華燭の典。ハイドとメリイ編 其の四
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祝宴は続いていく。
龍太郎君はまたリード様のところへ飛んできた。
「龍太郎君。キャンドルサービスの点火。上手だったね。微調整がプロ並みだよ。」
「ヨセヤイ、テレル。」
何のプロなんだ。スピーチの構想でキャンドルサービスは良く見てなかったけど、龍太郎君が点火することもあったんだな。
ふう。とりあえずアンちゃんが持ってきてくれた、サイダーをガブ飲みする。
喉、からっからです。
ネモさんと王妃様が話をして、王妃様が頷いている。
「それでは、リード。お祝いの歌を。」
「はい、母上。」
「さっき渡した楽譜、いけるかしら?」
楽団の人達が、青い顔で頷く。
「ほほほ。フィフィ・ヤーン女史の詩を歌にしたものなの。本当は年末のコンサートで披露するつもりだったけど。」
無茶振りである(2回目)。
初見で演奏するのかー。
「では、お願い致します。リード様。」
リード様は肩に龍太郎君を乗せたまま、壇上に行き、一礼をした。
そして曲にあわせて歌い始めた。
《ただ、あなたが、
あなたが幸せであるように。
…私のいのりはただ、それだけ。》
ああ、これは。あの冒頭の詩だ。
《あなたの笑顔が曇らないように。
誰もあなたを傷つけないようにー》
リード様の歌声は式場内に響きわたる。
この人の声はどうしてこう人の心を揺さぶるのか。
《私は風となりあなたの側を歩こう。
私は降り注ぐ陽のひかりになって、
あなたを暖めよう。》
リード様は手を広げ、振りあげる。目を閉じる。
髪をかき揚げて、目を見開いてからの、流し目だ。
そのひとつひとつの仕草や表情が、歌の世界を表現していく。
芝居がかっているが絵になるのだ。
つくづく、美しいとは凄い事である。
《あなたを苦しめるものから守りたい。
あなたの微笑みだけが ……私の願い。》
適当にタメをいれてらっしゃる。
それがまた良いのだ。
龍太郎君の目から涙がしたたり落ちる。
彼の心情に重なるものがあるのだろう。
《風となってあなたの汗を乾かそう。
月のひかりとなってあなたを照らそう。
いのりはあなたを守る盾と、なるだろう。》
声は伸びて行く。空気を震わせて。
メリイさんもハイド君も泣いている。
そしてメリイさんのご両親も。
《ずっと…ああ…ずっと。
あなたの笑顔だけが、それだけが、》
あれ、なんだろう。
私から目からも熱いものが。
思い出してしまうのだ。大事な人たちを。
もう会えない前世の家族を。
歳若くして亡くなった母を。
日本の娘達は夫は元気でいるだろうか。
彼女達の小さかったときの家族でのおでかけが。
何故か浮かぶのだ。
ああ、もうなくなったドリームランドよ。向ヶ丘遊園地よ。
《――――あなたの幸せだけが、、私の願い…》
どこまでも響くビブラート。
最後の一音が消えた時、割れんばかりの拍手に包まれた。
素晴らしい!会場総立ちでの拍手だ。
「ブラボー!リード!」
王妃様も立ち上がっての拍手をされている。
「ははうえー!上手く歌えてましたか?」
ネモさんからタオルを受けとってにこやかに笑うリード様。めちゃくちゃ汗をかいてらっしゃる。
熱唱だったからね。
「ええ、リード!バッチグーよ!」
安定の昭和の褒め言葉ですね。
「レプトンくぅん?ここでうたわれてる、貴方はキミなんだろ?愛されてるねえ。」
「そ、そうらしいですね?でもおやめください。
リード様。なんかみんなに知られたら、恥ずかしいし、いたたまれません!」
レプトンさんは赤くなって顔を覆った。
「さあ、龍太郎君!」
ネモさんがバスケットを持ってきた。
「ハイヨ!」
龍太郎君がそれを咥えて飛び立つ。
「皆様、神獣様が持っているカゴの中には、番号が書かれた紙が入っています。当たりの番号がかかれていたら、ギフト券や各種景品と交換できますよ!」
ガラガラガラ。
ホテルのスタッフが台車を運んできた。
おお、1番から百番までの番号と商品が並んでいる。
ここって百人もいるのかい?
「スタッフにも配るみたいだよ。」
アンちゃんがささやく。
「ソーレー!俺が今から撒くカラネ!」
おおおおーと歓声があがる。
龍太郎君はバスケットを傾けながら飛ぶ。
上から紙片がひらひらと落ちてくる。
花びらのように。紙吹雪のように。
手を伸ばす人たち。
「節分の豆まきかえ。」
「王妃様、棟上げの餅まきかも。」
「さあ、お子さんたちは危ないからね。」
子供達はネモさんが紙(当たりつき)を手渡しで配っている。
相変わらずの気配りさんである。
王妃様や私にもくれた。
すみませんねえ。
レプトンさんが楽団の皆様にも配っている。
みんな嬉しそうだ。
研究所の若者だろうか?真ん中の少し広めのスペースに集まって、上からの紙片を取ろうとしている
きゃあきゃあと興奮している。
紙片は二つ折りになっていて、広げるとスカか当たりかわかる寸法だ。
「ああ!これは歴史の本で見たアレに近いわ!レイカ!
ええじゃないか、よ!」
なるほど!江戸時代にあったと言うあの現象ですか。上からお札が落ちてくることにして、
踊りって練り歩いたというやつね。
リアルええじゃないかは、熱狂のうちに終了した。
「さて。皆様。宴もたけなわでございますが、
ここで新婦の父、ミッドランド様から御礼の言葉がございます。」
ローランド・ミッドランド氏が壇上に立つ。
「皆様。本日はお忙しいところお集まりいただきましてありがとうございます。」
流石に現役の学長先生だ。
姿勢も宜しく声に張りがあり、堂々としている。
常に人前に立って喋る人の話し方である。
「王家の方々にもご臨席いただき、光栄の極みでございます。」
王妃様、リード様にふかぶかと頭を下げる、ミッドランド氏。
「職業柄、教え子達の結婚式には沢山参加して参りました。何回、三つの袋や三つの坂の話をしたかわかりません。」
会場に笑い声があがる。
「しかし、今日だけはそれらの話をする気になれないのです。
何を話していいやら。思いが溢れ過ぎて言葉になりません。
本当にこの日を無事迎えられたよかった。
誰よりもマリーが喜んでおります。」
マリーさんはハンカチで顔を覆いながら、隣りで何回も頷いている。
「メリイは私の養女でありますが、血が繋がったハトコでもあります。可愛くないわけがない。
幸せで健やかで暖かい家庭を作ってほしい。
ハイド君、頼みましたよ。」
「はい。」
ハイド君は潤んだ目で頷く。
溢れる拍手。
「では、ハイド君。メリイさん。
君達からも挨拶を。」
ネモさんに促される。
「皆さん、ありがとう。来てくれてありがとう。
お食事を用意してくださった皆様、楽団の皆様、
研究所のみんな。
勿体なくも王妃様。リード様。
そして影の皆さん。この国を代表する、要人の皆様。支えてくださった友人たち。
心から感謝致します。
それから、龍ちゃん!俺らはずっと一緒だろっ!?」
「そうよ、龍太郎。こちらにおいで。」
「…仕方ナイナア。」
龍太郎君はリード様の肩から飛び立った。
そしてメリイさんの肩に乗る。
「こほん。グランディとブルーウォーターの人々よ。
本日はアリガトウ。我と九尾の祝福がアランコトヲ!」
ごおおおおー!
ぐおおおー!
いきなり吠える二大神獣。
会場内が振動する。
そしてまわりが光に包まれた。
しゅうううう!
そして、2頭とも姿を消した。
「龍太郎!?」
慌てるメリイさん。
そこへアンちゃんが近づく。
「メリイさん。龍太郎は今晩はウチで預かることになってるんだよ。な、良かったな、ハイド。」
「え。」
何となく顔が赤くなるハイド君だぞ。
「さあ!それでは新郎新婦を拍手でお送りください!」
ブルーウォーターの国歌を楽団が奏でる。
そして二人は退場して式は終了した。
(多分、ネモさんのホテルでまた二次会をやるんだろう。)
その後、当たりの景品(ハムソーセージ一年分)をもらってホクホクして帰った。
ウチ、大所帯ですからねえ。すみませんねえ。
何より嬉しいです。
思ったよりこちらの式の方が長くなりました。
三人?いるからですね。




