女三人よれば、姦しいにも程がある。
エリーフラワー様は大分元気になっていきいきしてらっしゃる。
「まず、これを作ってみたの。以前レイカさんが言ってた、内線よ。」
「ええ!すごーい!これでカフェ、レストラン、居室、事務所と連絡が簡単ですよね。」
「そのうち外部とも連絡がつくようにしなくっちゃ。」
「王妃様の別荘と、駅と、ネモさんとこと連絡取りたいです。」
「あと、スイーツ納品してもらうから、カレーヌ様にもね。」
ニヤリと笑うエリーフラワー様。
「私に気をつかって納品は彼女のご主人がしてるんでしょ、ネコカフェ、繁盛してるらしいじゃない?」
「少なくとも赤字ではないですね。」
「そう、それで私も以前より丸くなったからね。
あの子と会っても、、良くってよ。」
あら。エリーフラワー様ったら、赤くなってる。
「わかりました。今度呼びますね。」
午後。モジモジしながらカレーヌ様が現れた。
「お、お久しぶりですう。」
アンちゃんも気を使って席を外したから、エリーフラワー様のお部屋で歓談だ。
ミネルヴァちゃんと王子さまたちは今日は猫カフェだ。
エドワード様が見てる。
きっと、キューちゃんもね。
「いつもお買い上げありがとうございます。
コレ、新作のレモンパイ。ヨーグルトムース。」
「何気に酸っぱいものばかり?」
「妊婦さんはそういうのが、いいのか、と。
…痩せたわね?」
「これでもレイカさんのお料理で戻ったのよ。」
「彼女のお料理は美味しいもの。あのドリアの味が忘れられない。」
「わかったわ。お昼に出すわね。具はチキンとコーンとベーコン、ほうれん草とマカロニでいい?
あと、玉ねぎと人参は入ってるけど。」
「ありがとう!美味しそう!」
「ここは海産物がね。手に入らないから。」
エリーフラワー様が言う。
「グランディ王国をぐるりと回る鉄道が少しずつ完成してるから。そのうち流通も良くなるわよ。」
頷くカレーヌ様。
「領地が増えたから。もとギガント王国を取り込んでね。
それもみんなネモ様のおかげね。
エリーフラワー様。
あの時、こちらを紹介してくれてありがとう。
貴女のおかげですわ。ずっとお礼が言いたかったの。」
あの私たちの結婚式の時かあ。
突撃してきたな。
旦那様の御実家のひつじ牧場は立て直せたのか。
ローレン家だったかな?
で、今はローラン家か。
ややこしやー、ややこしやー。
野村萬斎もびっくりや。
カレーヌ様が言うことには。
「えーとね、夫のところは息子が三人だから。
次男のうちが外に出て、弟も出たからなんとかね。
やはりね。パイの奪い合いになってたから。」
その手はレモンパイを切り分けてる。
「ふーん。息子三人で領地を分けあうのは無理だから、総領息子が総取りって事ね。」
「そうよ。でもウチはスイーツで食べていけるし。お土産としてのクッキーも上々の売り上げなの。
サーカスや牧場の売店で、動物クッキーが良く売れるのよ。」
「こんなふうにあなたと穏やかに女子会が出来るなんてねえ。
スイーツの腕は御実家で磨いたの?」
「そう。リード様に食べて欲しくて。
ありがとう、と受け取ってもらったけど、、毒見でぐちゃぐちゃになってたわ。
クッキーなんか原型とどめてない。」
「王家への差し入れで良くある話ね。」
うん、普通は受け取ってもらえないのだ。受け取ってもらえただけでも凄い。
「アンディが取り持ってくれたからね。」
ああ、なるほどね。
ふふ、と笑うカレーヌ様。
「レイカさんと幸せになってくれて良かったわ。」
「あっ、ハイ。」
「もうひとりの兄みたいだったから。
だからあの時混乱したのよ。まずびっくりした。
…それから安全だと思ってた足元が崩れたような気がしたの。」
「あーそれは。」
「わかるわー。そういう対象と思ってなかった人から、そんな目で見られてると、わかったら引くよね。
ねえ、レイカさん、セバスの時そうだったよね?」
「ええ。まったくその通りです。」
なるほど。アンちゃんには全く脈がなかったのか。
すがすがしいほどだ。
気の毒だ。
アレだけ尽くしてたのにな。
「それで今、お幸せなのね?カレーヌ様。」
「おかげ様で。きつい義実家から出たから、気楽にさせてもらってるわ。
ここは天国の様なところだし。」
「それは同意するわ。そういえばカレーヌ様。
本当のお兄さま、ジャスティン様だっけ?
お元気なの?御実家とはどうなってるのかしら。
…アラ、このパイ美味しい。上にのってるレモンの砂糖づけがいいお味よ。」
「あら、エリーフラワー様。ありがとう。
そのレモンはね、私の実家の領内のものなの。
母とはやりとりしてるのよ。
父と兄とは一応縁を切ったことになってるから。
でも、時々会ってるの。
兄はこないだ、元執事の娘?がやらかしたから、
王都に呼ばれてね、帰りに寄ってくれて。
レモンもその時持ってきてくれたわ。
無農薬でお子様にも安心なの。」
キーナの件か。そこまで、飛び火したとは。
紅茶のおかわりを入れる。エリーフラワー様は妊婦だから最近は紅茶ばかりだ。
カルシウムも取ってねと、ミルクたっぷりだよ。
「キーナねえ。随分振り回されたわね。」
「私は面識あるわよ。いつもアンディをじっとりした目で見てたもん。
そういえば、レイカ。アンディのどこが良かったの?」
「えっ!?いや、カレーヌ様、貴女がソレ聞く?」
「私も気になりますわあ。ビックリしたわ。」
2人とも目がランランと輝いている。
「私のイメージだと、
アンディはチャンチャンバララと人を切り付けて、切ったら血が出た、ダーラダラ、って感じなのよ。」
「私のイメージも、ヒャッハー!狩りだ狩りだあっ!!と暴れ回ってる感じですわ。」
「ええー。そんな暴れん坊のイメージですか?」
「「うん。」」
仕方ないなあ。話すか。
「ええとですね。背中に哀愁を感じましてね。」
「え?」「アンディのことよね?」
「もちろん。何か元気がない背中を見ると、しっかりせえ!!と、気合いを入れてあげたくなりまして。」
(カレーヌ様、貴女に振られた時ですよ。)
「それにまだ若いのに、苦労してるなアって。」
「…あなたより9つは上だと思うけど…。」
「わたしは、中身は王妃様と同年代ですよ。」
「そうだったわね…。」
「それに一緒にいると楽しいですよ。色んなことが
起こりますし。
猫に塩対応されると、しゅんとするところは可愛げがありますからね。」
「あ、うん。確かに色々あったと思うわ。」
「猫に嫌われるなんて、ヤバイ奴だという発想はないの?」
「まぁ根は親切でいい人ですよ。」
「…そうね、そうかも。」
「貴女でなければやはり扱える人ではないわ。
レイカさん、アンディ様のことが大好きなんですね。」
「?大好きですよ、当たり前ではないですか。
でなければ結婚できませんよ。」
あらら。
嫌だわ、恥ずかしい!とか言わせようとしたのかしら。
エリーフラワ様。目が笑ってますよ。
もうそんなみずみずしさは無いのよ。ごめんね?
ガタン!
ドアを開けると、アンちゃんが真っ赤になって座りこんでいた。
アラ、、聞いてたの??
「エリーフラワー様!!わざとですね!!
ワザと聞かせましたねっていうか、誘導しましたね!」
「ああら、私は集音器と内線のチェックをしなくっちゃ!と言っただけで、アナタに今聞け、とは言ってなくてよ。」
「もおおっ、信じられないワ!!」
アンちゃんは赤い顔のまま出ていったよ。
私の枯れた対応がかえって良かったようだ。
何よりである。
「ふふふ。本当はアレでしょ、私がちっともアンディに気がなかったことを、聴かせようとしただけなんでしょ。」
「勘違いの芽を詰んでおかなくてはね。
まだ周りの忍びには貴女がアンディ様の元彼女だと思ってる人がいるのよ。
コレで貴女も遊びにきやすくなるでしょ。
ふふふっ?
レイカさんのノロケは計算外だったけど、
結果的には良かったんじゃないの?」
やっぱ、貴女凄いわ、エリーフラワーさん。