたことがあるけど、睡眠中に機械が壊れて死ぬ可能性もあると聞いたけど、どうなのかしら。」
「この装置を信じるしかない。そうしないと、人類は本当に絶滅してしまう。」
「わかった。無事に20年が過ぎたら、私と陽翔は、戦う必要がでたときのために半年早く目覚めて筋肉トレーニングをしておくわ。乃愛と悠真は、到着の1ヶ月前に起こしてあげる。」
「よろしくお願いするわね。この宇宙船から惑星が見えるのは、3日ぐらい前だと思う。まずは外見を観察して、住めるかどうかを大きくつかむ。そして可能そうなら、低空飛行をして大気の状況や気温等を確認して、慎重にチェックしたうえで上陸する。いいわね。」
私の前にいる3人は、私の発言にうなづく。
「では、悠真、航路を計算してセットして。私はコールドスリープの装置をセットするわね。」
「分かった。」
全ての準備が終わり、4人はコールドスリープの装置に入る前の晩餐をすることにした。
「地球が崩壊したのに、お酒とか飲んでていいのかしら。」
「僕らがどうしようと、地球は崩壊前に戻らないんだよ。今日は楽しく過ごそう。」
「そんなこと分かっているわよ。私が言いたいのは、罪悪感を感じないのということ。」
「気持ちはみんな同じだから、そんなに自分を責めないで。」
一華はお酒に弱いのか、もう机の上で眠りに落ちている。
悠真も、少し酔っ払ったのか、とんでもないことを言い始める。
「DNAを残すというということは、僕たちは子供を作らなければいけないということだよな。それって、2組ごとのカップルを作るのか、毎日交換してエッチをするということなのか。どちらがいいだろうか。」
「そもそも、4人が健康で新しい惑星に辿り着けるかも分からないし、私達女性の気持ちもある。自然に2組のカップルができるかもしれないし、おいおい考えましょう。それとも、何か嫌らしいこと考えているじゃないの。地球が崩壊した日に不謹慎よ。」
「そんなことは考えていないよ。どうするのかなと素朴に疑問に思っただけ。」
「一華がそんなこと聞いたら、とても怒りそうだから、言わないでよ。」
「分かった、分かった。一華は怖そうだからな。」
冗談を言っても誰も笑う気になれない。
横では、一華が、私は悪くないと叫びながら、うなされている。
亡くなった人々の恨みに襲われたように、悲鳴を上げて起きた。
「大丈夫? 繰り返して言うけど、一華が悪いわけじゃない。私たちは、亡くなった方々の期待を受けて、宇宙に送り出されたの。誰も、恨んだりしていないから。」
一華は、目から大きな涙をこぼし、うなづいていた。
陽翔も悠真も、だまって一華を見つめている。
自分たちも、一華に声をかける余裕はないように見える。
私は、一華の頭に手をかけ、抱き抱えた。
私の膝の上で、一華は長い時間、顔を埋めていた。
こんな悲しい気持ちに包まれるなら、晩餐会なんてしない方がよかったかもしれない。
それから3時間が経ってお酒も抜け、4人はコールドスリープのカプセルの前に佇む。
自動走行をセットし、カプセルに入り、ベッドに横たわった。
カプセルには睡眠ガスが満たされ、意識が遠のいて行く。
私は、母親に押され、ブランコに乗っていた。
体は小さく、幼稚園児のように思える。
体が宙に浮き、空に手が届きそうになる。
でも、届くことなく落ちていき、今度は地面が目の前を覆う。
この繰り返しで、なんの制約もなく、空を自由に飛んでいる気持ちだった。
そして、周りは多くの色に満ち溢れて美しい。
そう、子供の頃は、何からも自由で、どんなこともできると思っていた。
でも、中学で失恋し、自分がこの世界の1番でないことも学んだ。
失敗することが怖くて、何も言えず、自分の部屋に閉じこもる時間も増えていく。
そんな私が学校にいくと、あからさまに嫌がらせをされて、女性の醜さも知った。
私は、何をするために生まれたのだろう。
何をすれば、この世の中に貢献できるのだろう。
そんなことを考えて大学の研究室で、宇宙科学を学び、実用化できる技術を生み出す。
でも、こんなに重大な責務を負うなんて考えたことはなかった。
4人だけになった私達で、人類のDNAを引き継いでいくなんて。
女性として、その責務を果たせるかしら。妊娠できない体だったりして。
でも、そんなこと気にしても仕方がない。
与えられた使命を果たすだけ。
4人だけなのだから、愛情とかそんなことは忘れて、子供を産むことに専念しないと。
その中で、一つでも幸せなことがあればいい。
だって、私達は、大勢の死の上に、残りの人生を認めてもらっているだけなのだから。
新しい惑星がどんな環境であろうと不満は言わない。
子供が生きていければ、あとは人類がその惑星に適合して進化していく。
それで、どんな体の形になろうとも、DNAは引き継がれる。
それが人類の願いなのだから。
私たちは、その架け橋でしかなく、私達に選択の権利なんてない。
楽しむ自由も与えられていない。
ただ、子孫を残すためにだけ、生かされているのだから。
頭の中で同じことが堂々巡りし、気持ちは滅入っていく。
もう、心が壊れそうになったとき、一華の声が聞こえてきた。
目の前は真っ白だけど、明るく、一華の顔がぼんやりと見えてくる。
「乃愛、そろそろ起きる時間よ。大丈夫。最初は吐き気もするけど、すぐに落ち着くから。」




