第三話 津山公一
室内を程良い明るさで照らす豪華なシャンデリア。至るところに名もわからない花が花瓶に活けられ、視界が彩りに満ちている。BGMに緩いテンポのクラシックがレコードにで奏でられ、華やかな雰囲気をこれ以上なく演出していた。
「さて、これで全員揃ったね」
和やかなムードが辺りを包む中、津山は丸テーブルを囲むように着席するパーティーの参加者を見渡して、嬉しそうに表情筋を緩めた。
品評会の参加者は、宗睦を含めて全員で五人だった。
このパーティーの主催者である津山玲一は、当然のことながら上座に。そのすぐ右手横に妻である美奈が座っている。その隣りに、長身で掘りの深い顔をした野性味あふれる男が。その次に、このパーティーで唯一ドレスではなく牡丹柄の着物を纏った若い女性が優雅に座していた。一方の宗睦は、その隣りの席──言い換えると、ちょうど津山の左隣りの席に着いていた。
数だけみれば、少ない方かもしれない。パーティー会場もあと十人は悠に入れそうなほど余裕があるので、余計空間が広く感じられた。
だが食人鬼の世界人口を鑑みれば、妥当な数字だとも言えた。食人鬼なんてそうそういるものではないし、単刀直入に言ってかなりのマイノリティーだ。むしろこうして集まれるだけでも奇跡みたいなものだ。
大抵の食人鬼は、あまり表の世界に出たがらない。己が犯罪者である以上、そこに国家権力の影が付きまとう。よほど巧妙に罪を隠蔽でもしていない限り、外界との接触はなるべく控えるのが常識となっている。
宗睦たちのような、優秀な食人鬼でもない限り。
「食事を始める前に、忙しい中こうして我が家のパーティーに参加してくれた皆に、改めて礼を述べたいと思う。本当にどうもありがとう」
そう前置いて、津山はテーブルに置かれた赤ワイン入りのグラスを手に取った。
「我が家に同士諸君を招くのは──正確には月城くん以外になるが──これが初めてだ。至らぬ部分も出てくるかもしれないが、存分に楽しんでもらえたらと思う。では再会を祝して、乾杯!」
『乾杯!』
津山がグラスを上げたのを見て、他の参加者もグラスを掲げて唱和した。
「にしても、この五人で集まるのも、来見くんのパーティー以来になるのか」
赤ワインを一口含んだ後、津山は反芻するように目を細めて口を開いた。
「思えば、仲間内で集まるとなるといつも五人だけだったね。もっと他のグルメ仲間とも交流してみたいのだがね……」
「そりゃ難しい話だと思うぜ津山さん」
津山の呟きに、長身の男が口端を上げてそう言葉を返した。
「どういう意味だい、裂島くん」
「俺らみたいな要領の良い奴らならともかく、ほとんどの食人鬼たちは外と関わるのは嫌がるもんだからだよ。食糧を狩りに行く時以外はな。だから俺たちみたいにネットを通じて集まろうとする奴らなんて、稀も稀なのさ」
津山の問いに、裂島と呼ばれた男がワインをあおりながら、忌憚のない意見を述べた。
裂島行人。宗睦が津山たちと知り合うきっかけとなったサイトの管理人で、人を食べることをなによりの嗜好としている食人鬼だ。殺した数だけで言うならば、この五人の中で筆頭だろう。
確か裂島は、ほんの一か月前まで海外にいたはずだ。サイトでの近況報告でそのことを知ったのだが、こうして顔を見るのも二年ぶり近くになる。至って元気そうでなによりだ。
「さすがは、世界中を旅して色々な人種を食べてきたことだけのことはありますわね。言うことが違いますわ。ひょっとして、今まで一度も危ない目にあったことなんてないんじゃありませんの?」
「いやー、いくらなんでもそれは過大評価だぜ来見嬢。俺にだって危なかった瞬間ぐらい、いくらでもあるさ。獲物を捕まえるのに失敗したことだって、一度や二度じゃないし」
と、隣りに座る着物姿の美麗な女性に対して、裂島が気安い口調で返した。
来見冷奈。大会社を経営する女性実業家で、その財力と妖艶な美貌を用いて人食行為に及ぶことが多い。そういった意味では、食人鬼の中でもめずらしい部類に入るかもしれない。
来見とは彼女主催のパーティー以来となるが、やはりいつ見ても美しい。彼女が食人鬼ではなく一般人だったら、真っ先に喰らっていたかもしれない。まあ、それでも幼い子供に比べれば、味は幾分落ちるだろうが。
「失敗なんて今までにあったんですの? なんだか少し意外ですわ。てっきり、もっとスマートに殺しているものとばかり……」
「スマートさだけで言うなら、月城の方がもっと上手くやってるだろうぜ。なあ月城!」
不意に声をかけられ、宗睦は苦笑を浮かべながら「そんなことありませんよ」と首を横に振って、ワインを口にした。味はしないが、自分だけグラスがないというのも変に気を使わせそうだったし、とりあえず皆に合わせてワインを飲んでいる宗睦なのだった。津山たちに味覚障害のことを伝えていないので、話せば人の血を用意してくれていたかもしれないが、彼らとは対等の立場でいたかったので、事情を明かす気にはなれなかった。
彼らとは、あくまで同じ趣味を持つ友人というだけの関係だ。
自分の弱みや心の内を晒すほど、気を許しているわけではない。
「よく言うぜ。なんでも、監禁と解体の両方をかねた、専用の地下室があるんだろ? しかも、今まで一度もだれかに見つかったことがないって言うじゃねぇか。羨ましい限りだねぇ。人目を気にせず肉を切れるというのは」
「それなりにお金をかけていますから。でもそういう意味じゃあ、津山さんの方がずっと羨ましく思えますけどね。特に津山さんなんて、人身売買の組織を通じて生きた食材を調達しているのでしょう? やはり僕のような一般市民と違い、財力のある方はやることが豪気ですよね」
あまり自分の話をされるのが好きではない宗睦は、流れを変えるべく爽やかな笑みを浮かべて津山を持ち上げた。
「いやいや、あれはあれで大変なんだよ月城くん。こちらが金を持っているのをいいことに、とんでもない額の大金を要求することもよくあるからね」
「それに、そういったのって、わけありの食材が多いのよ。病気とか障害を持った人とかね。しかも後になってわかるケースが多いから、検査がかかせなくて面倒なのよねー」
ほんと、性質が悪い業者が多くて困っちゃうわ。そう不満を零して、美奈はこれ見よがしに溜め息を吐いた。
「実は美奈の言う通りなのだよ。裏の組織……特に海外の者と通じている分、足も掴まれにくいのだが、いかんせんこちらの足元を見て欠陥品を持ち込んでくることがたびたびあってね。月城くんが思うよりずっと苦労しているのだよ」
「そうだったんですか。となると、この中では来見さんが一番無難に人肉を得ていることになるのかもしれませんね」
「わたくしが、ですの?」
月城の指摘に、来見が小首を傾げて聞き返した。
「ええ。来見さんと言えば、『不殺の鬼女』の異名で知られていますからね。自分の手を汚さず、人肉を喰らう──同じ食人鬼でも、貴女ほど異才を放った方なんて他に知りません。個人的には、来見さんこそ理想な食人鬼像だと考えているくらいです」
「その代わり、なかなか人肉を口にできないのが玉に瑕ではありますけれど」
そこで間を空けるようにワインを口に含んで嚥下した後に「ですが」と来見は先を続けた。
「この中でと言うのなら、確かに一番手間をかけずスマートに済ませているかもしれませんわね。月城さんや裂島さんみたいに狩りに行くわけでなく、津山さんのように裏の住人を通じるでもなく、こちらが手を出さずとも自ら材料に来てくれるのですから」
「へえ、随分な自信だな。さすが、魔性の女なだけのことはあるねえ。月城と同意見になっちまうが、向こうから喰われに来てくれるってのは最高だよな」
「いえいえ。わたくしから見れば、裂島さんも月城さんも十分羨ましく思いますわ。わたくしは社長という肩書きもあって、あまり派手に動けませんし」
それに、と来見は参加者全員を見渡すように視線を巡らせた後で、
「自信と言うのなら、今宵出される食材の方に持つべきでしょう? なんせ、このパーティーはそのためにあるのですから」
と笑みを深めた。
「そうだね。来見くんの言う通りだ」
そう頷いてみせて、津山が神妙な顔つきで言葉を紡ぐ。
「今回の主題はあくまでも食べ比べだ。材料の調達方法なんて問題ではない。我々の中のだれが至高に相応しい肉を提供できるか──それが重要だ」
「そうだったそうだった。いつの間にやら脱線してしまったな。よし、そうと決まったらさっさと食事にしようぜ。聞いた話じゃあ、生で解体ショーしてくれんだろ?」
「もちろんだ。やはり人肉は殺してすぐに食べるに限るからね」
裂島の言葉に、津山がニヤリと口角を吊り上げて答える。
「同意です。人肉は新鮮な状態で食べるのが一番ですよね」
「わたくしも同じ意見ですわ。中にはわざわざ血抜きしてから食べる方もいらっしゃるみたいですが、そのような風味を損なう真似をするなんて、わたくしには到底理解できません」
津山の言葉に、宗睦と来見がそれぞれ賛同の意を表す。ここにいる食人鬼たちは皆、津山が言ったように殺してすぐ食すことこそ最上の食べ方だと思っている。互いにグルメ仲間と認めるだけあって、こだわりが強いのだ。
「公一さん。食事を始めるのはいいけれど、だれからの食材にするの?」
「ああ、そういえばまだ順番を決めてなかったな。ふむ、どうしようか」
美奈の問いかけに、津山が顎をさすりながら考え込む。
「でしたら、主催者である津山さんから始めて、後はこちらへと伺った順でよろしいんでなくて? 変に時間をかけたくありませんし」
「おっ。分かりやすくていいなそれ。俺は来見嬢の意見に賛成だぜ」
「それだと、順番的に僕が最後になりますね。空腹が満たされていく分、少しこちらが不利となりそうですが……まあ、いいでしょう。僕もそれで構いませんよ」
「うむ。ではそうしようか」
宗睦らの意見を聞いて、津山は大きく頷いた。
「となると、最初は私からか。では坂木、さっそく準備を始めてくれ」
「はい。かしこまりました」
近くに控えていた坂木という名の執事が、深く低頭した後、奥の通路へと引き下がっていった。
しばらくして、何人かの使用人が食器や調達器具を積んだ台車を運び始め、下にブルーシートを敷き始めた。そしてあらかた準備を整えた後、奥から車輪付きの檻が坂木に押されて宗睦たちの前に現れた。
檻は鉄格子で囲われており、高さは成人男性の胸元程度。ちょうど人間一人がすっぽり収まる程度の面積で、その中で二十歳ほどの若い女が、下着も付けていない裸体をぶるぶる震わせて縮こまっていた。
全体的には少々痩せぎすな印象を受けるが、胸や尻になどきちんと付くべきところに肉が付いているので、実に食指をそそる体をしている。
「な、なに? なんなのこれ……?」
檻に入れられた女が、宗睦たちを見て怯えた表情を浮かべた。こんな状況でも羞恥心はあるようで、必死に身を丸めて胸などを隠しているが、まるで外界に怯える小動物のようで、逆に皆の嗜虐心をくすぐる。特に裂島は「おおっ」などと声を上げて露骨に喜色を覗かせていた。
「なかなか美味そうな姉ちゃんじゃねえか。しかも服を脱がしてあるとか、随分と気が利くことをしてくれるねえ」
「服があると調理をする際に邪魔になるからね。時間も取られたくないし、事前に衣類を脱がしておいたのだよ。もっとも、脱がしたのは坂木たちだがね」
津山に一瞥され、坂木は恐縮だと言わんばかりに頭を下げた。
「ちなみに他の食材もちゃんと脱がしてあるから、今回同様、時間を取られる心配はない。なのでゆったりとした気持ちで食事を楽しんでくれたまえ」
「本当に機転が利きますね、津山さんは。僕も見習いたいところです」
「はは。そんな大したことでもないよ。パーティーの主催者として、当然の配慮をしたまでさ」
宗睦の賛美に、津山は満更でもないように相好を崩した。
「ところで、あの食材は例の人身売買とやらで手に入れた物なんですの? てっきり人身売買と聞いて、途上国の方を想像していたのですが……」
「いや、あれはれっきとした日本人だよ。元々は途上国にいたらしいのだが、なんでも親が莫大な借金をしたとかで、その担保として売られたらしい。実際、人身売買は途上国の方が主だっているのだが、日本人が売られるなんて滅多にないことだからね。この話を聞いた時、つい衝動買いしてしまったよ」
「そうなんですの。それで、病気などの心配は……?」
「その点は安心してくれるといい。ちゃんと検査は済ませてあるから」
津山の説明を受けて、来見はほっと表情を和らげた。宗睦としても、いくら上質そうな肉とはいえ、危険を含んだ物など口にしたくなどない。
「なるほど。あれが津山さん自慢の一品ってわけか。まあ、若い女ってのは定石ではあるよな。肉も柔らかいし味も良いし」
「むしろ、私も美奈も若い女性の肉しか食べないなあ。人肉はやはり、若い女性に限るよ。それもああいった体付きの良い子などは特にね」
「へえ。じゃあ本当に良い買い物をしたってわけだ。俺みたいな金のない奴にしてみれば羨ましい限りだよ」
津山の言葉に、裂島は苦笑を浮かべて肩を竦めた。気持ちはよくわかる。自分も金で好みの子供を買って食べてみたいものだ。それほど稼ぎがあるわけでもないので、所詮は夢物語でしかないが。
「さあ、準備が整ったところで、さっそく解体ショーを始めようじゃないか」
「坂木。お願いしたわよ」
「かしこまりました、旦那さまに奥さま。それでは皆様、どうぞ存分にご堪能下さいませ」
津山夫妻に促され、坂木は宗睦たちに一礼した後、檻の方へと静かに歩んだ。
「な、なに? なんなの? なにをする気なの?」
正面に立ってきた坂木に、全裸の女は檻の奥へと体を引いて顔を強張らせた。だが距離にしてみたら一メートルにも満たず、余裕で女に触れられる範囲だった。
怯える女に対し、坂木は眉一つ動かさず女を睥睨しつつ、使用人に手渡された刀を手に取って鞘を抜いた。
そのまま鞘を放り捨て、坂木は刀の切っ先を女に向けて、眼光を凄ませた。
「……やだ。やめて。殺さないでっ」
坂木のただならぬ雰囲気に、女も身の危険を感じたのだろう──目に涙を滲ませながら、必死の形相で首を振る。
が、そんな願いも虚しく、坂木は一切の躊躇なく刀を女の心臓に突き立てた。
──あああああああああああああああああっ!
絶叫が響き渡った。心臓に突き立てた刃から鮮血が噴水のように溢れ出し、周囲を赤黒く染めていく。
「おお、すげえ! こりゃ絶景だな! こんなに血が出るところ、久しぶりに見たぜ!」
目の前に広がる血飛沫を見て、裂島が歓喜の声を上げる。瞳は爛々と輝き、女の断末魔の様子を一瞬たりとも見逃すまいと凝視していた。
少しして絶叫は止み、女は白目を剝いてピクピクと痙攣し始めた。まだ生きてはいるが、死に絶えるのも時間の問題だろう。
ほとんど動かなくなった女を見て、坂木は檻の鍵を開けて中へと入った。そして女の足を掴み、檻から引きずり出してブルーシートの上へと寝かせる。
「さあ、ここから本番よ」
美奈が酷薄な笑みを浮かべて、そう愉快げに言葉を発する。視線は血で真っ赤に染まった女に固定されており、裂島同様、目が離せないといった様子だった。
いや、それは宗睦や来見、津山にも言えることだった。だれもが眼前の光景に夢中になっていた。
そんな皆の視線を浴びながら、坂木は女の顔面近くまで寄り、刀を握り直した。
そうして刃を首に当てがった後、そのまま勢いを付けて一気に振りかぶった。
刃は正確に首だけを飛ばし、またしても鮮血を噴かせた。
飛ばされた首は床に衝突し、ごろごろと転がってブルーシートの上に点々と赤黒い血痕を残していく。
やがて首は静止し、苦痛に歪んだ顔面をこちらに向けた。両目とも虚ろに上を向き、鼻は床にぶつかった衝撃でひしゃげ、口はあんぐりとエサを求める鯉のように開けられ、そこから血がだらりと逆流していた。
首のない死体からは、今なお止めどなく血が流れ出ていた。すでに血は女の全身に広がっており、まるで血の池に死体が浮かんでいるかのようだ。
坂木の解体はまだ終わっていなかった。首を斬り飛ばした後、今度は左腕に刃を添え、首と同じように切断した。
血が飛び散る中、坂木はついで右腕、左足、最後に右足を刀で断ち、完全に胴体だけの体を作り上げた。
そのどれもが迷いのない一刀で、躊躇う素振りが一切なかった。
「素晴らしい……。見事な刀捌きでしたわ。わたくし、思わず感動してしまいまいた」
来見が拍手を鳴らして賞賛を述べた。それは宗睦や裂島も同じで、惜しみない拍手を送っていた。
中でも裂島はずっと拍手をしながら「ブラボー!」と絶賛していた。
「マジですげえな坂木さん! よくまああれだけ器用に刀が振るえるもんだ。しかも死体を寝そべらせた状態でだぜ? 俺がやったら絶対床を傷付けてたよ」
「それだけじゃなく、すべて一太刀だけというのがまたすごいですよね。僕もよく解体しますけれど、刃がよく肉に食い込むので、なかなか綺麗には切れないんですよねぇ」
「はは。驚いてもらえたようで、私としても嬉しい限りだよ。刀での人体解体ショーなんて、うちでしかやらないだろうからね」
裂島と宗睦の反応に気分を良くしたのか、津山は上機嫌で語りだした。
「彼は元々人肉専門の料理人なのだけれど、趣味で剣術も嗜んでいてね。普段は執事も兼任してもらいながら、こうしてたまに腕を振るってもらっているのだよ」
「まあ、坂木さんってとても有能な方なんでしたのね。わたくしもほしいですわ」
「あら、だめよ。彼は私が見つけてきたのだから。彼ほどの料理人はなかなかいないのよ?」
来見の発言に、美奈が不満そうに眉をしかめた。人肉専門の料理人は少ないので、一層手放し難いのだろう。
そうこうしている間に、坂木は使用人と共に前もって用意されていた調理台に胴体を乗せ、刀から包丁へと持ち変えた。そして胸元部分に刃を食い込ませ、乳房を切り取っていく。
それを細かくスライスし、数枚の皿にそれぞれ取り分けた後、使用人たちに運ばせた。
「お待たせしました。まずは素材ならではの良さをご堪能下さいませ」
使用人の一人が、皿を並べ終えたのを見計らって口上を述べた。
宗睦らの前には、先ほど坂木が切り取ったばかりの生肉が、皿の上に置かれていた。表面には未だ血が滴れ、ぬめりとした怪しい輝きを放っていた。
「ほう。こりゃ美味そうだ。やっぱ若い女の肉は食指をそそるなあ。やっべ、よだれが出てきそうだ」
「はは。じゃあ裂島くんもお腹を空かせていることだし、さっそく食べようじゃないか」
我慢しきれない様子の裂島を見て、津山が可笑しそうに笑声を上げつつ、フォークを手に取った。
それを見て、他の者たちも合わせるように各々フォークを手にして、肉に刺した。
ぶすりと刺したフォークから、血が沸いた。独特な血の匂いが鼻腔を突く。同時に、腹の虫が我慢ならないと鳴き声を上げた。
次々に溢れる唾液を嚥下しつつ、宗睦はゆっくりと口内に肉を放り込んだ。
人肉特有の香りが鼻を通り抜け、濃厚な味が舌の上で踊る。
思わず瞑目しながら味わうようにじっくり咀嚼していると、
「これは、なかなかの一品ですわねぇ」
と、先に食べ終えた来見がうっとりと頬に手を当てて感想を漏らした。
「柔らかく、ほどよく油も乗っていて、噛めば噛むほど甘味が増す。やはり若い女性の肉は質が良くていいですわ~」
「僕も同意見です。基本的に子供の肉ばかり食べていますが、こういった成人した女性の乳房は脂肪分も集まりやすくて実に美味しい」
「久しぶりの若い女の肉、マジでうめぇ~!」
「はは。喜んでもらえたようでなによりだよ。主催者として恥もかかずに済んだしね。なあ美奈?」
「そうね。あの子を買った甲斐もあったわ」
恍惚とする三人を見て、津山と美奈は嬉しそうに互いを見やった。
「はー、うまかったうまかった。そんで? 次はどの部分を食わせてくれるんだ? やっぱ尻か?」
「いや、先に進もう。あくまでも今回の目的は食べ比べ──あまりここで食べ過ぎてしまうと、後がどんどん不利になってしまうからね」
ナプキンで口許を拭いながら、津山がそう問いに答えた。順番的に最後になってしまうので、宗睦にとってもありがたい話だ。
「おっ。じゃあ次は俺だな。坂木さん、頼んだぜ」
「承知しました」
軽く頭を下げた後、坂木は使用人たちにバラバラにされた死体の片づけを任せ、奥の通路へと引っ込んだ。二番手である裂島の自慢の一品を取りに行ったのだ。