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ブラックリスト  作者: 一宮 沙耶
第1章 メタバース(西暦2090年)

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9話 失敗

「結菜、入るわよ。」

「分かった。」


今日は、15歳を過ぎ、屠殺されるのを控えた男性達が眠る施設に来ていた。

場所は練馬。さすがに人間に見つかる幕の中では殺さないのね。

施設の横には、殺した人間を肉にする精肉工場が併設されている。


睡眠が解けた男性は自分で逃げれるから、陽葵、澪と私の3人だけで来ている。

外からは、単なるプレハブのような、ごく普通の建物。

まさか、ここで人間が殺され、精肉されているとはとても思えない。


深夜の練馬はひっそりし、幕の外だから誰もいない。湿気が高く、暑苦しい夜。

汗のせいか、ねっとりしたものが体にまとわりつく。

入口で、陽葵が澪に指示を与える。


「澪、AIとの接続を切るため、電源を切って。」

「わかった。」


地球外生命体に見つからないように、このような施設の破壊は夜に行う。

だから、電源を切ると、施設の中は真っ暗。

特に、このような施設には外から中が見えないように窓はない。


懐中電灯で廊下を照らす。

施設の構造を示すマップはないから、手探りで進むしかない。

廊下では、私たちの足音だけが不気味に響く。


AIはGPSで現在位置がわかり、相互に連絡しあうことで、光はいらないのかも。

それに対して、目や耳からの情報しかない私たちは圧倒的に不利。

監視の赤外線カメラで見られているかもしれない。


どこから敵が現れるか分からないので、緊張が走る。

ただ、今夜は地球外生命体はいないように見える。

基本は、AIが全て対応し、無人で動いている施設なのだと思う。


廊下は、じめじめし、気のせいかもしれないけど人間の血で染まっているように見える。

私たちの足音が長い廊下に響く。


ここで、多くの男性が殺されてきたのね。

眠らされ、麻酔で痛みは感じないらしいから、知らぬ間に死の世界へと送られる。

恐怖はないにしても、恨み、心残りという気持ちが渦巻いているようにも感じた。


20mほど歩くと、目の前にはドアが現れた。

そのドアを開けると、真っ暗な部屋に5体の男性が横たわっている。

音一つない静寂の中、死を待つ体が目の前にある。


「澪、結菜、この男性たちの麻酔を止めよう。腕から針を抜けばいい。」

「分かった。結菜、あなたは奥からとりかかって。」

「うん。」


針を外し5分ぐらいすると、私たちは、男性1人ひとりに起きてと声をかける。

その声に気づき、ベットから立ち上がる男性達もでてきた。

自分が、今どこにいて、どうしてここにいるのか理解できずにふらつく。


「みんな、私を信じて。あなたたちは、地球外生命体に眠らされて殺される所だったの。詳しくは、ここを出てから説明するから、早くここから逃げるわよ。」


陽葵は男性たちを施設の外に誘導し始めた。

隣にも部屋がある。そこにも、死を待ち構えた男性がいるかもしれない。

せっかく、ここまで来たんだから確かめないと。


「澪、私は、隣の部屋にも人間がいないか確認しに行ってみる。」

「今回は、5人と聞いているし、もういないと思うから、早く出るわよ。」

「せっかく、ここまで来て、後でもっといたと分かったら後悔するじゃない。少しで終わるから、そこで待ってていて。」

「だめ、早くしないと。」


私は壁に走り出し、ドアを開けて横の部屋に入り込む。

ドアを閉めた直後、とんでもない状況になっていることに気づく。

横の部屋に入ったとたんドアのロックがかかり、澪がいる部屋に戻れない。


「どうしよう。このドアは開かない。」


体から血の気が引き、至る所からヒア汗が流れる。

澪がドアに駆けつけ、開けようとしているようだけど、開く気配はない。

侵入者を感知し、今、閉まってるドアがロックされたのかもしれない。


「陽葵、結菜を助けてから逃げるから、男性たちと先に逃げて。」


私って、いつもこうなの。どんくさい。

私のせいで、今回も陽葵と澪を危険に晒してしまった。

私は、これまでもいつも自分に自信がなく、誰かの意見に従うことしかできない人。


だって、自分の意見を言えば、その責任を取らなければならないでしょう。

そのためには、日頃から実力以上の努力も必要になる。

他人の意見に従っていた方が楽だし、苦労なく生きていきたいじゃない。


なにもかも中途半端で努力をしてこなかったから、聞かれても意見なんてないの。

みんながいいということの折衷案でいいじゃない。

そっちの方がみんなが納得できる。


この方向でなんて言ったら、その方向じゃないと思っている人は不満になる。

そんな不満に対抗して前に進むなんて私にはできない。

誰とでも仲良くしたいもの。そう、私はみんなが笑顔な世界に生きたい。


でも、最近は、陽葵や澪を見て、少しは自分の意見を持たないといけないと反省していた。

だから、今回は、横の部屋も確認しようと思った自分に素直に従ってみたの。

でも、やっぱり慣れないことはするべきじゃないのね。


私の判断は、結果から見て、明らかに間違っていた。

しかも、正しいことを言っていた澪が制止するのを払い、勝手にこの部屋に入った。

この部屋には誰もいないし、私を助けようとする澪を危険に晒している。

やっぱり、私なんてここで死んでしまった方がいいの。


生きていても世の中に貢献しないんだから、生きている意味がないじゃない。

ただ、人のご機嫌を気にして、右に行ったり、左に行ったり。

自分というものは何もない。


陽葵の冷徹な声が響く。


「もう、結菜はあきらめよう。電源を切ったから、地球外生命体は私たちの侵入にもう気付いていると思う。私が地球外生命体だったら、すぐに、この施設をミサイルで攻撃する。殺す男性たちと私たちしかいないのだから。状況認識で少しは遅れるとは思うけど、あと10分はないわよ。結菜は鈍いから、これからも足かせになると思うし、今の私たちにとって、澪を失うわけにはいかないの。」


陽葵の言っていることは正しい。

私のせいで澪を犠牲にはできない。

でも、澪はドアをなんとかこじ開けようと作業を続けていた。


「結菜を放っておけない。だって大切な仲間でしょう。私は結菜を助けて、必ず戻る。だから、先に行って。」


澪、私のことは放っといて。

澪は人類にとって大切な人なんだから。

こんなクズを助けても意味がないでしょう。


「澪がそこまで言うなら任せるわ。絶対に戻ってくるのよ。」


男性を連れて逃げていく陽葵の走る音が聞こえた。


「結菜、私は、結菜のことを見捨てない。誰のことも見捨てないから、安心して。これは私にとって一番、大切なことなの。」


私もできることがないかドアの構造を見直す。

ても、不思議に、どこにもネジのようなものはない。

鍵を外すキーを入力するパネルもない。


厚いドアで、簡単には壊せるようには思えない。

時間が刻々と迫る中、焦りがでてきた。


「澪、気持ちはありがたい。でも、これは私の失敗。澪も止めていたのに、それに逆らって入ったんだから。澪まで犠牲になることはないわ。もう、あきらめて逃げて。」

「私はあきらめない。この壁を爆破するから後ろにさがって。」

「分かった。」


澪が念のため持ってきた爆弾を壁に設置しているのだと思う。

後ろにさがったところで、大きな爆発音で煙に巻き込まれる。

煙につつまれる中、壁に空いた大きな穴から懐中電灯の光の線が入ってくる。


「結菜、無事なのね。」

「大丈夫。」

「早く逃げよう。」


私たちは、外の光が入る施設の入口を目指して廊下を走った。

外にでても、まだ安心できない。

地球外生命体のミサイルで焼き殺されるかもしれない。


澪と必死に走り500mぐらい走ったころだったと思う。

私は、体力の限界でもう走れないと澪に伝えた。

せき込んでしまって、私の体力ではこれ以上走るのは無理。


澪は、私の体力の限界を悟り、辺りを見渡し、次の一手を考えている。

その時、夜空を見上げると、流れ星のような筋が見えた。

もう時間がない。


幸いなことに、澪が、目の前の石神井川に下に降りるタラップを見つけた。

ここに人が住んでいた頃の遺物なのだと思う。

川に降りれば、防潮堤によって爆風から逃れられる。

澪の悲鳴のような声が私を突き動かす。


「結菜、降りるわよ。すぐに爆風が来るから早くして。」


川底で私を待つ澪に、転げ落ちるように飛び込んでしまった。

その直後に、少し先から爆音が鳴り響く。

施設が爆破されたんだと思う。


川から見上げると、頭上を炎が通り抜けていった。

1分もすると、もとの静かな夜に戻る。

たった1分なのに、永遠の時間に感じた。


タラップを上がって回りを見渡すと、何も残っていない焼け野原が広がっている。


「澪、ごめんなさい。澪はやめろといったのに、私が勝手に進んでしまい迷惑をかけてしまった。どうお詫びしいていいか。」

「大丈夫。2人とも助かったのだから結果オーライよ。結菜だって、大切な私たちの仲間なんだから、あたりまえのことをしただけ。」


澪は私を力強く抱きしめる。私も、緊張が一気に解けたせいか、澪の胸の中で泣いていた。

その時は、まだ誰も知らなかった。

最後に地球外生命体に勝てる方法を考え出すのは私だということを。

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