2話 課外授業
「初めまして。よろしくねー。」
6人の高校生がカレーライスとジュースを囲んで初めて出会う。
ネットで募集した課外授業の1回目。
海外旅行をしたい人というテーマで集まっている。
ただ、この部屋は現実には存在しないメタバース空間。
脳にチップを入れてるから、実際に同じ空間にいるとしか思えない。
そのリアルさは半端じゃない。
部屋ですれ違うと、実際には横にいないのに気配を感じる。
横に座る芽衣の香水がきついのもわかる。
もちろん、横の人に香りが伝わるから芽衣は香水を付けているのだけど。
メタバース上の部屋には、可動式の机と椅子がある。
壁は清潔感が溢れる白いクロスが貼られている。
窓からは、実際には見えるはずがない広い公園と青空が広がる。
季節は春で、満開の桜が公園を囲む。
窓から、さわやかな空気が流れ込む。
何かが始まると演出するかのように。
それらをリアルに見せるためにAIが使われている。
実際にはここにはない別の空間の風を察知して、私の周りで空気を動かす。
AIのおかげで私たちは、空間の制約を克服した。
本当に豊かな生活を手にしている。
みんなで6個の机を中央にまとめ、好きな椅子に座った。
現実は、各自の部屋に1人で座ってるだけなのに。
メタバース空間で動かした椅子に合わせて現実世界の椅子もAIが動かしている。
それが実現するように、現実世界にある机や椅子は規格化され、どれも同じ。
だから、メタバース空間と現実世界をシームレスに行き来できる。
昔はAIがロボットのようになると考えられていたらしい。
でも、今、そのようなロボットはいない。
AIは小さな装置一つひとつに組み込まれている。
それらが連携して私たちの快適な生活を作り出している。
メイクをばっちり決めた翠が、あどけなさが残る結菜に話しかけてきた。
「結菜、あまりしゃべらないようだけど、それだと参加する意味がないんじゃない。陽葵、結菜は外したら。」
嫌だ、嫌だ。まだ会ったばかりなのに、弱い者いじめをする。
だから、人と付き合うのは嫌なの。
私には1人での生活が合っている。
「翠、いじめるのはやめなよ。困っているじゃない。」
「大丈夫です。私って、本当に意見もないし、人前で話せないので、翠さんのいうことは正しいんです。」
「ほら、本人もそう言っているじゃない。澪は私のことを嫌いなのね。でも、私は心が広いから、そんな人とも付き合うけど。芽衣、あなたもそう思うでしょう?」
「そうね。私もそう思う。」
ネイルの手入れをしていた芽衣は、いきなり翠に同調し、愛想笑いをする。
これまで、翠が何を話していたのかも聞いていなかったように見えた。
でも、そんなことは関係ない。ただ、翠の仲間だと伝えればいいと考えているのだと思う。
翠は、強そうな私には正面から攻撃してこない。
弱そうな結菜をターゲットにして自分の優位な立場を作り上げる。
結菜に、この課外授業を続けさせることで恩を売り、自分の手下にする考えなのだと思う。
そして、芽衣とか、仲間を増やして自分のグループを作り、集団で私を除け者にする。
翠は、そういう人。私にはわかる。
でも、こんな人を放置しておくと、グループの雰囲気が壊れる。
私が一番嫌いなタイプ。
こういう人を放置しておくと、いつの間にか私の居場所はなくなってしまう。
結菜も、翠の手下なんて、いずれ息苦しくなるに違いない。
私が翠を睨んでると、陽葵が仲裁に入ってきた。
「まあまあ、仲良くしてよ。ここにいる人は、みんな必要な人。結菜だって、ITのスペシャリストなんだから、自信を持っていいの。」
莉音は、スマホをずっと見ていて、私たちのやり取りに関心はないって感じ。
気持ちはわかるけど、結菜のこと、少しは味方してあげればいいのに。
課外授業は、食事をしながら自己紹介をすることから始める。
課外授業は人間関係を学ぶ場。
私たちは、基礎知識の授業が終わると、課外授業を受けなければならない。
基礎知識は人気講師の映像を、それぞれ自分の部屋で見る。
理解できなかった学生は、AIが個々にフォローする。
今時、なんでもネットで検索できるし、生成AIが答えを出してくれる。
だから、基礎知識は最低限なものだけで7歳で終わる。
会話の仕方、社会マナー、体のこと、AIの使い方ぐらいかな。
あとは1日2時間の課外授業。
半年毎に2つのテーマに参加する。
私は、課外授業の一つとして体育を選んでいる。
人と関わらずにできる長距離を選択していた。
課外授業を始めた頃は、いろいろな人と積極的に交流しようとした。
でも、私の声が変だ、周りに媚びてると陰で言われるようになる。
そのうち、人と仲良くすることができなくなった。
一緒にいる人の数が増えるほど、孤立する人の孤独は増える。
どうしてか、人が変わっても、私が孤立するのは変わらなかった。
だから、その時から1人で生きていくって決めたの。
今日も、自分の部屋で走る。
課外授業だから他のメンバーと走っているようには見える。
でも、声を掛け合うことはない。
たまに、大変だからサボろうか等と話しかけてくる人もいる。
でも、人と仲良くして得られるものなんてないから、いつも無視をする。
そのうち、変人と言われ、誰からも相手にされなくなる。
私は、そちらの方が心の平穏を保てるから楽。
AIは、課外授業でもっと人と関わりなさいという。
別に人と関わらなくても生きていけるでしょう。
放っといて欲しい。
私は、基本授業ではトップだったし、体力も自信がある。
それでいいじゃない。
人と関わると嫌なことばかり。
右前に座る翠のモヘアニットから毛が抜けて空中を舞う。
それが原因か、くしゃみをしてしまった。
どうして、こんな子たちと一緒にいなければならないのかしら。
私は、ただ自分のペースで生きたいだけ。
部屋でずっとゲームしていれば1日が終わる。
それでいいじゃない。
陽葵は、司会役に立候補し、笑顔でみんなに働きかけている。
どうせ、陽葵も、裏があるのよ。
あんなに楽しそうにしているのも、そう繕っているだけに違いない。
その時、私は、ここにいる6人が目的があって選ばれていたことを知らなかった。




