ホーム、ホーム、スイートホーム。
六月。菖蒲の花が咲き、紫陽花が色づき始めた頃。
「あのさ、レイカ。ここなんてどう?」
ランド兄さんから連れてこられて物件を見た。
二階だての、瀟洒な洋館だ。(当たり前か。日本家屋はこの世界には無い。)
「うん、お母さん喜ぶんじゃない?」
日当たりが良く、ウチのカフェにも温泉にも近い。
お部屋数もそこそこあるし、住み込みの使用人を雇っても、ミルドルが下宿しても安心だね!
庭にはバラの花が咲いている。
目の前の道は広く、右隣りに一軒家があるだけで、
対面や左隣は空いている。静かそうだ。
ちょっと歩けば商店街もあるしね。
「俺んちは、カフェを挟んで反対側だけどね。」
ちょっと行けば馬車乗り場だし。学園だって徒歩で行けるよ。
「二人に見てもらって決めるか。不動産屋に鍵を借りないとね。」
しかも思ったより安い。
「うーん、悪くないと思うわ。」
母は気に言ったようだった。
「売物件」の札を見て、
「買うんだろ?失敗しないようにしないとな。」
父が腕を組む。
「例えば?オバケが出るとか。築浅っぼいのに。何で安く売られているのかな。厄介な隣人がいて、夜な夜なとてもうるさいパーティを開くとか。」
そういえば、不動産屋さんは同行してないよね?
何で来なかったのかしら?
「そうねえ。物件は夜にもう一度見に行けっていうわよねえ。昼間にはわからなかった雰囲気がわかるんだって。」
うん、以前読んだ住宅情報誌にもそんな事書いてあったな。
そういえば令和の時代はネット中心で、住宅情報誌も見なくなったよね。
と言うわけで、夜来た。
なるほど。暗い。どよーんとしてる。
霊感がない私でもわかる。
――ここ、やべえ。
「なんか寒気がするわねえ!」
「街灯が暗くないか?取り替えればいいのかな。」
カタカタカタカタ。
おや?ランド兄の歯がカスタネットのような音を立てているぞ?
「お、俺さ。メアリアンの近くにいて、占いの仕事とか手伝ったりするうちに、霊感?みたいなのが付いて来た気がするんだよな。
なんか、ここって良くない気がするよ!」
ん?バラの花が枯れているぞ?お昼には満開だったよね?
なるほど。ウチがここを買おうとしたから、本気を出して追い払おうとしてるのね。
館の奥から吹き付けてくる冷気!
「それでね、昼間コップに水を入れて、塩を盛っておいたんだ。リビングの真ん中に。
メアリアンに言われてね。」
「ランド、おまえいつの間に。」
中に入ってみた。
あらら、圧を感じるよ。
電灯をつけたけど暗い。要交換だな。ここも。
「コップが割れてる!塩もばら撒かれてる!」
「大変!お掃除しなきゃ!ほら、そこ踏んじゃダメ!」
お母さん、問題はそこじゃない。
「ちりとりとゴミ箱ないのかしら!管理の人が掃除くらいしてるわよね。」
バターン!
玄関の横の扉が勝手に開いたよ。
「あら、ここにあった!」
掃除道具入れだった様だ。
「おまえ、こ、怖くないのか?勝手に開いたんだぞ!」
「あら、でもホウキの場所わかったし。」
我が母ながら凄いよ。天然なの?最強なの?
怖すぎて麻痺ってんの?
バタ、バタ、バタン!
えっ、キッチンや奥の部屋のドアが開いてたり閉じたり!忙しいね?
意に介せずゴミを、問題無用で外に掃き出す母。
ぐらり。ぐらぐら。
あらら?家が揺れてない?あんまり母が無視したから、本気出してきたのかも!
「やばいぞ、外に出るぞ!」
その時、ランド兄の背中が点滅だした。ツッチーが危険を知らせてる。カラータイマー?
「そうか、キューちゃんを呼んでみましょう。」
母が指輪を合わせてこする!
たちまち満ちる蒼い光。
ゴーーン!
蒼き光を纏ってキューちゃんが現れた。
バリバリバリ。
放電してるぞ。
「キューちゃんはここの嫌な気配を感じてるんだよ!」
「そうなの、もう興奮してるのね。
ね、キューちゃん。
ここね、なんか嫌な感じなの。綺麗に出来ないかしら。
ハイ、アメちゃんあげるわね。」
「お母さん!神獣様の扱い今日も雑!」
ランド兄さんの指摘もなんのその。
母の手からアメちゃんを立て続けに3個もらうキューちゃん。
パクリ、パクパクリ。
目を細めて飲み込む。こういう吊り目系動物の目を閉じた顔ってさ、横から見ると笑ってるように見えるんだよね。
おお、キューちゃんも美味しくて笑ってる?
そして、かっ!と目を見開いた。うん。目が縦だぞ。ケダモノっぽいぞ。
シュウウウアウ!!
青い光が身体中から四方八方に放たれた。
あらら。私の身体も貫かれたけど、あったかくて疲れが取れるわね。聖なるパワーでスッキリよ。
――――ぎいやあああああ。
どこかで悲鳴のような声がする。
嫌な気配も消えていく。黒いモヤが晴れていくように、家全体が明るくなる。
何かが駆除されたんだな。キューちゃんの光は害虫駆除の○ルサンの様なものだろうか。
猫の目食堂も定期的にやってたのよ。そうすると各種○○○リが駆除できるわけ。
「やっぱりなんかいたのねえ!」
「ほらっ、なんか明るくなったよ!」
「良かった。きっとあの黒いのが電気を吸い取っていたんだな!
これで電灯を交換しなくても済むな。」
漏電、盗電、電灯寿命疑惑はともかくとして、この家を覆っている黒いものは無くなったようだ。
「心理的瑕疵物件だったんだな!明日値引き交渉をしないとな。」
「ここはネモさんの紹介なの?」
「いや?一昨日買い物に出たら前を通りかかって。
安いじゃん?って。
でもさ?よく考えたらお店と逆方向なんだよな?
え、俺何故ここに来たのかな。」
うわあ。呼ばれたの?
「そうだ。ね、キューちゃん。桜の木を植えてくれないかしら。
ウチの桜の花びらを押し花にして持ってきたの。」
母が手帳から出したそれを、
キュー、ゴクン。
飲み込んで吐き出すキューちゃん。
青い光に包まれてそこには桜の若木が生えていた。
「ありがとう!嬉しいわ。ハイ、アメちゃん。」
母から追加でアメをもらって、キューちゃんは消えて行った。
とりあえずその日、母と父はメアリアンさんの貸切のホテルに泊まったが、
次の日の朝。母が不動産屋に文句を言いに行くと言う。
それを聞いたアンちゃんが、
「あ、そうですか。ワタシが交渉に行きますよ。
メアリアンさんと、ランドさん、付き合って。」
めちゃくちゃ楽しそうだぞ。
「いけないよね、訳あり物件を説明ナシで売り付けるなんて。このアンディの身内にね。くすくす。」
黒い笑みが浮かんでるよ。
「後で私も、念の為に除霊しますわね。」
「あ!そうか。じゃア、その除霊代も出してもらわないとね?その名前も高き巫女・メアリアンさんだもんね。
それから、一応、買い手はランドさんってカタチでいいかね。呼ばれたんだもんな。」
テンション高くアンちゃん達は出ていった。
「あの館は確かに有名だったんですよ。
一家惨殺が起こったとか。」
ショコラさんがポツリと言う。
「え!」
「でも、キューちゃんが浄化したんでしょ。これ以上安心なことはありませんよ。」
「それに、やはり人を選ぶんですって。探してもたどりつかなかったりするだとか。」
ラーラさんも付け加える。
「えええ、そうなの?」
「多分、気性が真っ直ぐのモルドール一家じゃないと、入れなかったんだと思います。」
そういえば、母はびびってなかったな。
「レイカさんのお母様はキューちゃんの庇護を受けてらっしゃいますからね。」
そして、ヘルハウスではなく、母たちのマイハウスは決まった。
メアリアンさんも、ひと目見て、
「何もいませんわ。清浄な空気が流れてますわ。」
との事だった。
それに元々安かったのに更に半額になったのだと。
「アンディ様のおかげよ!」
母がキラキラした目でアンちゃんを見つめている。
「いや、なに、大したことないですヨ。」
それに引き換え、父と兄の顔色は悪かった。
「黒い悪魔ってホントだね。」
「そうだな。怒らせないようにしような。」
そして、メアリアンさんは。
「家の除霊の仕事の依頼が来るようになりましたわ。そりゃ、お代は弾んでもらってますけどね。」
とぼやいていた。
そして薔薇の花もまた咲いた。
バラが枯れて、さーびしかったー♪ぼおぉくのにーわに♫
真っ赤なバラが。って感じである。
うん、懐かしいマイク○木。かな。
埴生の宿ですね。日本だと。
あと、スゥートホームと言う映画ありましたね。
宮本信子とレベッカのNOKKOが出てた記憶があります。




