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ブラックリスト  作者: 一宮 沙耶
第3章 アンドロイド(西暦3518年)

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2話 アンドロイド

目の前には、脳を培養液に浸したビンが100個以上並んでいた。

筒状のビンに、透明の液体が入っていて、脳が液体の中で浮いている。

脳には脊髄もついていて、オタマジャクシのような形をしている。


脳には数本のカテーテルが繋がれている。

色からみると血液を循環させ、栄養と酸素を供給しているのだと思う。

それ以上のコードはないので、外界と脳が会話ができる仕組みはなさそう。


脳死直前の脳を、その状態のまま保存しているように見える。

脳を将来の技術を使って人の体に移植し、永遠の命を得ようとしたのかしら。


脳には、生前の名前らしい記載はない。

どこかに、置かれた位置によって誰のものか特定できるリストがあるのかもしれない。


政治家のトップや莫大な財産を持つ老人の脳なのだと思う。

一般人には払えない莫大なお金と引き換えに、永遠の命を得る。

そんな取引があったのだと思う。


だから、密かに地底に隠し、技術が向上するのを待っていたように見える。

堅固な建物で外からの侵入者を防ぎ、その願いを阻止されないように。

隠れた廟のような建物の姿も、それなら理解できる。


ただ、1000年以上は経っているせいか、多くのビンは壊れ、脳は干からびていた。

この建物は堅固であっても、海底に沈む時の大きな振動でビンは壊れたのかもしれない。

知らない間に、あくなき欲望があっても、息絶えていたのだと思う。


「脳が生きているのはこの4体だけのようだ。」

「この4つの脳も、電気が切れかかっていて、もうだめかもしれない。大丈夫でも、過去の記憶はないだろう。」


横の部屋を調べていた隊員が飛び出してくる。

目は何かを訴えようと気迫に満ちていて、想像を超えるものを見たに違いない。


「どうしたの?」

「隊長、横の部屋からアンドロイドが出てきました。おそらく、この脳を組み込めばアンドロイドとして動けるようになるのだと思います。」

「どこから見ても人間と変わらない姿ね。本当にアンドロイドなの?」

「間違いありません。エコーで調べたところ、心臓は電気で動く装置であり、骨もチタンでできていました。また、脳の部分は空洞で、それなのに、こんなに血色がいい人間なんていません。」

「そうなのね。これが400年前に法律で禁止されたアンドロイドというものなんだと思う。今は、明らかに人間とは形が違う給仕ロボットしかないわよね。こんなアンドロイドを作れたのに、どうして、禁止され、この技術は廃れていったのかしら。」


カプセルの中で横たわるアンドロイドは、艶めかしく、今にも起き上がりそう。

脳とは違いアンドロイドへの給電は途絶えなかったようで、肌はつやつやしている。

肌にしわもあり、髪の毛とか、一つひとつが精巧につくられている。


口を開けると、唾液もでている。

表面だけ見れば、どこから見ても人間と変わりない。


ところで、アンドロイドがありながら、脳を移植しなかったのはなぜなのか分からない。

アンドロイドが完成した直後に、海底に日本が沈み、対応できなかったのかしら。

アンドロイドに移植することに何か課題があったのかもしれない。


私は、リスクよりも興味が勝り、移植することにした。

この技術を手に入れられれば、私の権威は世界中に知れ渡る。


「この脳をここに入れると、アンドロイドに吸収されていくという仕組みだと思う。4体に脳を入れてみましょう。今生きている脳も限界で、持ち帰るまで持たないと思うし。」

「いいんですか。そんな勝手なこと。この型のアンドロイドは、法律で禁止されているのですよね。」


隊員も、私と同じリスクに気付き、移植の危険性を懸念しているのだろう。

目からは助けを求める光が私に注いでいた。


「禁止されたのは、その時点で理由があったのだと思うけど、今となっては、どうして禁止されたのか誰も知らない。このアンドロイドを使って、禁止された理由を調べたいわ。問題がなければ、法律を変えて、アンドロイドを普及すれば、我々の寿命の延長にも繋がるかもしれないじゃない。」

「でも・・・。」

「もう時間がない。我々が入ったことで、天井から崩れそうだし。もしかしたら、許可されていない人が入ると中の物を消滅させる仕組みなのかもしれない。早く、脳を移植して外に持ち出しましょう。」

「男性体と女性体とがありますが、どちらに入れましょうか。脳の性別はわかりません。」

「今は時間がない。確率論なんだから、男性2体、女性2体に入れるわよ。早くして。」


アンドロイドの頭の上にある受け口に、脳が入ったビンを差し込む。

直後に、顔が左右に開き、脳を入れる空間が開いた。

外から見える顔とは異なり、空間の表面は金属のような鈍い色をしている。


装置の中で触手のような糸が伸び、器用に脳が頭に格納されていく。

現在、機械がこんなしなやかに動き、精密に神経をつなぎ合わせる技術はない。

見ているだけで芸術的。


その後、脳が格納されると、左右に開いた顔は閉じ、人間らしい顔となる。

2体のアンドロイドの目が開いた。


「残りの2体は起動しません。脳が死んでいたのでしょう。ここに置いていきますか?」

「そうね。目を開いた2体も、まだ1人で歩けそうもないし、4体持ち出すとなると重すぎるわね。無理をすると、我々の命も危ないし。残りは、今後、再度探索することがあれば、その時に期待して、まずは、この2体を持ち出しましょう。」

「壁にヒビが入ってきました。早く、ここを出ましょう。」

「わかったわ。出るわよ。」


まだ状況を理解できずに、ただただ佇むアンドロイドをタンカに載せる。

裸の体に、いつの間にか誰かのジャケットが掛けられていた。


我々は、迷路を走り、なんとか外に出る。

これまで暗い空間にいたせいか、まぶしくてよく見えない。


その直後、爆音が響き、我々は白い灰に包まれる。

音の方に目を向けると、さっきまでいた遺跡は崩れ、瓦礫の山が目の前に広がっていた。


我々は、研究施設にこのアンドロイドを運び込む。

このアンドロイドが何を引き起こすのか、何も知らずに。

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