9話 さようなら
会議室で歓声が上がるなか、破壊されたロボットを包む白い煙の中から閃光が走る。
「何、あれは?」
「母船が破壊される前に、どこかにビーム砲撃をしたみたいです。」
「どこを狙ったか軌道を計算して。」
「ものすごいスピードで、さらに蛇行していて厳密にはわかりませんが、ターゲットは太陽のようです。」
「彩華、このビームを止められないの?」
「物体じゃなくエネルギーだし、しかも、場所を特定できずに猛スピードで進んでいるから、今からでは無理。この感じだと、数分で太陽に到達する。」
「誰か、なんとかできない?」
その場にいた人たちは沈黙を続ける。
そして、2分後にそのビームは太陽に到達した。
地球外生命体は跡形もなく消滅したけど、地球も道連れにするという考えみたい。
ビームは太陽の中心を外した。
でも、太陽は大きく光り、3分の1ぐらいの塊が飛ばされる。
その塊は、ものすごいスピードで太陽系の外に向けて飛んでいった。
その日から太陽の熱量は大幅に下がることになる。
地球の気温も急激に下がっていく。
1週間も経たないうちに30度も下がり、海も凍り始めた。
「彩華、どうしよう。」
「太陽を活性化する方法はわからないから、飛ばされた太陽の欠片を戻すのが一番わかりやすい。太陽は、質量が戻れば、もとの熱量になると思う。でも、応急措置として、地球に熱を温存する対策を講じようと思う。」
「どうするの?」
「私が昔いた地球では温暖化という問題が起きていたの。二酸化炭素の量が増えて、それが温室効果ガスとして地球に熱を閉じ込めてしまい、どんどん地球が熱くなってしまうという現象。とりあえず、それでいきましょう。」
「彩華が自信ありそうだから大丈夫だと思うけど、気温が上がりすぎるということはないの?」
「大丈夫。この世界に来てから、時空の問題だけじゃなく、昔の世界で大問題になっていた地球温暖化についても、地球外生命体のデータベースを使って研究していたの。だから、問題になったらすぐに、温室効果ガスを排除する装置はできている。ただ、私の計算だと、圧倒的に活動が弱くなった今の太陽だったら、そんな心配はなく、ちょうどいい気温を維持できると思う。そして、すぐに太陽の欠片を戻すよう、物体の瞬間移動装置を使う。軌道計算とかで、そちらにはまだ少し時間がかかる。」
「彩華がそこまでいうなら任せる。早く取り掛かって。このままだと、生き残った人も死に絶えてしまう。」
「わかった。」
私は、二酸化炭素、メタン、フロン等を大量に空中に放つ。
1カ月後頃から、徐々に気温は上がり、元に戻すことができるはず。
そして、速やかに太陽の欠片の現状位置を測定した。
私の計算だと、太陽の欠片は現在、3つに分かれているはず。
太陽の質量を戻すだけなら他の方法もある。
木星を太陽に移動させて合体することも考えた。
でも、そうすると、太陽系外からの隕石等が地球に衝突するリスクが増える。
そのリスクを木星とかが守ってくれていたから。
太陽の欠片の位置を特定し、太陽に戻るよう時空を歪める。
戻すためには1カ月はかかる。その後3カ月ぐらいで元の太陽に戻るはず。
そして、その2カ月後に、温室効果ガスを地球外に放出するようセットした。
これで全てが上手くいくはず。
私はみんなのために役立つことができた。
今、この世界に来た時に澪さんから与えられた研究室にいる。
あの時の資料を回収しようと。
窓から海を眺めていた。
凍りついた海に沈む太陽が周りをオレンジ色に染め、美しい。
私は、この美しい地球を守ることができるはず。
私が生まれた意味を初めて実感することができた。
でも、2人の竜也と、郁子さん、美紗さんを救えなかったのは心残り。
一番、大切な人を守れなかった。
地球を守ったことで、このことを無かったことにできるわけじゃない。
でも、こんなに平穏に、快適に過ごすのは久しぶり。
平和ってとっても大切なものなのね。
頭ではわかっていたけど、経験しないと本当のことは分からない。
その時だった。
目の前に見慣れない生物がいることに気付く。
そして、その生物は、私のお腹に弾丸を撃ち付けた。
私は床に倒れ、血が床に流れ出ている。
こんなに大量の血が出ると、私もここまでかな。
これはやばいやつだ。
竜也達を守れなかった報いかもね。
やっと、竜也とあの世で会える。
2人の竜也が私を争って喧嘩するとかはやめてね。
そんなことないか。笑っちゃうわね。
目の前には、床のカーペットしか見えない。
あの美しい夕日をもう一度、見たかったかな。
澪さんにお別れができなかったわ。
でも、充実した人生だった。
改めて振り返ってみると、結局、結婚も出産もしなかったわね。
でも、なんだろう、この達成感は。
私の得意なテクノロジーの研究で、周りの人は褒めたたえてくれた。
そんな自分が誇らしかった。
私が欲していたのは、そういう自分だったのかもしれない。
1つでも最高の願いが叶えば幸せだもの。
私の部屋には、銃声を聞きつけて数人の兵隊が入ってくる。
いきなり現れた地球外生命体に集中砲火を浴びせていた。
もう、その生命体は動いていないから死んでいると思う。
もしかしたら、この生命体の母星が破壊され、復讐だったのかもしれない。
言葉が通じないから、何を考えていたのかは最後までわからなかった。
太陽は海に沈み、辺りは暗くなって星が輝き始める。
凍りついた海に星が映り、上も下も満点の星に包まれる。
地球が、この美しい自然を守った私を暖かく見守っているのね。
そして、今、月から見ると、青い地球が美しく輝いているんだと思う。
美しい地球、澪さんが、これからもずっと美しく輝かせてくれると思う。
さようなら。




