うれし、恥ずかし、里帰り。
アンちゃんの休暇申請はすぐ通った。
三日後速攻馬車に乗っての里帰りだ。
ランド兄さんも一緒だよ。
2人とも三揃いの正装だ。
私もキレイめのワンピースで。
普段はズボンで楽してるけど。
(謁見の時以外)
「色々無理をさせたからなあ。ゆっくりしてこいって。やはりアラン様はお優しいワ♡」
「あの方は王になるべき御方だとは思うよ。」
先日のハッキーの件で思っだけど、リード様はどこまでも素直なお人だ。
王は多少清濁あわせて飲み込むところがなければ。
ヴィヴィアンナ様は凛となさっていて心を簡単に読まれることもないし、他人の気持ちもおわかりになる。
自分の武器もわかってらっしゃるところも良い。王家の風格はお有りだ。リード様の補佐を一生懸命につとめておいででもある。
だけど、もしかして。
あの1を聞いて10を知る、才女のエリーフラワー様が嫁いでいたとしたら。
足りないところを余るほど補って、リード様が王になる選択肢もあったのだろう。
「そうね、アラン様が王にふさわしい。全くその通りよ。」
アンちゃんが欠伸をしながら言う。
「色々ね。懸案事項はあるけど。王妃様にはお考えがあるの、エリーフラワー様は気がついてるみたいだけどね。
今はこれだけしか言えないわ。」
おや?ランド兄さんがぶつぶつ言ってる。
「え、ええ?あの娘さんたち、何なの??ウチのモルドール領に遊びに来たいの?観光?それとも?
まさか?まさかだよね?」
赤くなったり、真顔になったりと忙しいことだ。
「ははは!良いねえ!なんかこう、甘酸っぱくてステキだワ。
そうよオ、ランちゃん、あの2人はアナタにホの字なのよ。」
「や、やややっぱり?そんなの慣れてなくってさ。」
「あら。今まで付き合った子とか…あ、ごめんなさい。」
私がそっとアンちゃんの肩に手を置いて顔を左右に振ったものだから、大変気まずそうだ。
「ええと、男子校だったし。すぐ騎士団に入ったりして。女の人周りにいなかったしさ。
それにお付き合いしたら結婚しなきゃだろ?お給料も安かったし。」
おや?アンちゃん。目を見開いて口を手でおおってる。
信じられないものを見る目だよ。
「ヤダ。信じられない。今どきこんな純真な子がいるなんて!このままでは悪い女に引っかかっちゃうわ、、、。」
「あの2人の元クノイチは悪い子なの?」
「い、いや、そんな事はないよ。ただ、割とそのね、忍びって結構刹那的な恋愛を楽しむ傾向があって。あ、私はそうじゃないわよ!!」
確かにねえ。明日の命もわからなかったらそういう感じになるかもね。
私がなんとなーくじっとアンちゃんを見ると、
「わかったワ!私が悪い女に引っかからないように、目を光らせてあげるわ!
とりあえずあの二人はどういう子かと言うとね、、」
「アンちゃん、いいよ。過ちも大切よ。ま、ランド兄さん思わぬ妊娠とお金の無心には気をつけてね。」
「レイカちゃん!何でそう達観しておばさんみたいなの!
あ!!またおばさん出てるのね!えい!えいえいえい!!」
やめて。額を押さないで!
「あの。アンディさん。あの二人について教え下さい。」
ランド兄が赤くなってモジモジしてる。
モジモジくんか、いや、あれは全身タイツだったか。
「あら。やはり興味あるのね!まずね、ワタシの前でランちゃんに粉をかけてきたことは見どころあるよ。ランちゃんが私の義兄ってわかってるんだし?」
なるほど。
「何から話そうかしら。スリーサイズ?それとも交際人数?…あ、やめて、レイカちゃん!
私を鉄扇で打とうとしないでええ。」
そんなことは言わんでよろしい!
ランド兄さんが二人について常識的な事を聞き終わった頃、ウチの領が見えてきた。
「結局ツッチーがさ、見極めてくれると思うわよ。
UMAは心がキレイな人にしか懐かないんでしょ。
やばい人には噛みついて追い払う…
なんで?アンタ私に鎌首をもたげてるのよッ!」
「ホラホラ!ウチについたよ。」
「よ、ようこそお越し下さいました。
ハイバルク伯爵様。急なお越しで充分なおもてなしも出来ませんが、歓迎いたします。」
父が引き攣りながら挨拶をする。
つまり急に来るというなよ。準備が間に合わなかったじゃない。文句言わないでね。ってことか。
「こちらこそ、ご無沙汰して申し訳ない。
御息女とご子息には大変良くしていただいてます。
お二人にも多忙のあまりに里帰りもろくにさせてあげられずに申し訳ありません。」
アンちゃんも貴族的な応酬だ。
そっちの子供達は俺が預かってるんだぞ、ってとこかな。
そこへひょこっと母が顔を出した。
「お帰り、レイカ、ランド。
アンディさんも中にどうぞ。」
「おまえ、伯爵様に砕けすぎだぞ。」
「あら、いいんですよ。御義母様。結婚式ぶりですねえ。」
「おきゃくさん?」
男の子が顔を出した。兄のところの子だな。
7歳くらいだっけな。大きなネコを抱いてる。
「お、ミルドルにミッチー、元気だったか?」
「ミケちゃん♡」
アンちゃんがキラキラした目で見つめているのは、
齢10歳を越える、ウチの主のようなミケネコだった。
ミッチーは目を半眼にして一瞬アンちゃんに目をやると、
ーーーゃ。
サイレントニャーをひとつ繰り出した。
「おうふ。」
おや、アンちゃんへのこうかはばつぐんだ。