行く人、来る人
アンちゃんが入院して一ヶ月たった。今10月の頭だ。
マーズとマーグが領地に帰ることになってアンちゃんの病室に挨拶に来てくれた。
「お世話になりました。」
「特にレイカさんにはセバスチャン兄がご迷惑をおかけしまして。」
「いえいえそんな。貴方達には関係ないですから。」
「退院したら旅行に行くわネ。」
「ええ、ええ、ぜひ!今新しいホテルやレストランも出来ていますよ。」
「バーベキューもジンギスカンも楽しめます!
毛刈りのショーや牧羊犬が働くところも見れるんですよ!」
マ○ー牧場?
「そう言えばワクワクふれあい動物ランドの家とかなんとかはどうなりました?」
「はい。まずは猫や犬やウサギとのふれあいができる施設ができました。」
「ま!ネコちゃん!是非行くわ!」
食いつきいいなあ。
そこへ一組の男女が来た。
「彼らが私たちの代わりにリード様付きになりました。」
「といっても彼等の方が年上でキャリアもあるんですよ。」
「見たことあるなア。第一騎士団かな。
2人は夫婦ではなかったか?」
アンちゃんが目を細めてお仕事モードになってる。
歳の頃は20歳前後かな。
2人ともいわゆるシュッとしている。ああ、そういうことか。影武者もやるんだ。
リード様とヴィヴィアンナ様の。
「はい、宜しくお願いします。ゲン・ノジョーと、」
「妻のオ・ツナです。」
「……名付け親は王妃様ね。」
「お分かりになりますか!」
わからいでか。鳴門秘○ぶっ込んできたか。
相手をチエにしなくて見返りお綱にしたとこはすごく良いです。
「ふん、影武者か。夫婦者にしたのはお美しいご夫妻によろめかない為かな。わかった、わざわざご苦労様。」
うーん、マーズやマーグに対する時より塩対応っすね。
「では、失礼します。アンディ様お大事に。」
「ああ、ネモさんに宜しくネ。」
アンちゃんは双子をニコニコしながら見送った。
そして行きなり真顔になっておゲン夫妻に向き直った。
「なんか報告があるんだろ。第一騎士団の前はお庭番だったじゃねえか。」
えっそんな配置換えあり?
聞いてはいけない話になりそうな予感。
そーっと席を外そうとしたらアンちゃんが手を掴んで離さない。一緒に、聞け、と?
ええ、やだな。
「はい。白鬼が帰国するそうです。」
「そうか。隣りの国が落ち着いたからな。」
あー隣りの国の忍び云々ってその人のことか。
「まさか、代わりに俺に隣国へ潜入しろと?
まーだ手負いなんだけどなア。」
「いえ、そんな事は。」
「黒魔。レイカさんには何も話してないんですか?」
「ああもう!人を黒髪の悪魔だの、ブラックデビルだの、縮めて黒魔とか呼ぶなよお!
恥ずかしいだろうがっ!」
うわあ。聞いてる方も恥ずかしいわ。
「俺は!アラン様の側近で護衛で!お庭番のオネエで!何故か子爵になったレストランの支配人!あと可愛いレイカちゃんの新婚の夫!
それでいいでしょ、もうそんな名前忘れて!」
「レイカさん、昔、三羽烏と呼ばれた三人の忍びがいたんですよ。」
はあ。
「説明すなやー!殴るぞ!〜いたたっ!」
「怪我人は大人しくしててください。」
「1人はこないだ蛇にやられた赤い稲妻。サー・スケ。
もう1人は、こちらの黒い悪魔のアンディ殿。
そして残りは白い髪の鬼、シンディ殿。」
昔、白髪鬼っていう小説読んだな。岡本綺堂とか言ったかな。
その人がずっと向こうにいて帰ってくるのか。
何故こんなにアンちゃんは嫌そうなんだ。
「あー、まずここからだな。俺、母親も火事で死んでるけどさ、名前、寝言で呼ばないよね。」
うん、おばあちゃんや妹さんも呼ぶのに。
「母は多分、忍びだったらしい、草っていうの?
素性を隠して潜伏してたって。父とかは普通の人ね。
それでなんかやらかしたのか、家族も巻き添えに殺された。その上で火をつけられたのさ。」
ヤー・シチさんが言ってた。
ー同僚が火をつけたとか、その前にみんな殺されたとか、いろんな噂はありますー
(前作 グランディ王国物語
41話目の 上を下へのスラップスティックを読んでね)
それはこのことだったのか。
「俺が助かったのはちょうどカレーヌ様が転んで
泣いて、他の使用人と慰めたりおぶったりしてたからさ。人目とそこの領主の娘を巻き込むと面倒だったからだろう。」
まあ、カレーヌ様は命の恩人とも言えるね。
とポツンと言った。
「それでお母さんには複雑な思いがあるのね。」
「うん。まあ、いつか話さなきゃとは思ったんだけども。」
そこで顔をあげたアンちゃん。
「そこにいるんだろ、ヤー・シチ、義父さん!
説明してくれよ。」
影のようにすすっと現れた、義父さん。
「やあ、レイカさん。たまには遊びに来てくれ。」
「え?ありがとうございます?どこに?」
「忍会館ってのがあってね、そこに住んでる。」
そうなんだ?
「それでね、話を戻すとね、アンディの母はカレーヌ様の家に草として潜んでたんだ。そこの家の執事がギガント国のスパイという噂があってね。」
やっと伏線を回収です。自分でもどこに書いたか、前作を読み返しました。