やーまを飛び、谷こえて。ハッ○○くんがやってきた。ニンニン!
タイトルは明るいけど、中身はちょっと重いです。
誤字報告ありがとうございます
メアリアンさんはゆっくりと目を閉じて開いた。
「…貴方の母親はここに来ています。」
「え!」
目を見開くハンゾー君。
「あ、では母親は元侍女長こと、ヘレナではなかったのですか。」
肩から力が抜けて行く。
「なあんだ、ハハハ。
……あ、でももう亡くなっているのですか。実の母は。」
「ええ。貴方を産んですぐ。」
頭を抱えるメアリアンさん。
そしてふらつく。
「あ、いけない。座りなよ。レイカも手を握ってあげて!」
慌てるランド兄。ソファに座らせて、私と兄で挟みこむ。
「ええ、皆様座って。お話を続けます。」
ランド兄さんとメアリアンさんのツッチーが点滅している。彼女にチカラを与えている様だ。
「彼女はとても怒っているの。色んなことに。
自分を騙した男に。ええ、貴方の父親は噂通りに。
――グランディにいた金髪の楽師。
ギガントの皇太后に気にいられて囲われて、そして殺された。」
「……!」
流石にアンちゃんもランド兄さんも無言だ。
だってそれじゃ。メアリアンさんの腹違いの兄!
……のひとり。
「貴方の母上は、ヘレナの妹。二人は仲が悪かった。それでワザと楽師に近づいたのだけども、ミイラ取りがミイラになったのよ。
すっかりたぶらかされて、貴方を産んだ。
妻も子もいる男の子供を。」
…あたりに沈黙が落ちる。
「では、本当に私は赤い稲妻の弟なんですか。」
「ええ、腹違いのね。だけどね、楽師の隠し子は沢山いるのよ。彼女が訴えている。
だからね、気にすることはないわ。」
沢山いるのか。メアリアンさんの腹違いの兄弟は。
「母は産後の肥立ちが悪くて亡くなったのですか?」
ハンゾー君の声は震えている。
「そうよ、何しろ十四の娘だったもの。と、言うより彼女自身妊娠に気がついていなかったのよ。お腹もあまり目立たなくて。」
「フン。年端も行かない子供に手を出して。ろくでもない奴だ。」
アンちゃんが吐き捨てる。
「産んだ後はご両親から激しく責められて、子供も取り上げられて教会に捨てられた。それが貴方ね。
彼女はその後屋根裏部屋に押し込められて、高熱を出して亡くなった。」
感染症か。ろくにその後の処置をされてないんだな。
もしかしたら父なし子を産んだことをせめて折檻されたのかも。貴族はメンツが大事だから。
「ヘレナはお城にいたから知らないわ。妹の死は後から伝えられたけど、流行り病で死んだとだけ。」
ハンゾー君は放心している。
「それで貴方の母親は、楽師を、親を、ヘレナを恨んでいる。もう悪意の塊でぐちゃぐちゃになってるの。」
メアリアンさんの顔色が悪い。
彼女はその楽師の子だ。悪霊と化したハンゾーママが、アタックしていることが考えられる。
「ううう。頭が痛い。聞きたいことは早めに。
ふうううっ、痛くてうっかり除霊しちゃうわ!」
キレている。メアリアンさんがキレている。
キレッキレッである。
「あ、はい。メアリアン様、申し訳ありません。
あ、あの!母さん?俺のことを気にかけてくれてたんだね?だからずっと一緒にいたんだね?」
メアリアンさんが眉尻を下げた。
「ええ、すぐに死んじゃって育ててあげられなくてごめんなさいと。お腹に貴方がいると気がついていなかったのと。」
そこで、メアリアンさんは息を整えた。
「ヘレナに必要以上に近づかないで。
私と姉は、ほんとととととおおおおおににに、仲が悪かったんだから。
それから私の両親も亡くなったから。あちらの親族とはもう関わらないで。どうせ赤ん坊の貴方を引き取ろうともしなかったんだから、と。」
「――そうだね。ありがとうございます。巫女姫様。無理をさせて申し訳ございません。」
ハンゾー君は視線を床に落とした。椅子に深く座り込んで顔を手で覆っている。
「いいえ、良いのですよ。」
ハンゾー君は顔を上げた。
「やはり私は天外孤独なのですね。あ、そうだ。他に腹違いの兄弟がいるとおっしゃっいましたが、1人くらい教えいただくことは。」
「個人情報ですので。」
「あ、でも。」
「ハンゾーさん。お母様は霊になって見聞きしたことをおっしゃってる。だけど、裏を取ったわけじゃない。
多分、そうだろうという子供が複数いると言うウワサを聞いたとおっしゃってるの。」
「え、そうなんですか。」
「ハンゾー、あまりメアリアンさんを困らせるな。
まア、サー・スケは正妻の子だから確定しただけだ。
もし、そんなのがいたらサー・スケが接触していたと思わねえか?アイツはくさっても三羽烏なんだからよ。」
アンちゃんは真顔で誤魔化している。
「…ええ、そうですわね。」
メアリアンさんも硬い表情で頷く。
その通りだったもんね。サー・スケは命をかけてメアリアンさんを守った。
そしてハンゾー君のことは知らなかったのか。
ギガントに潜入してたからな。
(それとも?男だからほっといたとか?
可愛いお姫様である妹は見守っていても。
わりと動物をイジメたりする奴だったりして善人ではなかったからな。)
「わかりました。」
「では、彼女を上にあげますわ。このままだと悪霊になってしまいます。
あ!イタタタ!」
頭を抱えるメアリアンさん。
「ああっ!すみません!お願いします。」
「うー!はあっ!」
メアリアンさんが手を打つ。
すると、メアリアンさんの頭をポカポカと殴っている少女の姿が浮かびあがった。
やはり楽師の身内のメアリアンさんに逆恨みしてのアタックか。気の毒じゃないか。
確かにヘレナに似ている。たった十四歳で亡くなった少女。それがハンゾー君を見て泣きそうな顔をした。
「お母さん!」
二十六歳の青年が、十四歳の少女に向かって叫ぶ。
「あ、会いたかったんだよ、お母さん!ずっと会いたかったんだよ!」
「…ジェミイ。」
そうひとことつぶやくと、少女の目から涙が一粒落ちた。
そしてハンゾー君に手を伸ばした。
握り合った手。見る見る淡い光に包まれる。
彼女の姿が淡い光になっていく。
光は細かい粒となる。それがジェミイことハンゾー君を包んで、消えた。
「ああああああああああああああああああああ!」
泣き崩れるハンゾー君。
「彼女の名前はチェリー。覚えておいてあげてね。」
「ええ、ええ、巫女姫様!さ、最後に姿を見せてくださってありがとうございました……。」
「ううっ。」
貰い泣きする私だよ。両方の切ない気持ちがわかっちゃう。
「なア、ハンゾー。サー・スケの本名がジミーだったのは知ってるか?」
「いいえ?」
「そうか。多分おまえの名前も父親の楽師がつけたのかも知れねえな。ま、睦言でよ。
将来子供が出来たらその名前がいいね、と。」
この名前がいいねとキミが言ったから。
この日は名付け記念日、なのか。
けっ。
「そんな無責任男がつけた名前なんか、願い下げです。確かに産着にジェミイと書いてあったそうですが。
…王妃様が下さった、ハンゾーと言う名前で生きていきます!」
「その意気やヨシ!」
アンちゃんが大きく頷く。
「ううっ、アンディ様!その胸を借りて泣いちゃっても良いですか?」
「それは断る!」
受けとめてやりなよ、アンちゃん。
ところで忍者ハットリ○んは、ハンゾーではなくて、カンゾーだったな。
「拙者、はっとりはんぞう!」と
オープンニングの時に言ってると思い込んでいたよ。ニンニン!
「ええと、レイカさん、ニンニンとか何ですか?さっきからオレの顔を見るたびにつぶやいてらっしゃる様で。」
困惑顔のハンゾー君だ。
しまった!また口から出てたか!
作中にサラダ記念日のフレーズを書きました。
懐かしいです。
あの当時流行りましたね。本持ってました。
長崎に俵町と言う地名があって、その当時友達と旅行に行ったとき、地名を見て盛り上がった覚えがあります。




