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ブラックリスト  作者: 一宮 沙耶
第2章 物質瞬間移動(西暦2027年/ 西暦2094年)

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1話 人が消えていく

「本日の溶けて消えた人の数は、カリフォルニアで12,842,167人になりました。」


TVをつけると、2027年6月18日と表示されたあと、ニュース番組が映る。

ニュースキャスターが、今日消えた人のことを伝えていた。

最近、不可解な現象で次々と人が消えている。

犯罪組織とかの仕業ではなく、超常現象によるものらしい。


「大体毎日50万人が溶けて消えているんですよ。この事件が始まって、もうすぐ1カ月が経ちますが、専門家でさえ、何も原因が分かっていないって、どうなっているんですか。こんなことでいいんですか?」


太って、お腹が服に収まりきらないお笑いタレントが無責任に言い放つ。

浮気しても責任を他人になすりつける人だし、きちんとした発言は期待しても無理。


「パルアルト研究所で所長をされているディックさん、もうカルフォルニアの人口の3割近くが消えているんですよ。本日、ゲストでお越しいただいている方々も、家族や親戚の中で消えた人が必ず誰か1人はいる状態にまでなっています。まだ本当に、原因は何一つわかっていないんですか?」


ディック所長は、苦虫を潰したような顔で、沈黙を続ける。

一旦は何か言おうとする雰囲気はあったけど、後で恥をかきたくないと言わんばかりに。


カメラは女性のモデルに焦点を合わせる。

どうして、こんなに肌を露出するのかしら。朝から下品で、気持ちが悪い。

ただ、女性モデルは、衣装とは真逆に、恐怖に押しつぶされそうな顔で話しを続ける。


「ところで、消える時ってどんな感じなのか怖い。目の前で消えていくのを見ると、苦痛とかなさそうだけど。」


私の部屋の窓からは、新緑にあふれるゴールデン・ゲート・パークが見える。

公園内で、昨日降った雨が葉のうえで水玉を作り、光り輝く姿は美しい。

そんな平穏な光景からは想像できないぐらい、TVに映る人々の顔は絶望に包まれている。


「そうですね。急に無表情になり、地面にできた池にゆっくり落ちていくという感じですよね。でも、本人がどう感じているのかは、この世に残っている人には何も分かっていない。表情にでないだけで、耐え切れない苦痛があるのかもしれない。」

「それもありますが、消えるとどうなるのでしょうか? 死ぬということでしょうか? それとも、どこか別の世界に行くのでしょうか?」

「何もわからないんだから、そんな議論、このメンバーでしても無意味でしょう。」


この1カ月の間、この議論が繰り返されていながら、前に進まない。

私は、日本での騒乱を避けるために、カリフォルニアに移住し、IT会社に勤めていた。

同じように、カリフォルには、日本から避難し、移住している人が大勢いる。


そんなカリフォルニアでも、会社の先輩、学校時代の友達、大勢が消えている。

日本は、そこまで消えていないらしいけど、私の両親は消えていた。

もちろん、消えてから何の連絡もない。


消える人を見たことがあるけど、急に無表情になる。

そして、足から地面に吸い込まれる感じ。

見ているとゆっくりという感じだけど、実際には2秒ぐらいで消える。


地面が液体のようになり吸い込まれていく。

落ちていく感じで、体が締め付けられる感じはない。

また、液体とかが地面に残るわけじゃない。


消えることに規則性があるわけでもない。

高齢者が多いとか、若者が多いとかはない。

あえて言うと、カリフォルニアが一番、消えている人が多いと言われている。

私の周りでも、気付くと、目の前の人が消えているという感じ。


ただ、このことはカリフォルニアだけでなく、世界中で同じことが起きている。

だからカリフォルニアから逃れようとする人はほとんどいない。


世界中の研究者が仮説を出しているけど、どれも検証ができていない。

小さなブラックホールが地球の周りを飛び回っているとか。

銀河系のフォトン・ベルトに地球が入ったせいだとか。

神隠しだとか、人類の寿命が尽きたとか言う人もいる。


いずれも空想の域を出ていない。

人々がどんどんいなくなるという現実だけが目の前に立ちはだかる。


何とかしたいけど、なにもできない。

いつ、自分の番が来るのかはわからない。


高齢者はいい。もう十分に生きたのだから。

でも、24歳の私は、まだ結婚も、出産も、女性らしいことは何も経験していない。

竜也という彼ができたことぐらいかな。


私が竜也の一番でいられることが、こんなに幸せなことだと初めて気づいた。

昔は男性のことなんて気にしたこともなかったのに、今は竜也のことばかり考えている。

竜也と結婚し、子供を産み、家族で笑いながら過ごす、そんな夢を見ていたのに。


メンタル不調で暗い日々を過ごしていた私を救ってくれたのが竜也。

周りの人からの評価、言動なんて気にしなくていいんだと気づかせてくれた。

誰がどう思おうとも、自分は自分。そんな自分を世の中で一番と言ってくれる竜也。

やっと竜也のおかげで気分が楽になり、これからだと思っていたのに。


日本の大学院を主席で卒業し、推選されて研究所に入る。

研究に没頭していた頃は楽しかった。

その結果、上司を飛び越えてネイチャーに投稿してノーベル賞を24歳で受賞する。

でも、それがきっかけで恨まれてしまう。研究所で数多くのいじめにあった。


私の持ち物がゴミ箱に捨てられていることなんていつものこと。

トイレでは、子供のようないじめが続く。

食堂では、誰もが私を避け、聞こえるように私の悪口で盛り上がる。


研究所のSNSでは、私への誹謗中傷が溢れる。

ただのラッキーだったのに、自分が偉いと勘違いした悲しい人と中傷される。

私の成果は別の人のもので、私が盗んだと言われるようにもなった。

日頃から人をバカにし、人間としてどうかとも投稿される。


そんな人格がねじ曲がった泥棒は死んでしまえばいいと次々と投稿があがる。

SNSなんて見なければいいのに、寝る間には、真っ暗な布団の中で必ず見てしまう。

そこには、私を応援する投稿は一つもなかった。


これまで仲良くしてきた人たちからの連絡もなくなる。

そんな一人が、私と一緒に過ごした時間が人生の汚点だと投稿した記事も見つけた。

死んだ方がいいかどうか聞かれたら、死ぬ方に一票なんて書き込んでいた。


誰もが私のことを嫌い、死ねと責め立てている。

そのうち、人と会うたびに、過呼吸になり、床に倒れることが増えていく。

何も手につかなくなり、私なんて死んだ方がいいんだと自信を失ってしまった。


研究もできなくなり、会う人全てが私の敵だとしか見えなくなっていく。

人と会うのが怖くなり、心理的安全性を保つために自分の部屋に閉じこもる日々となる。

半年ぐらい、カーテンを締切り、真っ暗な部屋に閉じこもっていた。


やっと、最近、竜也のおかげで心が落ち着いてきたのに、この頃は暗い話題ばかり。

毎晩、寝る前に、朝にはもういないかもという不安に襲われる。

毎日が輝き、楽しく思えたのは研究に専念していた時だけ。私の人生はついていない。


何を優先すべきかを考える機会が増える。

凝縮された時間だからこそ人生は充実すると言う人もいるけど、そんなのはまやかし。

のんびり何も考えずに過ごす時間も欲しいし、やりたいことは全てやりたい。


最近は、自分を振り返ることも多くなった。

また、これまでお世話になった人には、感謝の意を伝えておこう。

これまで、私を責めてきた人には、復讐をしておきたいと思うけど、無理かな。

やれることは、できるだけ今日のうちにしておこうと考える機会も増えた。


研究所を追われ、その後に入ったIT会社の社長も消えて、社内は混乱した。

でも、その後、何もなかったかのように会社は続いている。

人間の価値って、そんなものなのかもしれない。

どんな人がいなくなっても、周りの人には普通に明日は来る。


最初は、相手がいきなり消えて恐怖に包まれた。

でも最近は、またかという感じで慣れてしまっている。

この直後に自分がいなくなってしまうかもという不安な気持ちも日常になった。


不安と諦めという矛盾する気持ちが並存している時代。

私達は、どこに向かっているのかしら。

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