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思い出にならないように  作者: 遠藤 敦子
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 人見知り。内向的。人にも環境にも慣れるのに時間がかかる。村川(むらかわ)小春(こはる)はそんな性格の子どもだ。他の子どもに比べると友達は少ないし、幼稚園では少ない友達かお気に入りの谷口(たにぐち)雛子(ひなこ)先生ーー25歳の若い先生。ボブヘアが似合う可愛らしい雰囲気で優しい副担任の先生ーーにべったりして過ごすことが多かった。そういうわけで、小春の幼稚園での様子を写した写真はどれも谷口先生と手を繋いでいるものだらけだ。谷口先生から離れたくないのもあり、小春はなるべく谷口先生のそばにいるようにした。


 そんな小春の数少ない友達である加藤(かとう)早希(さき)にはアレルギーがあり、他の子どもに比べると食べられるものに制限がある。卵も小麦粉も甲殻類も牛乳も蕎麦も、早希は食べることができない。早希は幼稚園の給食の代わりに弁当を持参しており、他の子どもが飲んでいる牛乳も早希は飲んでいないのだ。小春は、早希がいろんな子どもから

「早希ちゃんはいいなあ、あんなまずい牛乳飲まなくて良いから」

「ケーキもオムライスもスパゲッティも食べられないなんてかわいそうだね」

「じゃあ早希ちゃんはいつも何食べてるの?」

「嫌いなもの食べなくて良いから羨ましいな」

 などと気の毒がられる様子も羨ましがられる様子も興味本位で質問される様子もたくさん見てきた。小春は心の中で、そんなこと言うもんじゃないよと相手の子どもに呆れている。実際にそのやりとりを聞いていた担任の屋名池(やないけ)徳子(とくこ)先生ーー50代のベテランの先生。子どもは大学生で実家から出て1人暮らししている。ショートカットが似合うサバサバした先生ーーも、

「早希ちゃんは好き嫌いで食べないわけじゃないんだから、そんなこと言うんじゃありません」

 と嗜めていた。早希本人はそう言われても気丈に振る舞っていたけれど、実際には傷ついているのではないかと小春は考えている。


「小春ちゃん、見て! 今日の私の弁当箱、さんかく子ちゃんだよ」

 ある日の給食の時間、早希は小春にそう言って弁当箱を見せてきた。さんかく子ちゃんは小春のお気に入りかつ、毎週日曜日の18時から放送されているアニメだ。早希は小春がさんかく子ちゃんを好きだと知っていて、さんかく子ちゃんの弁当箱の可愛さを共有したかったのだろう。

 早希の弁当箱の蓋にはさんかく子ちゃんが真ん中に描かれており、左右にはうさぎとくまとピンクのチューリップが描かれている。小春は早希に

「いいな。それどこで買ったの?」

 と訊いてみた。しかし早希からは

「ママがどっかでもらってきたやつだから、私はちょっとわからないんだ。ごめんね」

 と返ってくる。ではどこに行けばさんかく子ちゃんの弁当箱がもらえるのかと小春は考えたけれど、なかなか答えは出なかった。

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