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虐げられた聖女天使は残忍酷薄な辺境伯に溺愛される  作者: 桜城恋詠
7・聖女天使を虐げる国に、天罰を
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酷虐非道な辺境伯は、聖女天使を溺愛する

「これからじっくりと、時間をかけて。俺好みの女性になれば、いいだけだ」


 その仕草はまるで、絵画のようで――。


(かっこいい……)


 セロンはドキドキと心臓が高鳴るのを止められない。


「俺が君の、生きる希望になってやる」

「クロディオ、が……? わたし、の……?」

「そばにいろ」

「それって、逆じゃ、なくて……?」


 彼の宣言を受け、セロンは納得できない様子で異を唱えた。

 しかし、クロディオは挑発的な笑みを浮かべると、天使の疑問を吹き飛ばす。


「そんな些細なことに、白黒つける必要はあるか?」

「ない……」


 少女はすぐさま即答すると、どこか恥ずかしそうに辺境伯の胸元へ身を寄せた。


「セロン。俺達は戦いを終えた。そろそろ、君からの褒美を受け取りたいのだが……」

「ん。いいよ。わたしの全部。あなたに、あげる……」


 彼の提案を受けたセロンは、唇に優しく口づける。

 初めての接吻は甘酸っぱくて、ほんのりと暖かな気持ちに包まれた。


(クロディオを好きになって、本当によかった……)


 天使がほっとした様子で幸福感に包まれていれば、セロンの後方に、大きな影が差す。

 クロディオが露骨に顔を顰めた時点で、それが誰かは振り返らなくともすぐに分かる。


「お熱いことで」


 2人のいちゃつく様子を空から見ていた同胞はやれやれと肩を竦めると、呆れたような声をかけた。


「この様子じゃ、私達と一緒に暮らすのは無理そうね」

「ん……。ごめん、なさい……」

「別にいいわよ。天界で、人間に会いたいって泣かれても困るもの」


 勝ち気な天使少女に向かって天界への誘いを断った以上、話はこれで終わりだ。

 彼女はさっさと大空へ羽ばたいていくはずなのに――いつまで経っても、ここにいる。


(どうして……?)


 セロンはそれを、不思議に思っていたが――。

 すぐさまその理由に気づく。

 ここにはもう一匹、決断を迫られているものがいるのだと。


「ペガサス、は? どうするの……?」

『僕は、一度帰るよ』

「淋しく、なるね……」

『そんなに、悲しむ必要はないさ。僕達には、自由に大空を羽ばたける翼がある。その気になれば、いつだって会えるよ』

「うん。わたし、いつでも、待ってる。ペガサスに、会えるの……」

『ああ』


 神馬と過ごした時間は、それほど長くはなかったが――。

 セロンにとってペガサスは、かけがえのない家族であり、弟のような存在だった。


(お別れ、淋しいけど……。いつか、また会える)


 これが永遠の別れではないと信じ、笑顔で同胞を見送る。


「いくわよ、ペガサス!」

『それじゃあ、また』

「うん。ばい、ばい。また、いつか……。会おうね……」


 聖女天使とペガサスは純白の翼をはためかせ、大空へと羽ばたいて行った。


 ――こうして窓が開け放たれた仮眠室には、セロンとクロディオだけが残される。

 彼らが去りゆく姿をいつまでもずっと見つめていたセロンに、クロディオはどこか不安そうに問いかけた。


「後悔、しないか」

「うん。種族は同じでも、あの天使さんは……。この間初めて出会った人。数分言葉を交わしただけの他人を信じてはいけないって。フラティウスが、教えてくれた」

「言いえて妙だ。身近に反面教師がいると、助かるな」


 身体を起こした彼は神妙な表情で愛する天使に語る。

 セロンはそれに神妙な顔で頷くと、クロディオの意見に同意を示す。


「あの人も、役に立った」

「そうだな……」


 双方苦い思い出のあるフラティウスを引き合いに出したせいか。

 2人の間には重苦しい空気が流れるが――。

 それを引き裂くように、天使は声を発する。


「あのね。クロディオに出会うまで。わたし、つらくて苦しいことばかりだった。でも……」

「ああ」

「今はあなたに出会えて、すごく幸せ。これからも。ずっと一緒に、いてもいい?」


 彼は頷くと、セロンに優しい言葉を投げかけた。


「いずれは俺の妻に……。家族に、なってくれるか」

「もちろん……!」


 2人は離れないように強く互いを抱きしめ合い――愛する人がいる幸せを、堪能した。


 *


 それからクロディオは、ロセアガンムの国王から隣国を滅亡させた褒美として、新たな爵位を受け取ってほしいと打診を受けた。

 しかし――

 彼はそれを、拒否したらしい。


「これからは聖女天使を、普通の人間と同じように生活させてやってほしい。俺が望むのは、それだけだ」


 国王は彼の願いを二つ返事で受け入れ――これからこの世界で生まれる聖女天使は、天界と人間界。

 どちらでも好きな場所で暮らせるように、配慮をするようになった。

 母国で聖女天使を隔離していた神殿の人々は全員なんらかの罰を受け、王太子は廃嫡。

 バズドント伯爵家の面々はセロンと関わらないことを約束させられた。


『セロン!』


 ルユメール王国の領土がパロニード辺境伯預かりになって以降、悪者達がクロディオを恐れて悪さをしなくなったからだろう。

 セロンの元には時折ペガサスの背に乗って、同胞達が姿を見せる。


「こっちでの暮らしも、悪くないわよ? 目麗しい男性達が、山ほどいるし」


 その中には聖女天使のハートを射止めた、男性天使の姿もあった。

 セロンは目の前でいちゃつく同胞の姿を物珍しそうに観察していたが――。


「異性を視界に捉えないでくれ」

「わ……っ」


 クロディオは愛する天使の目を大きな手で塞ぐと、独占欲を露わにした。


『相変わらず、凄い嫉妬心だね』

「私達は、2人の関係を深める当て馬じゃないんだけど?」


 呆れたように言葉を紡ぐペガサスと聖女天使の声を聞きながら、セロンはくすくすと笑い声を上げた。


「クロディオ」

「なんだ」

「わたし達が夫婦になって、子どもが生まれたら。ね? 聖女天使、かも知れない。その子が天界を選んだとしても――人間界に、留まらせようごしないで」

「ああ。それは、その時になったら、考えよう」

「わたし達の、大切で、大好きな。新たな命。産まれるの、楽しみ……」


 天使は自らの腹部を優しく撫でつけると、うっとりと恍惚とした表情を浮かべる。

 だが、クロディオの反応は芳しくない。

 その理由は、すぐに明らかとなった。


「それはまだ、気が早すぎるな……」

「そう……? わたし、今すぐでも、ほしい……」

「俺はしばらく、2人きりの時間を堪能したい。人生はまだ、始まったばかりなのだから」

「うん……」


 ――想いを通じ合わせた聖女天使と辺境伯はこれから長い時をともに過ごすだろう。


 ルユメール王国を滅ぼしたいからと言って、クロディオが戦争をしなくてよくなったわけではない。

 まだ、三方向から狙われる危険性があるからだ。


「クロディオの、危機……。わたし、守る」

「ああ。君の仲間も、セロンも。俺が、守ってみせよう。命を賭けて

「期待してる」

「任せろ」


 こうして酷虐非道な辺境伯は、愛しき聖女天使と生涯を誓い合った……。

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