親の心子知らず。いや逆だね。子の心親知らず。
誤字報告ありがとうございます。
それから1週間後。
ジャスティンさんに連れられて、背筋が伸びてシャンとした美老人(こう言う言い方が合っているのかはわからないけど)が、カレーヌ様のお店に来た。
執事のペーターさんだ。ヤギを追いかけるより、
美の壺を愛ででるほうがお似合いのダンディさんだ。
「あー、ここは落ち着くわー。」
カレーヌ様が伸びをしている。
「ペーターが息抜きをしてらっしゃいませ、お嬢様。と、言ってくれたのよ。」
ウチのレストランである。
何とヴィヴィアンナ様が来てくださったのだ!エリーフラワー様、メアリアンさんもだよ。
「カレーヌ様。お辛い時にお助けできなくて。」
ヴィヴィアンナ様が泣きそうな顔で頭を下げる。
そのお詫びにとお茶会を提案されたのである。
ご実家のご領地の、名産のジャムを沢山持参してくださったので、ジャムサンドを出した。
「何をおっしゃるの!あの日はご実家のお祖父様が高熱を出してらっしゃったんでしょ!
大丈夫でしたの?」
カレーヌ様は顔を横にふって、ヴィヴィアンナ様の手をとる。
美女二人の、美しい光景である。
そう、ヴィヴィアンナ様はご実家の公爵家にお見舞いにいってらして、あの会議室の騒ぎを知らなかったのだ。
「ええ、エリーフラワー様のところのお薬ですっかり。」
解熱剤を開発されたそうだ。メリイさん達と一緒に。すげえ。
「柳の皮でアスピリンとか。とにかく半年くらい前から研究室一丸となって開発したの。お役に立てて良かったわ。」
そうなのか。良くわからないが素晴らしい。
実はヴィヴィアンナ様のお祖父様は結構危なかったらしいのだ。高齢だったし。
「祖父が助かったのは、エリーフラワー様のおかげですわ。」
ふんわりと笑う麗人。
「おほほ。それほどのこともないわ。いや、やっぱりあるかしら。」
なごやかな会話っていいなあ。
そして、ヴィヴィアンナ様はカレーヌ様に向き直る。
「カレーヌ様、これから私に出来ることがあれば、何でも言ってくださいませ。」
「うう。ヴィヴィアンナ様、ありがとう。これからもお茶に付き合ってー。愚痴聞いてー。」
「ええ、それはもちろん。」
白い歯をみせて微笑むヴィヴィアンナ様。相変わらず素敵です。ずっきゅん♡
「兄上は良いんだけどさ、父上がね。」
カレーヌ様の声が沈む。
「もうね、沢山の釣書を送りつけてくるのよ。ほんっと信じられないわ。男なんかいらんつーの。」
「まあ。」
「母上はね、私の味方なの。父の側室二人と揉めてさ、苦労したからね。結婚なんか無理してしなくていいって。
先日もビレイーヌの顔を見にきて、たんまりとお小遣いをくれたわ。」
「あら。」
「いらないって言ったけどさ、これはビレイーヌにあげるのよ、将来この子のために貯めておきなさい。とね。」
「良いお母様ね。」
一同頷く。
「でしょう?私ね、いずれ母上を引き取ろうと思うのよ。商売を頑張ってね。それが目標。」
「うん、良いんじゃないの。目標があるのは良い事よ。」
「レイカならそう言ってくれると思ったわ。
それからね、エリーフラワー様。
キューちゃんにお菓子持ってきたの。あげてね。
お世話になったみたいだし。
あと、龍太郎君にも。研究所で会う?
私はなかなか会えないけど。」
「まあ!二人?とも喜ぶわよ!コレはチョコクッキーね?」
「生地はミルフィーユっぽいかな。形はハートにしたのよ。まあ、ハートチョコパイとして売りだすの。」
イメージは源氏○イにチョコが掛かってるヤツだ。
「えー!美味しそう。」
「ふふん。美味しそうじゃなくて美味しいのよ、レイカ。
みんなの試食分もあるのよ。こっちはホワイトチョコバージョンね。」
嬉しい、美味しい。
「そういえば、レイカ。こないだ王妃様からご注文をいただいたの。
きのこの○、たけのこの○というチョコ菓子が食べたいって。わかる?」
なるほど。あの論争を起こす程のお菓子か。
「わかる。きっときのこ○山、たけのこ○里は、アナタの代表作のひとつとなるでしょう。」
「 ! そんなに?」
「ええ、そんなに。」
私も食べたい。どっちかといえばきのこ派なのである。
「これがね、参考資料なんですって。」
カレーヌ様は王妃様が描かれた絵を持参していた。流石プロですね。リアルです。
その絵を指して説明する。
「きのこの軸はビスケットぽいかな、たけのこの下のほうはクッキーよ。」
「なるほど!ふふふ、やるわよ。どんどん事業を拡大して、工房もどんどん増やしてがっぽり稼いでやるわっ!」
パチパチパチ。
一同拍手。
「コーヒーのおかわりは、いかがですか?」
ラーラさんがポットを持ってきた。
「ふふ、ありがとう。いただけますか?」
ヴィヴィアンナ様を見て、
「はいい♡」
赤くなってるよ。気持ちはわかるわ。
「そういえば、メリイさんもだけど、ラーラさんもドレスのデザインは決まったかしら?」
エリーフラワー様が声をかける。
「はい、えっと。こないだ、見せていただいたあのデザイン画のドレスがいいな、と。」
「OK!あれね。小さなリボンが沢山付いてるやつね。」
ラーラさんが頬をそめて頷く。私も見せてもらったけども確かに彼女に似合うだろう。
「もう、絹織物の生地はできたの?」
メアリアンさんが声をかける。
「そうね、まだかなあ。またキューちゃんが繭をもらって来てくれるって。」
「あ、そういえばモスマンへのお礼って。」
どうしたんだろ。
「ハチミツですってよ。ハニ、ハニーね!」
エリーフラワー様がにこやかに答えた。
あー、やっぱり蛾だからか。
「養蜂箱から出したばかりの巣が付いたままのもの。あれが好物らしくってね。巣蜜っていうの?」
ああなるほど。前世で2回ほど買ったわ。美味しいけど口の中に蝋が残るんだよね。
「あれをね、アンディ様がダイシ商会から仕入れてきたの。キューちゃん経由で渡したわ。」
うん、一割くらいキューちゃんが食べてると思うね。
「あ、そうだわ。カレーヌ様。ミネルヴァがコンドラ本舗のマークを描いたの。どうかしら。」
「見せて見せて!あら、可愛い。」
2頭身のキューちゃんと龍太郎くんが腕を組んでる。足はスキップしてるのかな?片脚あげて、ウィンクしてるよ。
子供らしくて良い絵だ。
「いいじゃないの。」
そこに、アンちゃんが入ってきた。
「ご歓談中、ごめんなさいね?
今、ネモさんから連絡があってね。
ヴィトー公爵家からの使いという、男達が駅で五人ほど焼かれそうになったって。」
「それは。」
ヴィヴィアンナ様が美しい眉を寄せる。
「ウチの家からの使いって。」
カレーヌ様の顔が強張る。
「ふふん。貴女の花婿候補を送りこんできたのね、
お父上が。それで弾かれたと。」
エリーフラワー様の口元が上がって皮肉な笑みになる。
「松子ちゃんチェックが入るってことは、邪な気持ちを持ってたってことね。」
「そうね、レイカ。もー!我が父ながら、ろくな人選をしないわっ!」
アンちゃんが頭をかいて話を続ける。
「でね、1人だけ残ってるの。ペーターの息子さんでね。父の補助に来ましたと。
邪心は無さそうだし、花婿候補でも無さそう?だけど。どうしますか?入国させますか?」
カレーヌ様が目を見開く。
「ペーター爺やには息子が五人いたけど。どの子?」
「1番下の息子ですよ。ハミルトンです。」
カレーヌ様はため息をついた。
「あ、うん。わかった。1番気が利かないやつね。
良いわ。入国させて。腕っぷしは強かったから、
力仕事と用心棒にはなるでしょ。」
「はい、では。」
そういうわけでカレーヌ様のところにスタッフが増えたのだ。
枯れオジのペーター爺やはともかく、ハミルトンさんは通いになったそうだ。
ウチに納品に来るようになったが、気は優しくて力待ちという感じである。
そしてアンちゃんに懐いている。
「アンディ様〜お久しぶりです。」
「あ、そうだな。久しぶり。でもさ、オマエといっしょに働いたことはねえだろ。オレがヤー・シチ義父の所に引き取られたときは、オマエまだ五つくらいだったじゃねえか。」
「でも、覚えてますー。それから何度もリード様やアラン様とヴィトー公爵家にいらっしゃったじゃありませんかー。」
「ああ、まあなア。」
「その時、良くお菓子を下さいましたー。」
「…俺もヴィトー家にいる時は飢えてたからな。ついな。でもオマエは執事の息子だからお菓子なんか珍しくもなかっただろ。」
「いえ、兄貴達に取られてー、いつも腹ペコでした。」
「まあ、上に四人もアニキがいればなア。」
それをシンゴ君が怖い顔で見ている。
「ちっ。アイツ。アンディ様にべたべたと!」
ハンカチがあったら噛みそうだ。
「でも、邪心は無さそうよね。」
「姉さん。まあ、そうですが。」
「貴方がアンちゃんの一番弟子なのは間違いないんだから。」
ぱあっ。
シンゴ君の顔が明るくなった。
「そうですか、そうですよね!」
……やれやれ。
美の壺を愛でる老執事。はい、草刈さんのイメージで。




