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虐げられた聖女天使は残忍酷薄な辺境伯に溺愛される  作者: 桜城恋詠
7・聖女天使を虐げる国に、天罰を
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聖女天使の捕らえられた神殿にて(ルイザ)


(こんなはずじゃ、なかったのに……! なんで!? どうしてよ!?)


 フラティウスから婚約破棄を宣言されたルイザは、怒りを隠しきれない様子でバズドント伯爵家へ帰宅するため、馬車に揺られていた。


(これも全部、あの子がパロニード辺境伯なんかに逃げ込んだせいよ……!)


 銀の髪と桃色の瞳。

 背中に翼を生やして聖なる力を発現できる野良聖女天使など、義妹以外に存在するはずがない。

 ルイザはどれほど歯ぎしりをしても鎮められない怒りに全身を焼かれ、どうにかなってしまいそうだった。


(こんなもの……!)


 ――背中に背負っていた偽物の翼を剥ぎ取ると、勢いよく羽根をもぎとった。

 車内には羽毛が、ひらひらと舞い降りる。


(あの女さえ産まれて来なければ……! あたしはバズドント伯爵からも、愛してもらえた! フラティウス殿下だって、婚約破棄を宣言しなかったはずよ!)


 セロンに憎悪を滲ませる姉は、気づいていなかった。


 本来停車するはずのない場所で馬車が止まり――勢いよく外側から開け放たれた出入り口に、修道服を身に纏った神官達がわらわらと乗り込んできたことに。


「ルイザ・バズドントだな?」

「な、何……?」

「聖女天使は、ルユメール王国の神殿で生涯を終える決まりだ。知らないとは言わせぬ」

「ち、違……っ! あたしは、人間よ!」

「黙れ!」

「きゃあ!?」


 真実を告げる己の主張になど聞く耳を持たない彼らは、ルイザを馬車から引き摺り下ろす。

 その後聖女天使の能力使用を阻するネックレスを首元に嵌め、同胞の元へと連れて行った。


「今日からここが、貴様の住む場所だ。大人しくしていれば、命までは奪わん」


 神官達はルイザにそう告げると、姿を消してしまう。


(ちょっと、これ……。どうしたらいいわけ?)


 どれほど考えたところで、答えは出ない。

 目の前には怯えの色を隠せぬ様子で身を寄せる、背中に純白の翼を生やした聖女天使達の姿があるのだから。


「あたしは聖女天使じゃないんだから……。こんなもの、なんの意味も……っ!」


 そう叫んだルイザは首につけられたネックレスに両手を伸ばし――そして、驚愕した。

 パキンと音を立てて、拘束具が外れたからだ。


「こ、壊れた……?」

「あなた、人間なの!?」

「助けて! 早く! 私達の拘束具も、外して!」


 ルイザが呆然とその場に立ち尽くして驚愕していると、切羽詰まったような反応を示す少女達が次々に助けを求めた。


(あたしには、この子達を助けてやる義理はないけど……。殿下は、聖女天使が大好きだもの。こんなにたくさんの少女達を開放すれば……! セロンよりも好みの子が、いるかも知れないわ……!)


 ルイザはある作戦を思いつき、ほくそ笑む。


(あたしは王太子妃を見つけた、恋のキューピットとして賞賛を受ける……! ふふっ。完璧な作戦ね!)


 こうして次々に聖女天使の聖なる力を無効化するネックレスへ手を触れ、解除作業に明け暮れる。


「やったわ!」

「聖なる力が使えるようになった……!」

「私達は、自由よ!」


 求められるがままにルイザが次々に拘束具を外していると、あっという間に土の上には破壊されたネックレスが山積みになった。

 少女達は口々に喜びを露わにし、この場から逃げる機会を虎視眈々と窺う。


(この際、重婚でもなんでもいいわ! どうにかして、婚約破棄さえ撤回できれば、それで……!)


 ルイザの企みを知らぬ聖女天使達は目配せをする。

 その後ピッタリと息を合わせ、一斉に大空へと羽ばたいた。


「な、なんだ!? これは……!」

「聖女天使が、逃げようとしているだと!?」

「馬鹿なことを……! 神殿の上空には、結界が張り巡らされている! 人間の力を借りぬ限り、脱出は不可能だ!」

「矢を放て!」


 神殿で暮らしていた聖女天使達が何者かによって拘束を解かれ、一斉に翼を広げたのだ。

 これにはさすがの協会側も驚きを隠せなかったようで、神官達は再び彼女達を捕らえるために躍起となる。


「ちょ、ちょっと待ってよ! あたしは人間だから、空は飛べないのに……! ここからどうやって、脱出しろっていうのよ!?」


 ルイザが慌てたように大声を張り上げれば、それを聞いた1人の聖女天使が空中から急降下してきた。


「あなたの力が、必要よ!」


 そう口にした少女は両手を広げ、ルイザを抱きかかえて空を飛ぶ。


「ぎゃあ! 落ちる!」


 まさか翼を持たぬ自分が天高く舞い上がる羽目になるなど、思いもしなかった。

 色気のない悲鳴を上げて己を抱きかかえている聖女天使に縋りついて怯えるが、彼女達もそれに構っていられるほど余裕があるわけではなかった。


「結界を壊して!」

「無茶言わないでよ! 人間は、空を飛べないの!」

「早く!」


 ルイザは聖女天使に憎まれ口を叩きながらも、渋々彼女達に協力した。


「ああ、もう! ほんとにあんた達って、憎たらしいから大嫌い……!」


 仕方なく両手を伸ばし、結界に触れる。

 すると――少女達を閉じ込めていた障壁が、粉々に砕け散った。


「私達は、自由よ!」

「どこにでも、羽ばたいていける……!」

「ちょ、ちょっと! 待ちなさいよ! あたしは!?」


 少女達は一斉に空へ向かって翼をはためかせ、地上が見えなくなるほど浮上する。


(こんなところから、叩き落されでもしたら……!)


 死を覚悟して叫べば、ルイザが持ち上げていた女性はなんてことのないように問いかけた。


「あなたは、どこに行きたい?」

「私達の悲願を叶えてくれた人間。望む場所に、連れて行ってあげる」


 長い間悩んでいたルイザは、やがて聖女天使にある願いを口にする。


「そうね。じゃあ――」


 ルユメール王国に舞い戻ったところで、ルイザはお尋ね者だ。

 神殿の人間に見つかった瞬間命を奪われかねない。

 ならば、忌々しくて仕方のない義妹と決着をつけるために――。

 あの場所で騒ぎを起こすべきだと考えたのだ。


(今に見てなさい……!)


 ――こうしてルイザは、聖女天使の手によって自国と敵国の国境に送り届けられた。


「セロン・バズドント! 出てきなさい!」


 ルイザは地に足をつけた瞬間――仁王立ちで、義妹の名を高らかに叫んだ。

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