天然なんて、ら、ら、ららら。
「さて、シンゴ。おまえ新居どうするよ。」
「えっ?」
シンゴ君がテーブルを落としそうになった。
「う、わ、危ねえ。アンディ様いきなり何を。」
今、みなさんはウチの両親の引っ越しを手伝ってくれているのだ。
シンゴ君はもう1人の若い忍びとテーブルを運んでくれている。
「いや、ドレスの布用の糸の目星もついた。そろそろ新居も決めたらどうだ?」
「あ、はい。そ、そうですね。」
シンゴ君は赤くなってドギマギしている。
「ハイドはもう決めたそうだぞ。」
「え、そうなんですか?」
「あちらはな、警備の点もあるし、一から建てるそうだ。龍の字がある程度大きくなっても大丈夫の吹き抜けのスペースを確保するみたいだってよ。」
「えっ。そりゃどんな大きさになるかわかりませんね?」
アンちゃんはふっと笑って、
「あとな、やはり龍の字が、食品庫のスペースを充実させろと。アイツどれだけ食うつもりなんだろうな。」
「ははは。神獣様のお守りも大変だ。でも、口も出すけどカネも出すんでしょ。龍太郎は。良いじゃ無いですか。」
噂をすれば何とやらだ。
ハイド君が龍太郎君と現れた。
「こんにちは、差し入れです。お食事ですよ。」
「まあ、ハイドさん!ありがとう。」
「レイカさんのお母様、お久しぶりです。
御新居、お引越しおめでとうございます。」
龍太郎君、荷物持ちしてるぞ。
大きなカゴを持ってる。サンドイッチやハンバーガーにおにぎりが入ってるね。
引っ越しの日にどこかデリバリー頼めないかな、とショコラさんと話してたら、私たちが作りますよ、ハイドにも声かけます。と言ってくれたのだ。
助かった。
「ご新居購入オメデトー。コレね、引っ越し祝いの胡蝶蘭ダヨ。メリイとハイドからね。」
うん、定番だね。
母がニコニコして出てきた。
「あら、龍太郎君も来てくれたの?お久しぶりで嬉しいわ。相変わらず可愛いわね。
お昼をレイカに頼まれたんだって?」
「ソウダヨ。俺、可愛いカナ?」
「うん、撫でていい?」
「イイヨ!」
「ほーら、ほーら!よーしよしよし!」
ムツゴロウさん?
「おお、ソコソコ!ツボ!気持ちイイ!」
みんなが固唾を飲んで見守る。
「す、凄いワ。」
「真の猛獣使いってあの人かもしれない。」
流石のアンちゃんもシンゴくんも顔を青くしている。
「どう?首の付け根としっぽの付け根どっちがいい?かゆい?きく?気持ちいい?」
「ア、ア!ゴクラク、ゴクラク。」
龍太郎君をひっくり返して今度はお腹を撫で回している。
お母さん、子犬じゃないんだから。
「ひええい。おまえ、やめろよお。」
「お母さん、やり過ぎだよう。」
ランド兄も父もオドオドしてる。
「良かったなあ!龍ちゃん。時々痒いって背中を木にこすりつけてるもんなあ!」
ハイド君はニコニコしてる。
「ウン。痒いところに手が届いタヨ。」
「ふふふ。堪能させてもらったわ。」
我が母ながらすごいなあ。
最後、龍太郎君がブルブルと身を震わせて終わった。
身体が濡れた時、ワンちゃんや猫ちゃんがブルブルして水滴を飛ばすよね、そんな感じ。
カラン。
「あら、龍太郎君何か落ちたわよ。」
「ア、俺の隠し金ダナ、ウロコに挟んでタンダ。洞窟にあったサファイアダヨ。
以前、バイキングが海の中に落としたヤツさ、悪さしたからね、チョット脅かして沈めてヤッタンダ。」
「へええ。歴史ある御宝なのね。」
バイキングの執念と呪いも染み付いているのでは。
「ウン。コレを玄関の門扉に埋め込みナヨ。俺の加護を付ケテオクから防犯に良イヨ。
ま、ココはパイセンがマーキングしてるから、悪いモノは基本的に入って来ないケドね。」
「あら、悪いわね。いいの?ありがとう。」
躊躇なく宝物を受け取る母。
すごいな!ひと財産あるよ、それ。
「オレからの引っ越し祝いダヨ!」
「すごく大きいわね!こんなに大きいとガラスみたいね!」
「ハハハハ!面白いネ、オッカサン。」
母の暴言をサラリと受け流す龍太郎君。
あと、母はキミのオッカサンでは無いんだが。
「マタネ!」
ハイド君を乗せて上機嫌で龍太郎君は帰っていった。
「お母さん、凄いね。」
邪心が無いとはこう言うことを言うのだな。
エドワード様と方向性は違うけど神獣に好かれてる。
「あら、レイカ。そうかしら。さあさあ、みなさん。ハイド君がお食事を持ってきて下さったからお昼にしましょうね。」
「は、はい。レイカさんのご母堂様。」
なんか母の扱いのランクが二つくらい上がった様だ。
「シンゴ君。隣のおウチも空いてるわよ。
買うか借りるかしたら?さっき小耳に、はさんだのだけどご結婚するのに新居を探してるんですって?」
母がおにぎりを頬張りながら言う。
「え。そうですか?」
「ここより二回りほど狭いけどね。ほら、ここって幽霊屋敷だったみたいでしょ。お隣さんも恐れて借り手がいなかったみたいなのよ。」
ご近所が静かと思ったら、空き家だったか。
「ねえ、アンディさん。値切り交渉はお任せしますわね?」
「はっ。」
こら、何でアンちゃんまでナチュラルに使ってるのよ、お母さん。
それにアンちゃんも、自然に言うことをホイホイ聞くなんて。
やはり母は猛獣使いかもしれない。
「ええと、その。ラーラに聞いて見てからで良いっすか?」
シンゴ君は引き攣っている。
「あら、そうだったわ。女性の意見が大切よ。
お相手はラーラさんというのね。」
あー、そうか。母は会った事なかったか。
「そう。お料理のお手伝いや子守りをしてもらってるの。クノイチではないの。戦火でご家族を亡くしたの。ネモさんの遠縁よ、はとこ?になるのかな?」
「まあ、そうだったの。お気の毒に。」
「お母さんとはお仕事のお仲間になるわね。」
「うんうん。」
「まあ、神獣様達にこれほど愛されてるお母さんのご近所だもの。ラーラさんも安心するとは思うけど。」
「あ、そうですね。姉さん。ラーラに話して見ます。俺も安心だ。任務で帰れない時もありますからね。」
シンゴ君も微笑んだ。
「あら、そう?お母さん神獣様達と仲良しかしら。
キューちゃんは来てくれるけど。」
物すごく仲良しです。
「さて、あとは使用人ですが、ここの屋敷の評判が悪かったからなかなか集まらなくてですね。
しばらくは護衛もかねて忍びの若いのに交代でこさせます。」
「まあ、悪いわね、アンディさん。」
母も父も一応(失礼)貴族だし、家事は使用人や兄一家がやってくれてたからなあ。
まあ母はウチで賄いを作ってくれたりしてたから、
家事は出来るだろうけど。
もうこれから歳も取ってくるし。雑事をする人は欲しい。
「それでですね。保護施設から何人か連れてこようと思うのですが。」
「それって、ギガント戦の孤児?」
「そうよ、レイカちゃん。そこから忍びの適性がある子を選んで忍びにしたけど、そうじゃない子はね、お屋敷の使用人になったりしてるのよ。」
「あら、そうなの。自立するのは良い事だものね。私もお父さんもしばらくゆっくりしたいから、
そちらのお仕事に行く前に、家の事を教えるわ。」
「流石ですね、お義母さん。孤児を嫌がる人も多いんですけども。」
アンちゃんはにこやかに頷いた。
吉田拓郎の人間なんて。ですね。タイトルネタ。




