華燭の典。ハイドとメリイ編 其の三
王妃様のテーブルには色々な人が挨拶にくる。
「お久しぶりでございます。王妃様。リード様。」
「あら、メアリアン!いつもチカラを貸してくれてありがとう。」
「いつも無理をさせてすまないね、巫女姫殿。」
「勿体ないことですわ。」
「貴女のチカラがあったからこそ、龍太郎君が転生者だとわかったのよね。」
「ホント、メアリアンさんは恩人ダヨ。」
龍太郎君が飛んできてリード様の肩にとまった。
「おや、私に乗ってくれるのかい?」
物凄く絵になる。
金髪の美丈夫にドラゴン。御伽話の挿絵の様である。
「ふふふ。伝説の騎士様のようですね。」
「そうかい?」
リード様も龍太郎君も満更では無さそうだ。
「グランディの華の中の華にご挨拶申し上げます。」
おや、今度はカレーヌ様だ。
「おお、カレーヌ。キノコ・タケノコのお菓子の第三の試作品を昨日いただいたの。なかなか良いわ。」
「有難きお言葉。」
「王妃様。私もいただきました。多分ね?モノホンのお菓子のチョコは、二層がけになってたと思います。」
「そうなの?レイカ?」
目をぱちくりするカレーヌ様。
「あー、そうだったかも。」
考える人になる王妃様。
三人であーでもない、こーでもないと盛り上がっていたら、
「王妃様。リード様。ご挨拶が遅れまして。私の母で御座います。」
マリーさんが老婦人を連れてやって来た。
「グランディの華の中の華、王妃様。
ブルーウォーターの輝ける星、リード様にご挨拶申し上げます。
「おお、メリイさんのお婆様であったな。遠路はるばるご苦労であった。本日はおめでとう。」
優しく微笑むリード様。
「有難きお言葉。はい、メリイの晴れ姿を見て、もうなんの悔いもございません。」
涙ぐむ老婦人。
そういえば先日のマリーさんとミッドランド氏の結婚式には体調不良で来てなかったな。
「いやいや、サードやレプトンのご婚儀まではお元気であらねば、のう?」
王妃様が優しく声をかけてらっしゃる。
そこへネモさんの声が響く。
「さて、お色直しも整いました!新郎新婦の入場です!どうぞ!」
扉が開いて、スポットライトが当たる。
おやあ?スモークもたいてる?どう言う仕組みなのかな。
あら。スノーマンがいる。彼のチカラか。
おお、BGMはオペラ座の怪人ではないか。
メリイさんが目が覚めるような蒼いドレスで、
ハイドくんも蒼ジャケットに白いズボンだ。
そして。
二人の衣装には龍太郎君の刺繍が施されている。
「――――!!」
一同釘付けだ。
メリイさんのドレスのスカート部分に龍太郎の飛ぶ姿が金色の糸で刺繍されている。
「これは…このシルエット、刺繍!チャイナドレス?あらま。素敵!」
王妃様が歓声をあげる。
「そうですね!首元もしまってますし。」
蒼いドレスには少しスリットが入っていて、金糸で縁取りがされている。
その下にはたっぷりの白いドレスの裾がみえる。
二枚重なってるんだね。
(昭和だったらシミチョロと言われたやつだ。)
ハイド君は背中に大きな龍太郎君の顔と前面左右にちいさな龍太郎の刺繍が銀色の糸で入れられている。
「これはー、上品なスカジャン!」
「ええ、私も同意します!」
いや、似合っているよ、豪華だよ。
「ウワア…。サイコージャン。
俺の姿を纏ッテクレテ。」
龍太郎君の感極まる声にそちらを見れば、ポタリポタリと涙を流している。
「ね、龍太郎君。キミが思うよりずっと、彼等はキミを大事に思っているんだよ。」
「リードサン、泣かせナイデクレヨ。ウウ。」
……アア、オレが人間ダッタラナ。
その龍太郎君の声は掠れていて、周りの私達にだけ聞こえた。
アンちゃんとリード様はそっと彼を撫でた。
「龍太郎、今晩ウチに飲みにこいよ。」
「アリガトウ、アンディサン。流石に今晩はアイツらを二人ッキリにシナイとな。」
ここのホテルのスイートに泊まると聞いている。
「龍太郎君、私が樽酒を差し入れするわ。」
「有難う、王妃サン。」
今、研究所の人たちの余興が始まっている。
みんなで歌ってくれている。
そこに、ネモさんが来た。とても焦った状態で。
「レイカさん。友人代表のスピーチをお願いできませんか?」
なんですってえええ?
「実はね、二人の共通の知人のイリヤさんにお願いしていたのですが、昨日からの熱で来られなくなって。それで急遽、職場の人がやってくれるハズだったんですけど、このメンバーを見て震えちゃって。
ええ、ストレスでトイレから出てこなくなってしまって。」
気持ちはわかる。王族の前だものね。
「まあ、良いじゃない。レイカが何を言っても文句言うものはいないわよ。」
「王妃様。」
「お願いしますよううう。」
ネモさんに手を合わされた。で、でもなあ。
「まあ、レイカちゃんなら二人とも知ってるし。
いけるいける!大丈夫!」
…アンちゃん!人ごとだと思ってさあ!
くいっ!とワインを煽る。
「あっ、それ俺の。」
ふん。
「わかりました!やりましょう!」
「ああっ、助かります!何、今からキャンドルサービスなんですよ。その間のお時間を使ってくださいね。」
キャンドルサービス。
まず、うちのテーブルに1番にきた。
王族いるからね。
「ネエ、俺も一緒にマワルヨ。芯を濡らしてる馬鹿がいてもオレのパワーで大丈夫。」
「龍ちゃん、助かる!」
ハイド君はニッコリ微笑んだ。
「ハイ!皆様お聞きになりましたね?以前のシンゴくんの式では蝋燭の芯を濡らした馬鹿者が三人いました!その方達には蝋燭を買い取っていただきましたからね!」
ネモさんが声を張り上げる。
腹に据えかねていたんだね。
龍太郎君はメリイさんの肩に乗っていった。
さて、考えなければ。うーん。
レプトンさんが私に紙とペンを渡しに来た。
「あの、レイカさん。使って下さいね。」
物凄く申し訳なさそうに。貴方、本当に気配り出来る良い人ね。
キャンドルサービスはつつがなく終わった。
「では、お二人の友人、レイカ様にお祝いのスピーチをお願いいたします。」
壇上に立つ私。手のひらに人という字を書いて飲み込む。
ごくり。効くのか?これ。
「こほん。メリイさん、ハイド君。本当におめでとう。
私は前世からの知り合いのメリイさんが幸せになってくれて、嬉しいの。
貴女は食品分析会社の社員。私は近くの食堂の女将でした。
いつも色白で可憐な姿が印象的で、私の作った料理を美味しそうに食べてくれましたね。
貴女と同じ街に住んで、多分同じ物を見てきた。
今度懐かしいヨコハマの話を二人でしましょうね?
みなとみらいや山下公園。マリンタワーにはもうバードピアは無くなったのよ。それから北原○○さんのおもちゃ館も。
以前、行ってきて楽しかったと天津飯を食べながら話してくれましたね。
それとも、ズーラシアの話?
シーパラの白イルカさんには会いたがってたけど、会えたのかしら。
それから、こちらに転生しても貴女は頑張っていましたね。
そして、魂で結ばれた龍太郎君との再会!
とても美しい物語です。
さて、ハイド君。貴方は私の一番弟子です。
料理のことに関しては素晴らしいセンスの持ち主です。
そして、貴方は裏表のない性格でみんなに好かれていますよね。貴方は誰のことも悪く言わない。
逆に貴方を悪く言う人もいない。
……ただ、二人とも。貴方達は自分が幸せになることに臆病です。他人に気を使い過ぎて気持ちが出せずにいませんでしたか。
もっと強気で生きて下さい。過去にとらわれないで下さい。
――幸せになって下さい。
私からはそれだけです。」
パチパチパチパチ。
「素晴らしいわ!レイカ!」
王妃様が立ち上がって拍手をして下さっている。
ロイヤルなパワーに引っ張られたのか。
会場内は拍手に包まれた。
メリイさんもハイド君も頭を何度も下げている。
良かった、やり切ったぞおお!
改装前のマリンタワーの話。懐かしいです。




