ジャスミンティーではないけど、眠気誘う薬。
ヤー・シチさんたちも来てくれた。
「ここの守りは私たちがいたします。」
「ランドさん、悪いけど案内を頼みます。
白鬼。お前には何かと言いたいことがあるが、とりあえずアンディと暴れてこい。
ーーレイカさんたちに近づくな。」
「さあ、話して下さいな。」
オー・ギンさんがパティさんに話しかける。
「はい。あの、父からこの薬を渡されて。
まず、ランドさんの枕元にたらせ、と。
その後、他の部屋にも入って撒いておけって。
レイカさん達は長旅で疲れてるだろうから、念入りに、良く眠らせてあげなさいと。
その後私もランドさんのところで添い寝しておけって。」
「なるほどね。」
オー・ギンさんの顔はひきつっていた。
「貴女のお母様は?何か言ってた?」
「いいえ?最近借金の取り立てがキツくて。顔色が悪くて元気がありません。
私に良いご縁も持参金も用意できなくてごめんなさいとしか。」
「カスティンの部屋のものは押収されたはずなんだけど。」
「あの薬は兄が父に自慢していて、父が兄から取り上げたのを見ています。
どこかに隠してたんでしょう。」
「ええとね、パティさん。あなたはランド兄が好きだったの?」
顔が赤くなった。
次にヤー・シチさんが聞く。
「では、心中する気でもなかった?」
「え!何のことですか?」
オー・ギンさんと私は目を合わせた。
「いいですか?この薬は強い。貴女がまき終わって、ランドさんのお部屋に戻ったら成分が充満していたはず。
貴女も落命したでしょうね。」
「ー!!どういうことですか!
まさか父が!」
「貴女に罪を全てきせて、財産を奪って逃げるつもりだったのか。」
ヤー・シチさんは非情につげた。
「そんな!私はただ、出来ればランドさんともう一度お話がしたくて!
ご結婚が決まった、と聞いたから!」
「決まってませんよ。」
え?と固まるパティさん。
「私はね、ずっとランド兄と一緒だったわ。同じ職場と言ってもいいかな。彼女もいないわよ。」
淡々と事実を述べる。
「誰がそんなことを言ったんですか?」
オー・ギンさんが追求する。
そこに、ミルドルを寝かしつけて母もきた。
兄嫁はミルドルとこもっていて、クノイチが二人ついてる。
「ランドには浮いた話ひとつもないわよ。」
「そんな。ほんとは今回婚約者を連れて来るはずだったけど、直前でその子が腸カタルになったから置いてきたと。」
今は腸カタルとはあまり言わないな。
よく明治か大正の文豪の作品には書いてあったような気がする。
現在では潰瘍性大腸炎だっけな。
「婚約者が腸カタルになったからって、置いて来るような子では。」
母はおかんむりだ。
「ここに先日から勤めていた、さっき捕まった人がそう言ってました。名前はマックスだと。」
パティさんが続ける。
「偽名ね。」
「偽名だわ。」
先日まで敵の大将、ミズーリが名乗ってた偽名じゃないか。
「それで。ランド兄は誰と結婚するって?」
「確か、キーナ・ルーラとか。」
あの悪女の本名と偽名をくっつけてる。
安易だけどバレバレだ。喧嘩売ってるとしかおもえない。
「!!バカにしてるわ!」
「第一あの女はもうとっくに!」
オー・ギンさんの発言でやっぱりそうか、と納得する。
「ギカント国の残党ですか。まあ、そいつを締めあげれば良い事です。しかし、ふざけた名前を語りますね。」
ヤー・シチさんがにがりきった顔をしている。
そこへ。
「無事でしたか?」
「ネモさん!」
「あれだけ派手なSOSでしたから。手紙の件、王にも伝えてましたよ。」
「出来れば今度から、最初からSOSでいいですか?
恥ずかしいです、吠えるの。」
「はは、善処します。」
「あ、あの?確かレイカの結婚式にハトを飛ばして下さった?」
母が恐る恐る声をかける。
「ああ!そうです!レイカさんとランドくんのご母堂ですね!ブルーウォーター侯爵です。」
にこやかに挨拶するネモさん。
相変わらず自分の母世代のご婦人にはお優しい。
「私たちはこの、ネモ・ブルーウォーター侯爵のところに住んでるんだよ。お母さん。」
「ネモさん!」
アンちゃんが駆けてきた。
「アンディくん。ここは君たちと私とで収めよ、と。
王からのお達しだ。
それから、そこのお嬢さん。」
「は、はい。」
「アナタに悪意はなく、利用されただけなんだね。スネちゃま達が襲い掛からなかったからわかるよ。」
「へえ、なんでい、グルじゃなかったってか。」
アンちゃんが吐き捨てる。
「白鬼。そっちはどうなってる?」
「ネモ侯爵、来てくれたのか。パーツ男爵は薬づけになってたな。善悪がわかってない。
すっかりギガント国のアジトになってたよ。
奥方は保護した。ホラ。」
クノイチたちに背負われてパーツ男爵夫人が現れた。
「かなり弱ってる。病院に行った方がいいな。」
「許せないな、どうしたんだ。」
あっ、ネモさんの怒りのスイッチが入ったぞ。
「栄養失調ですね。」
オー・ギンさんが、彼女をひと通りみてから発言した。
「そんな!侍女のお給料仕送りしてたのに!ガメツ伯爵様のところで頑張って働いてたのに!」
「アンタのお給料とやらが、おふくろさんの栄養になってないことは確かさ。」
ハッキーが淡々と言う。
「…パティ、ごめんなさい…ね。せっかく貴女が働いて仕送りしてくれてたのに。逃したつもり、、だったのに。旦那様が呼び戻すなんて、
こんな恐しい、、事を。」
「レディ、もうお話しにならないで。ウチの領にいらっしゃい、お身体を治しましょう。
母と私の婚約者が良くしてくれますよ。」
慈愛に満ちた笑みで語るネモさん。
ネモさんが保護するのか。そうだろうな。
そのうち虐げられた女性の駆け込み寺になるんじゃないの。
うん?ローリアさんが婚約者でいいんだね?
「馬車を用意しました、、ゆっくりやってくれ。
この手紙を母に。
さて、パティ?さん?母上につきそうかね。
多分、後日君には取り調べがあると思うが。」
「…はい。」
未遂とはいえあそこまでやったらなあ。
「白鬼。キミが彼女たちのガードを。」
「え?でも。」
「キミは保養所の立ち上げの仕事をしてるはずだったね。
何故ここにいるんだ。ちゃんとやらないと。
ねえ、スネちゃま2号。
…え?早くカミカミして、コイツから解放されたい?
わたしのところへ戻りたい??
…しょうがないなあ。」
「は、はい!すぐに出ます!いや、今出ました!」
蕎麦屋の出前のような事をいって、白鬼は去っていった。
ふう。




