第7話 御影先輩、勝手に妄想して勝手に怒る。
(御影視点)
朝から少し蒸し暑くて、髪がまとまらない。
湿度で不機嫌気味だったのに──
「テシヲさん〜、ほんと助かりました〜!」
隣の部署の女子社員が、嬉しそうにテシヲくんに話しかけていた。
……なんで、笑ってんのよ。あんなにニコニコして。
私が話しかけたとき、そんな顔したことあったっけ?
……別に。別に、気にしてない。
---
(え、なに?なに?昨日の帰りとか一緒だった感じ?)
(LINEとか……してたりするの?)
(それとも……まさか、週末にデート?)
仕事中なのに、視線がそっちに向いてしまう。
モニターに向かってるのに、心ここにあらず。
ふと見上げると、また笑ってる。
(なにそれ。なんで。……なんで、あの子には笑うの)
(わたしには……笑わないくせに)
---
「御影先輩、大丈夫ですか?なんか、ちょっと機嫌悪そうというか……」
「……別に。怒ってなんかないわよ?」
(怒ってるって気づいてよ、ばか……)
---
お昼前、隣の後輩女子が耳打ちしてきた。
「御影先輩、さっきのあれ、マクロの話だったみたいですよ〜。テシヲくんが昨日組んだのが動いたとか」
……は?
マクロ?
って、それ、仕事じゃない。
(……自爆……っ!!!)
---
午後。私はずっとそっけなかった。
顔が熱い気がするけど、気のせいだと思いたい。
「御影先輩、ほんとに大丈夫ですか?顔赤いような……」
「……湿気でメイクが崩れただけよ。あと髪がまとまらなくてイラついてるの。……それだけ」
「……なるほど」
(なんでそう素直に信じるのよ……ばか)
---
その日の帰り道。
「じゃあ、お疲れさまでした!」
「……おつかれ、テシヲくん」
エレベーターの中、沈黙。気まずい。
「……御影先輩。明日もマクロ関係で相談いいですか?」
「……ええ。仕事の話なら、ね」
(私情は……まだ、持ち込まないって決めてる)
(でもちょっとくらい……優しくされたら、またぐらつくかも……)
(……もう、ほんと。なんなのよ……)
---
その夜。
私はベッドの上で、スマホを見ながらぼんやり思っていた。
(……結局、気にしてるの、私の方なんじゃない)
顔にクッションを押しつけて、足をバタバタさせた。
「──ばかぁ……っ」
自分で作った妄想に、自分で嫉妬して、そして勝手に爆発して。
恥ずかしさでどうにかなりそうな一日だった。
でも──少しだけ、心の奥があったかかった。
(……やっぱり、あの人、ちょっとずるい)