7話 元カノ
私は、澪さんから守られ、安全性の高い地下の研究室に避難していた。
ここなら、人間以外入れない入口での厳重な警備もある。
地下20階で、ロボットのビームでも簡単には破壊できない。
そもそも、ここに幹部が集結していることも秘密にされている。
でも、最近、生き残った人を、ここに退避させているため、機密管理はやや緩い。
それでも、徹底した管理のもとで、安全性は確保されていた。
昔の地球外生命体のデータベースをあらいざらい読んでみた。
そこで、今回の戦争で使えないものがないか確認するために。
そんな中、このビルに1匹のロボット犬が紛れ込んだという情報が入ってくる。
監視カメラにロボット犬が映っていたというものだった。
どうしてこんな堅固な警備をすり抜けられたのかしら?
その後、そのロボット犬を見失ってしまい、今、どこにいるのかわからない。
どうして、あたりかまわず人を殺さないのかしら。
無差別ではなく、まるで誰かを狙っているみたい。
わからないことだらけ。
ただ、ごくたまに監視カメラに映りこむ。そしてまた行方をくらます。
この地下の最上階である10階に現れ、昨日は18階でその姿が見られた。
一歩一歩、私や幹部がいる階に近づいている。
私は、毎日1回、澪さんや軍隊の幹部とミーティングを持っていた。
ミーティングは私の部屋と同じ20階で開催される。
だから、その時間だけ、自分の部屋を抜けて廊下を歩く。
廊下は清潔で照明もしっかりしている。
戦争中なのにとは思うけど、まずは落ち着かせるためだと澪さんからは聞いている。
同時に、死角をつくらず安全性を高めるためらしい。
今日も、その廊下を通ってミーティングに参加しようとしているときだった。
背中の方で階段の廊下が急に空き、何かと振り向いた。
階段から、ロボット犬が飛び出してきたのが見える。
「この部屋に逃げ込め。」
こんなドア、すぐに破壊されてしまう。
どうしよう。
でも、澪さんは、きちんと対策を打っていてくれた。
すぐにロボット犬がいるブロックに天井から透明の壁が下りてきて隔離される。
その後、そのブロックは灼熱の炎で焼かれ、直後に液体窒素で急激に冷却する。
目の前のロボット犬は粉々になっていた。
澪さんは、壊れたロボット、犬型ロボットの回収をし、弱点を調べていたという。
いずれも極めて強い強度をもっていたけど、1つの欠点が見つかった。
高温に熱した後、急激に冷却すると金属が粉々になるというものだった。
そのシステムをこのビルにも対策として導入していたんだって。
そして、竜也が人間の女性を連れてくる。
女性の手は後ろで縛られていた。
「竜也、どういうこと?」
竜也は謝るように私に頭を下げる。
「この前、違和感があると言っただろう。この女性のことだと気づいたんだ。時々、彩華の後から、強い恨みを持った目で隠れながらついて行く女性がカメラに写っていた。それで、違和感は確信に変わって、この女性を尾行したら、ロボット犬に近づても攻撃されていないのを見て地球外生命体の仲間だと気づき、澪さんに相談したんだ。」
「そんなことがあったんだ。ありがとう。」
「いや、兵士の僕なら、すぐに気づかなければならなかった。それなのに、自分に自信が持てなくて。彩華さんを危険な目に合わせてしまい、本当に、ごめんなさい。」
「そんなことはない。竜也は何も謝ることはしていないよ。」
澪さんは、私達の話しが終わらないことに焦れて、話し始める。
「ロボット犬がここに入り込んで、それにもかかわらず無差別に人を殺していないと聞いて、昔もそんなことがあったなってピーンときたの。そう、人間側に裏切り者がいるって。しかも、このロボット犬は、無差別に殺戮するんじゃなくて、明らかに誰かを狙っている。敵からは、彩華が素晴らしい能力を持っていることは知られていないと思うから、ターゲットは彩華ではないと思う。ただ、この女性の恨みに乗じて、それを手助けするふりをして、ここにいる私や、軍の幹部を狙っていたのよ。だからこの階や周辺の防御を固めていたの。」
「でも、人間側の裏切者って、この女性なの? あなたは誰?」
その女性は恨む眼差しで私を見つめる。
「あなた、たしか、彩華と同様に、別の世界で消えて、最近、この世界に来た人ね。何か彩華に恨みでもあるの? それとも、地球外生命体から何かいい条件でも提示された? 昔の世界に戻してあげるとか。どうして、敵に味方をしたのか教えなさい。」
「彩華が悪いのよ。」
「私のこと知っているの? 私は、あなたのこと知らないわよ。あなたは誰?」
「私は、竜也と付き合っていたのに、あなたが竜也に色目を使って、私から竜也を奪った。決して許さない。死んでしまえばいいのよ。」
「そういえば、竜也は私と会う前に別の女性と付き合っていたと聞いていた。でも、もう1年半以上昔のことじゃない。」
「あなたにとってはそうでも、私にとっては心が押し潰される苦悩の1年半だった。あれだけ優しい竜也を独り占めにして。竜也は、私と会ってくれなくなり、どれだけ寂しかったか分かる? しかも、そんなことを知らずに、竜也を振って、竜也を悲しめた。私は、この世界に来てあなたの名前を聞いて、復讐すると心に誓ったの。」
「それは竜也にとって、私の方が魅力的だったということだけの問題でしょう。私に文句を言われても。」
「あなたが竜也に色目をつかったからでしょう。女の武器を使ったのよ。」
「そんなことをしていないわ。」
その時だった。
澪さんは、その女性の頭を銃で撃ち抜く。
「助けてもらって、ありがとうだけど、こんな人でも人間じゃない。殺す必要があったのかしら。」
「昔もそうだったけど、一度、裏切った人はこれからも裏切る。しかも、浅はかで、敵に騙されていたことに気付かないなんて、救いようがない。彩華さんを殺すと言いながら、敵は、この階にいる、私や軍隊の幹部を皆殺しにする、いい機会だと考えていたに違いない。こんな私情に、私たちは付き合っている余裕はないの。」
「それはそうだけど、人々が消え、明日にも自分が消えるかもという恐怖に圧し潰されそうだったあの頃は、誰もが精神的に不安定だった。」
「でも、彩華はそれを乗り越えたんでしょう。私たちは、恐怖ではなく、死そのものと隣り合わせなのよ。つまらない私情に支配されるような人は、敵と戦争している今の私たちにはいらない。」
周りの人も冷静にミーティングの部屋に入っていく。
何もなかったかのように。
敵への最後の総攻撃の作戦をすり合わせるミーティングが始まった。




