思い込みも罪のうち
その夜。アンちゃんは帰ってきてからも口が重かった。
エリーフラワー様の推理を話すと、すごく長いため息をついた。
「凄いな。ほとんどその通りだよ。」
補足するとすれば、と続けた。
「彼女はギガントの王太后、つまりオババの手のものだった。
ウチの王子様を1人さらってオババを助ける材料にしたかったらしい。まもなく処刑されるらしいから。」
「オババを解放しなかったらウチの王子を殺すとかいうつもりだったのね。」
「あとね。侍女長は独身だったろ。あれはリヒャルトもどきの楽師の恋人だったから。彼を忘れられなかったから。」
「え!アメリアナ様と赤いきつねの親だった人?」
「赤い稲妻だよ?なんできつね??」
いや、つい条件反射で。
「ま、女タラシだったみたいだね。
キーナに利用されたんだ、いつか会わせてやるってさ。
まあ、赤いのが彼の息子だって知らなかったんだな。
そっちに接触してればさ、とっくに楽師が亡き者だとわかっただろうに。」
「今、そのキーナはどこに?」
「ある程度尋問終わって牢に繋がれてるけど?」
「明日、王妃様に会いたい。」
「え、逆に呼ばれると思うけど。2人そろって。
ど、どうしたの?レイカちゃん、なんか怖いよう。」
あら、私黒い悪魔をビビらせてるのかしら?
次の日。
「まあまあ!レイカ!それは良いアイディアね!
さっそく作らせましょう。」
数時間で完成した。
ブルーウォーターのチョーカー、鍵つきだ。
ネックレスのままだと引きちぎられるといけないから。
城の地下の階段をゆっくり降りていく。
カビくさい。地方の博物館とかこういうニオイがするなあ、湿っぽくて、ホコリっぽくて。
薬品っぽいニオイもする。
「王妃様、こんなところまで。」
両手両足を鎖で繋がれてる。薄く笑って臣下の礼を取ろうとする。
平凡な茶色の髪と茶色の目の女だ。
「ワザとらしい。」
王妃様が吐き捨てる。
「王子誘拐未遂の悪人が。…それからな、侍女長が見つかった。」
「…そうですか。その罪もですか。」
「よくもこの国の秘密をペラペラとあっちに流してくれたのう。」
「白鬼さんにしか流してませんよ?」
「レイカ殺害の教唆もな。」
「無事じゃないですか。ーーアンディ。」
「呼ぶな。」
「カレーヌ様ならよかったのに。諦めもつくのに。
なんで、こんなショボイ娘。」
「おまえが反省してない事が良くわかった。
ーーレイカ、アレを。」
ブルーウォーターのチョーカーを出す。
「コレは私が結婚祝いにレイカに送った王家の秘宝じゃ。」
「王家の秘宝は正当な持ち主以外の命を吸い取るのよ。とくにそれを盗んだ科人のね。
私のブルーウォーター今、アンタに盗まれた。」
(ことにする。)
私も真顔で嘘をつく。腹が立ってるから我ながら怖い顔になってると思う。
(当社比)
「せめてもの情けじゃ、アンディお前がつけてやれ。」
「そんなヌルいことじゃなくて、コイツの首を折らせて下さいよ。」
「あ、アンディ、やめて。」
「ア、ア?呼ぶなっていったろっ!」
アンちゃんが、顔ギリギリの壁を蹴った。
「白鬼。キーナを押さえつけよ。」
「はっ。」
え、いたんかい。ハッキー。
「何をそんなに震えておる。自分は散々やってきたのに。おお、ブルーウォーターが似合うではないか。
アメリアナ姫は女神像のご加護で助かったが、おまえはどうかのう?」
「そ、そんな、侍女長は私がやったって証拠あるんですかっ!入れ替わったけど、だからと言って!」
「ーあるよ。さっき王妃様は見つかったと言ったけど、骸が見つかったと言ったわけじゃない。」
ハッキーか。ここで1番冷静なのはあんたか。
わかったんですよ、犯人がね、
みたいな感じで謎ときを始めた。
「だって、あの崖から落として助かるわけが!
それに這い上がれない!
ーーあっ!!」
「語るに落ちたな。それを見ていたカラスがいたんだよ。この辺のカラスはみんなネモさんの息がかかってるのさ。」
「もしかしたら。侍女長をアリサさんと思ったのかしら。」
何となくあの2人似てるのだ。身長、年齢。髪の色。
「そうかもね、ハゲワシに咥えられた女性をネモさんが見て、びっくり仰天。急いで降ろさせたところ、まだ息があったそうだ。」
あっ、これは。獲物だったか。
カラスが仲良しのハゲワシにいいのがあるよーと呼びに行ったんじゃないかと思われる。
(彼等は生きてるものは口にしないけど、どこかに置いて弱るのを待つつもりだったか。お家近くにお持ちかえりして。)
だけど、一応ネモさんに、○べていい?って聞きに行ったのか。何という綱渡りだ。
「服もぼろぼろで身元もわからなかったし、しばらく意識がなかったそうだ。アリサさんやミドリナさんが世話をしてくれて、もしかして侍女長か?
と気がついたと。そのうち意識が戻った。」
「連絡がきたのは一昨日でな。判明した。
おまえ、あの楽師に合わせてやると言って侍女長を呼び出したそうじゃな。
そして、あの世で再会できるわよ!と言って突き落としたと!まったく鬼畜じゃな!」
王妃様がチョーカーに鍵をかける。
そしてその鍵をアンちゃんが無表情で窓から外へ投げ捨てた。
「あああああああっ!王家の呪いが!
アンディ何でなの、私たちカレーヌ様のとこで一緒だったじゃないのっ、カレーヌ様に貴方が花を積んであげたよね、私も欲しいと言ったら
くしゃっと笑って私にもくれたじゃない!」
そうか。その頃のアンちゃんは何の屈託もなくて、幸せだった頃か。
あのくしゃっとした笑顔はなかなかいいもんな。
「覚えてねえな。
実際、オマエが忍びになってからまとわりつかれてキモくて仕方なかった。
毎回、毎回、ねえ〜、わ、た、し、覚えてなあい?って口元のほくろを指差してきてさ。
ウザくて仕方なかった。俺がごめんねエ、アラン様にしか興味ないのーって
オネエキャラになったらやっと来なくなったな。」
なんですと?アンちゃんのオネエのルーツはここからファイン?
クンタキンテもびっくりだ!
「…でも、辞めてから思い出してくれたんでしょ?」
「義父がな。わかってたようだ。
教えてきたけど、それが、ナニ?だった。」
ケッと吐き捨てるアンちゃん。
「恐ろしいのう。横恋慕で、アンディの元カノの
コニーちゃんと、ナナちゃんをさりげなく危険な任務におすすめしたらしいのう。」
えつ。アンちゃんの元カノ達が殉職したのって?
「ーー!!!!」
あっ、アンちゃんの目が血走って毛が逆立っている。
血管が、顔や手に浮き出ている。
ひとまわり大きくなったような気もする。
デビル○ンに変身途中の不動○のようだ。
(漫画版。デッビーールと言わない方ね。)
「白鬼、止めよ。」
「はっ。しかし殴らせてやりたいのですが。」
「駄目じゃ。王家の宝石が汚れるであろうが。
アンディ、ブルーウォーターに余計な血を吸わせるな、キレイなまま、レイカに返してやりたいからのう。」
「ーはい。」
ああ、1番怖いのは王妃さまか。
アンちゃんは無言で私を連れてそこから立ち去った。乱暴に手を引っ張る。痛いよう。
後から
「おい、勝手に帰るなよ。」
「良い、行かせてやれ。」
ハッキーと、王妃様の声がしたが、振り向きもしなかった。
明るい中庭に出ると、鯖折りみたいな抱擁をされた。ぐえっ。
「アンちゃん。私は無事だし。」
背中をなでる、どうどう。
怒りなのか恐れなのか身体が震えてるのが伝わってくる。
「うん。」
「大丈夫だから。落ち着いて。」
「うん。怖い思いをさせてごめんな。」
だんだん荒い息が収まってきた。
「ほら、オー・ギンさん達が、目を丸くして見てるから。」
「みんな気がきかないな。知らんふりしてよ、もう。」
そこで困ったような顔をして、くしゃっと笑った。
「やっぱり落ち着くナア、おばあちゃんにトントンされたのを思い出したよ。」
おい。