何か起こりそうな気がする、なんて言っちゃうと大体の物語ではフラグが立つものだね。
それから3日後。
猫カフェの開店準備中のとき、ランド兄がそわそわして話かけてきた。
「ねえ、レイカ。今度の定休日、ちょっと実家に帰ってきたいんだけど。」
「ふーん、彼女を両親に紹介するの?」
展開早いなあ。
猫達にご飯をあげて頭をなでていく。
「本当はついてきてほしいんだけどね。レイカにも。」
「エリーフラワー様のお世話もあるし。無理だわ。」
「そうだよね。」
「アラ、ランちゃん里帰り?行ってらっしゃい。
護衛はヤー・シチ養父さん達に頼みましょう。」
アンちゃんがヒョイと顔を出した。黒猫のクロタを抱いてる。
アンちゃんが撫でても逃げない良い子だ。
「護衛だなんて。俺たちに?」
そこに天井から降りてきた、黒い影。
「レイカちゃんは義娘。そのお兄さんですから。
大きな意味で家族のようなもの。」
ヤー・シチさんだった、聞いてたのね。
そこで声をひそめて。
「護衛というより、メアリアン嬢の見張りです。
彼女がこの公国についてからはずっと交代で付いてるんですよ。
誰ぞに利用されないようにね。」
ええー、大変そう。
「そうだった。ウチはしがない男爵家だもんな。」
「まあ、あんなに見かけが変わったら彼女が今更、元王女と名乗ってもわかりませんけどね。」
次の定休日2人はウチの実家のモルドール領へと向かった。ヤー・シチさん達付きで。
さて、うちのレストランとカフェの構造は簡単にいうとこうだ。
まず、誰でも入れる猫カフェがある。
時々奥のスペースが占いコーナーに早変わりだ。
裏口には食材の搬入コーナーがある。
そことカフェとの間は簡単なキッチンもあって猫カフェの調理はここでやる。
その隣に事務所があって、だいたいはランド兄がいて、そこで各種受付をしたり、その他の事務仕事をやってる。カフェの従業員の休憩スペースもある。
さらに反対側に隣接して忍びたちの詰所。四階建てだ。
各地の忍びたちが立ち寄って情報交換するらしい。
ランド兄さんや住み込みの忍びたちの部屋もある。
風呂とトイレは各部屋にある。洗濯室は各階にひとつずつ。
女子と男子はスペースが分かれてる。
四階は女子で今はメアリアンさんも住んでる。
三階は男子でランド兄さんはずっとここだ。
猫ちゃん達のお部屋は一階にあって、夜はそこに戻るよ。
二階は立ち寄った忍び達の宿泊、休憩スペースあり。
会議室と倉庫、食堂。彼等はほとんど自炊だ。
たまにウチからつくって差し入れする。
さて、隠れ家レストランだが。
猫カフェの奥にスタッフオンリーの扉があって、
そこがレストランの入り口だ。
さらにその奥が私たちの居住スペースなんである。
今はエリーフラワー様御一家もこちらにいる。
(更に奥に王都への隠しルートあり。切り通しを使ってね。)
おわかりいただけただろうか?
さて定休日だし、
居住スペースでエリーフラワー様たちとゆったりお茶を飲んでいた。
「平和ねえ。」
「ホントですねえ。」
「んー、ねえ。」
ミネルヴァちゃんの真似っこも可愛い。
「何も起こらないと良いけどね、ふふふ。」
「起こらないでしょ、嫌だわ、あはは。」
もちろんこういう時は何か起こるものだ。
物語では。
「レイカちゃん、ちょっと。」
ほらね。アンちゃんが来た。
後からエドワードさんもだ。
「2人はゆっくりしててね。エドワード、頼む。」
「おお、そうでござるな。三人でキューちゃんと遊ぼうか。」
アンちゃんに誘われるように外に出た。
忍びの詰所の二階へ。
そこにはネモさんとヤー・シチ夫妻、カレーヌ様。
肩に包帯を巻いてるランド兄がいた。
メアリアンさんは怖い顔をして立ち尽くしている。
ヒモでぐるぐる巻きにされてるのは、
金髪おさげのカレーヌ様の部下の女の子じゃないか。
あ、良くみたらヒモではないわ。デカいスネーク、スネちゃまだ。
「兄さん!どうしたの、怪我!?」
まず、ネモさんが口を開いた。
「ウチの領内を出たらすぐにね、この女がナイフで襲ってきたらしいんだよ。
ちぇぇぇすと―――!!
って言って、メアリアンさんを刺そうとしたらしい。」
「3日前にね、いきなり辞表を出して探さないでくださいって。いなくなったの。
失恋のショックだと思ってあまり大騒ぎにしなかっ
たの。そのうち戻ってくるかもと思ってた。」
と、カレーヌ様。
「私たちが取り押さえましたけど、ランドさんが彼女を庇ってかすり傷をね。ごめんね、レイカちゃん。」
「いえ、そんな、オー・ギンさんが謝ることでは。」
「ランちゃんもね、騎士団あがりなんだから、咄嗟に身体が動いたんでショ。」
ネモさんが腰をおろす。
「定休日に2人がウチの国から出る、ということをこの女は掴んだんだ。
それで外に出て待っていた。
悪心を抱いた段階でうちの国には戻れないからね。
彼女を拘束している蛇は、塀の上に潜ませている子だよ。」
「ご丁寧にこの女はナイフに毒を塗っていた。
肩はツッチーの範囲の外だったから。」
傷がついたんだよとアンちゃんが言う。
「え、大丈夫?」
「うん、今ねツッチーが今度は肩に張り付いてね、毒を吸い出してくれてるんだ。すごいよ。包帯で覆ってるけど。」
ランド兄さんの顔色はいい。良かった。
「何でそんな女をかばうの。その女は亡国の王女で私たちの国を滅ぼした原因でしょう!
理不尽ないのりを捧げさせられて、巫女仲間は何人も倒れたのよっ!」
カレーヌ様が心底不思議そうに、嘘をついた。
「アナタ、何を言ってるの?この人のどこが王女なの??
アナタが言ってるのはアメリアナさんのこと?
…似ても似つかないじゃないの???
それに彼女は、亡くなってるのよ。」
「何を言ってるんですか?カレーヌ様。
昔馴染みだとおっしゃったでしょう?
他の忍びもそう言ってました!!」
カレーヌ様の表情は動かない。すげえな。
「彼女は昔、ウチに仕えていた使用人なのよ、
メアリーと呼ばれていた困ったちゃんがいたのは、みんな知ってるわよ?」
※ちなみにほんとに困ったちゃんのメアリーさんは実際にいたらしい。
まあよくある名前だし。
「…え?でも??」
「アナタに誰がそんな嘘を吹き込んだの。
それで、私の義兄のランちゃんに怪我をさせるなんてねえ!!」
うわあ。ブラックなアンちゃんだ。
「助けて、ランドさん!――私のおまじないは
効いてないの?!」
「あんなキモいもの、キューちゃんが処分してくれたよ。」
「――キューちゃん?なに?誰なの?」
一同静まりかえった。
ヤー・シチさんが連れていった。
奥で調べるんだろう。
「ウチの忍びではではないわね。
あんなインパクトのあるキューちゃんの情報を流してない。」
「では、どうして?私のことを?」
カレーヌ様が難しい顔をしている。
「私を疑ってるのでしょうけど。
私はあの子には何も話してませんわよ。
ランドさんに彼女が出来た、というのも彼女から聞いたくらいですから。」
「盗聴?」
「レイカさん、それは!」
「エリーフラワー様が作った集音器や内線をコッソリ聞いていたのでは?」
「こないだ調子が悪いからって言ってたワね。
まさか、あれは本当だったの?」
「そう言えば彼女、ランドさんにアタックしたいからって。私と別行動した事が何回かあったわ。」
カレーヌ様の発言。
「俺のところにはほとんど来てませんよ。ハンカチをもらった時ぐらいです。」
「その通りです。忍びが沢山いるのに大胆なものだ。」
ヤー・シチさんがきた。
「少し締め上げたら吐きましたよ。納品してるときにコッソリ事務所の奥で聞いていたそうです。
忍びたちの中にはランドさんの彼女と認識してる者もいましたから。
出入りしても気にしなかったとか。
特にカレーヌ様のご主人と一緒に来たときなんか、
この後、彼氏のランドさんに送ってもらう、と言って残っていたらしい。ビックリですな。」
「内線の受話器を耳に当たると、他の部屋の内線の会話が聞こえたことがあるわ。」
オー・ギンさんが言った。
「それで知った情報を断片的に繋ぎ合わせた訳ね。
けっ。
しかもそれを俺ら忍びが漏らしたって事にしたのか!」
アンちゃんの目は怒りに燃えていた。