難しい、こんくらべ。
久しぶりに王妃様に呼ばれた。
「せっかくの里帰りだったのに残念だったわね。
まさしく嵐を呼ぶ女ね。」
「ドラマーでもないんですけどねえ。」
「ブランデーグラスを持ってブラインドを下げたりしてね!」
ほほほ、うふふと、前世トークが盛り上がる。
ああ、楽しい。
「久しぶりにミニキッチンで何か作ってくれないかしら。」
「はい、リクエストはありますか?」
「揚げ出し豆腐!ふろふき大根、胡麻和え!」
ザ・和食だ。お疲れなんですねえ。
胡麻和えはきゅうりと人参でいいか。
あとは鮭の南蛮漬けも作ったよ。
今は三月だな。菜の花とかつくしとか取れないかな。筍とかね?
「そういえばパンダちゃんが竹食べてましたから、
竹はあるはずですよね。」
「いいわよね、筍ごはん。」
そこへ2人の男性がやってきた。
「紹介するわ。新しいガード兼側近よ。
ゲン・ノジョー夫妻が怪我で引退したから、ジークとフリードはリードつきにしたの。」
ガタイがいい2人はジョーとジョンソンと名乗った。
「何度かお見かけいたしました。アンディ様の奥方ですね。」
「先日の戦での、ご夫君のお働きお見事でした。アレを鬼神と言うのでしょうな。」
目がキラキラとしてアンちゃんへの憧れで満ちている。
家ではただの猫好きのお兄さんなんだけどね。
「第一騎士団出身よ。」
「まだお名前はそのままなのですね。」
「は!早く王妃様から新しいお名前を頂戴するように頑張ります。」
「何か良い名前ないかしら?ニン・ザブローとか?
でも相方がイマ・イズミではイマイチよね。」
「田村正和お好きなんですねえ。」
料理ができたので毒見を頼む。
「美味しいですね!」
「これが伝説の。」
そこへ。
「定点観察してましたの!御相伴に預かりますわ!」
エリーフラワー様だ。相変わらず自由だな。
まあ、お世話になったからこの後顔をだそうとは思っていた。
カニ缶を持ってね。
「いらっしゃるかと思って多めに作っておきましたよ。」
「そういえば、かつおぶし出来そうよ。」
「えっ!本当ですかっ!!」
「ヴィヴィアンナ様がね、こないだ昆布を見つけた村に問い合わせて下さったの。
木のようにかたい、魚ね。標本があったんですって。それにやはり100年くらい前までは作ってたらしい。文献もあったわ。」
ほほう!
「そこの表面からカビを採取してね。色々試行錯誤してみたわ。
今ネコちゃんに食べてもらって味覚チェックしてもらってるの。
出来上がり次第送るわね。」
「猫にかつおぶしっていうからね。かつお出しのうどんも楽しみね。ほはほ。」
「嬉しいです!これで小魚の干物をすりつぶさずにすみます。」
「そっちも最近フードプロフェッサーなるものを開発したから、楽にはなってるわ。
まあ、それもレイカさんのお話からのヒントよ。」
「離乳食や病人食の裏ごしやすりつぶしが簡単にできるって。聞いてるわ。前世のミキサー食ね。」
「かつおぶしが手にはいるなんて。ヴィヴィアンナ様にも、お礼を言わなくては。」
お二人が舌鼓を打ちながら真顔になった。
「ちょっと人払いを。」
「はっ。」
何だろう。この雰囲気。ヴィヴィアンナ様に何か?
「あのね、私が元気なうちに提案すれば大丈夫だとは思うけど。」
「ブルーウォーター領の事ですね。」
と、エリーフラワー様。
「ええ、流石に察しがいいわね。」
「レイカ。あなたならバチカン市国のことはわかるわよね。
あんな風に独立した国にしたらどうかとも思うのよ。ネモを中心としたひとつの国をこのグランディ王国の中につくる。」
「先日。ネモさんが動物を使ってギカントを滅ぼしたから、ここの貴族たちが恐れているんですね。」
確かに。あの人ならこの国を手に入れられる。
「クーデターを恐れてるなら最初から独立を許可すればいいのよ。そして良き隣人として過ごす。」
「ネモさん自身はそんな事考えてないのでは。」
「そうね。レイカ。
私がネモの母アリサを救ったのだから。今度ネモの妻になるローリアもね。
私がいるうちは、きっと大丈夫。
だけど、次の世代は?」
「もちろん、彼の子供にそのチカラは受け継がれないかもしれません。だけど彼より大きなチカラを待つかもしれないですからね。」
エリーフラワー様のおっしゃる事は最もだ。
「アンディさんが言ってたのはこの事なんですね。
王妃様にお考えがある、エリーフラワー様も気がついてる。」
「アンディが。そうね。次の王のアランにも関係あるものね。
とにかく独立した国とするわ。
そこの代表は代々"根比べ”で決まる感じの。」
「コンクラーベですよ。煙の色でわかるんです。」
「流石レイカ。ナイス突っ込みよ。」
王妃様はふふッと笑った。
だけどすぐに。
何か言いにくいことを言わなきゃ、という感じで表情が硬くなった。
「独立を認めてもそれでも安心しない貴族がいるかもしれない。
ネモがよくても、国民は不満を持ってもっと領土を拡大したくなるかもしれない、やはり締め付けるべきでは、と言う意見もあるのよ。」
「あのUMA軍団や猛獣に勝てるわけがないわ。
蝗害でさえ操れるのに。」
と、食後のコーヒーをすするエリーフラワー様。
「それでね、もうひとつの案は。
リード夫妻をネモのところへ送って、形だけでも領主にすることなの。実際にはお飾りか、人質かしら。
自治は認めるし、ただ代表がネモかリードかってことなの。
…リードは私のいう事には逆らわないわ。
多分、ネモも。
この場合は独立国家ではなく、あくまで自治領
ね、私が元気なうちに決めなきゃ行けないの。」
なるほど。
何故かヴィヴィアンナ様の花のような笑顔が浮かんだ。