話をきいて。五分だけでも。
「おとーさんに、そっくり!うわわわん!!」
「え、ええええええ!」
目の前ではランド兄が女の子に抱きつかれている。
「あのさあ、俺まだ21なんだよ。せめてお、おにいさんにしてよお!?」
「ヤダワ。この子14歳なんですって?ランちゃん、七つの時の子供?ぷくくくく。」
「…そんなわけ、ないでしょ。もおお。」
この子は先日保護された、森を抜けてきた孤児のうちの1人だ。
薄い茶色にくりくりとした緑の目の女の子だ。
もうひとりは牧場に行ってるらしい。
アニマルカウンセリングと言うことで、ネコカフェに来たんだけど、ランド兄を見た瞬間抱きついてきた。
「さアさア、お嬢ちゃん。離れましょう?」
「そうそ、お兄ちゃん困ってるわよ。」
眉間にシワ、こめかみに青筋を立てて少女を引っ剥がすのは、イリヤとショコラ。
ランド兄さんにホの字の2人だ。
「ふーーーん。確かに似てるわね。」
目をほそめるメアリアンさん。
「わかるの?」
「ええ、レイカさん。ここにこの子のご両親きてるわよ。」
「えっ?」
「えーと、貴女はサマンサ?
お父さんはあなたをサミー、お母さんはサディと読んでるわね?」
「何で知ってるの!」
「だって、聞こえるから。あなたのことを心配してるわ。
おじさんのところへ行けと言ったけど、おじさんも亡くなったのね?
横で面目ない、どうも、すみません。と言ってるわ。」
こんな感じでねと、頭に手をやるメアリアンさん。
あら。昭和の爆笑王林家三平を彷彿とさせる、どうもすみません。ポーズだな。
「それで悪者に捕まりそうになって逃げてきたのね。途中でもうひとりの子供?ポーリイにあったのかしら。」
「はい、そうです。お姉さん占い師?」
「ええ、占い師兼ネコカフェの店員。メアリアンというの。」
「そんなにランド兄さんに似てるの。お父さん。」
「うん。」
確かに。この子の緑の目はモンドール一族によくある色だ。
私も、兄達も、父もこの緑の色である。
「さてお嬢ちゃん、ワタシがここのオーナーのアンディよ。
とりあえず体験で働いてごらん。家業は何だったの?」
「小さなお店やってました。」
「じゃア、接客業の手伝いね。
ーー、アンタたち?イジメんじゃないワよ。」
アンちゃんがチラリとひとにらみするとみんな震え上がった。
「ちょっと、ランちゃん来てくれる?帳簿がさ、、、」
さりげなくランド兄を奥に連れていく、アンちゃん。
「面倒な予感がするわね。ランちゃん、一応聞くけど、あのクノイチ達とおさげの彼女に興味はないの?」
「おさげの彼女?カレーヌ様のところの?なぜ?
こないだハンカチをもらったけど??」
「なんで?」「知らないよ。」
見せてもらった。
物凄く気合いの入った刺繍だ。
虎とドラゴンである。
(この世界のドラゴンは西洋タッチだ。)
まるで横須賀名物のスカジャンのようだよ。
あ、タイガーアンドドラゴンかあ!
俺の話を聞けなのか。
「じょ、上手ねええ。」
エリーフラワー様ものぞきこんでる。
その反応、引いてますね?
「ここ!と、ここと!ここにあったよ!なんか、かいてる。」
ミネルヴァちゃんが小さな指でさして教えてくれる。
麒○ビールのラベルのように、小さな字がいくつか隠れていた。
「ま、さ、い、ち、の、ド、ラ、ン?
どう言う意味かしら?まさいち?いちまさ?
人名?」
ドランはドラゴンの略かしら。
まさいちさんのドラゴン??
「レイカちゃん、違う。たぶんね、
ラ、ン、ド、さ、ま、い、の、ち…」
ランド様命かよ!
「うわああー、何これ!怖いよう!!」
悲鳴をあげるランド兄。
「隠された奥ゆかしきメッセージでござるな。」
「ランド様、推し。の方が今どきよね。
「逆に、
ランド様参るとか、ランド様おもとに、
とかならゆかしくてポイント高かったワ。」
「みんな面白がらないでよおっ!」
そこでアンちゃんがランド兄に向き直る。
「さっきさ、ランちゃんあの子に抱きつかれてどう思った?満更でもなかった?」
えっ。我が兄はロリコンなのかっ!
「な、何を言うんですか。確かに女の子に抱きつかれたのは初めてだから、ドキドキしたけど。」
「なるほどねー。」
アンちゃんは額に手をおいて考えこんだ。
「にゃるほどねー。」
ミネラヴァちゃんもマネをする。可愛い。
「ええと、エドワードくん。ちょっと愛娘さんを猫と遊ばせてあげて?」
「ガッテン承知のすけであります。
ミネちゃん、おいで。」
「さてと。」
アンちゃんはランド兄に向き直った。
そして指さす。
「アナタはチョロい!こんな事ならあのクノイチ達をけしかけて、ボディタッチしまくらせるのだったワ!」
そしてずずいっと、兄の方へ寄る。
「今、アナタの頭の中はあの子は14かあ、後2年で結婚出来るかも!と思っているわネ!」
「そ、そんな事はないよう!」
青くなる兄。
エリーフラワー様は笑いをこらえてる。
「だから馬鹿正直なダーリンを外に出したのね。」
なるほど。エドワード様が誤解してロリコン!
娘が危険!と思いこんだら困るからか。
「ようし!ギュッとな!」
「きぃゃぁぁああっ!」
アンちゃんがランド兄にいきなり抱きついた。
「ふふふ。私の熱い抱擁はどうかしら?」
「うひいいい。ドキドキしますっ!
命の危険を感じますう!」
「ランド兄さん。まだソレ、アンちゃん10のうちの2のちからしか出してないから。大丈夫、大丈夫。」
「何が大丈夫なのー?!何なんですか??」
「いや、こうやって抱擁に慣れさせようかと?」
エリーフラワー様は膝を叩いて笑い出した。
「お、お助け…」
その時、ランド兄の背中が赤く点滅した。
「うわ、眩しい。」
ぱたり。
アンちゃんが手の力を思わず緩めると、ツッチーがランド兄の背中から剥がれて、
跳ねていった。
それから間も無くドアがバン!と開いた。
「ランド様に何を!いくらアンディ様とて、許せませんわ!」
「あら。ツッチーが選んだのはアナタなの。」
そこには、ツチノコを抱いて仁王立ちをする、メアリアンさんの姿があった。
タイトルはタイガー&ドラゴンの歌からです。