魂(たましい)下ろしも、さっそうと。
リード様とメアリアンさんが並んで座る。
二人が薄い光に包まれる。
そこにキューちゃんが姿を現した。
神々しい姿に畏れ慄く、裁きを受ける人たち。
「し、神獣さま?」
リード様は微笑んだ。
「魂下ろしに力を貸してくれるんだね?」
そしてローレン一行に向き直り、
「良いか。神獣様は全てを見通す。巫女姫にチカラを貸す為に現れた。ゆめゆめ彼女の言葉を疑うでは無いぞ。」
リード様が手を繋ぐ。メアリアンさんが目を閉じる。
その反対側の手にキューちゃんがちょこんとお手をしてる。可愛い。
青い光が放たれる。
すると、メアリアンさんの身体に重なるようにして老女が現れた。
「母上!?」
「お婆様!」
【この馬鹿息子に馬鹿娘!馬鹿孫たちがあ!何をしてけつかるねん!ああん?
右のほっぺを出せ!ビシビシ打ってやる!
次に左のほっぺもじゃあ!ビシバシじゃっ!】
結構、ガラッパチなお婆様の様だ。
「ああ!懐かしいお母様!」
「ビシバシ!間違いなく母上の口癖!」
どう言うお婆様だったのか。一応貴族だったんじゃ無いの。
【あんたらが心配で成仏できんのじゃ!
なんや。ヘリッツ!ギャンブルばっかりしおってからに!
タリー!おまえは嫁いびりばかりじゃ!男ば産んだとがそんなに偉かったとか!馬鹿ちんがっ!
子供がおらんやったから、潰れたローエン家のことも散々嬉しそうにこき下ろしていたろうが!
そのおかげでリックが継げたやんか!?
それから自分の長男夫婦も次男夫婦もな!娘しか生まれとらんから、嫁子達をいじめ倒したろうが!
男の子、後継ぎとこだわるから、ヘリッツにつけ込まれたんじゃき!
ふん、おめーがそんなんだから、三男は嫁に逃げられたんだべ!】
各種方言を混ぜまくるお婆様である。
うーん、カレーヌ様の兄嫁さんも弟嫁さんも、散々いびられてるんだな。この鬼姑に。
そこでメアリアンさんの姿が変わる。三十代後半の女性だ。
「お母様!」「おまえ!」
フルールさんとイカサマ野郎が叫ぶ。ふうん。お若くして亡くなったんだな。
【そうですわ!私もタリーさんにはいびられて!
娘のフルールが生まれた時も。女だからって散々バカにして。
息子のジャンが生まれたらやっと大人しくなったけど!それまでどんなに当てこすられたか!】
「おまえ、そんなことしてたのか。」
ポツンとローレン子爵が言う。
「タリー、我が妹ながら引くわ。ウチの妻までいびっていたのか。おまえに関係がないだろうに。」
フリード子爵も言う。
「何よ!ちょっと美人だからってチヤホヤされて調子乗ってたクセに!
男子を三人も産んだ私の方が偉いのよ!
もっと!みんな!私を讃えなさいよ!」
きいきいと叫ぶババアこと、タリー。
なるほどなあ。彼女は容姿にコンプレックスがあったのか。確かにこの亡きフリード夫人は綺麗な人だ。
そのコンプレックスは今、カレーヌ様に向かってるのか。
【タリリリリイ!!
私は、私をいびったおまえを許さない。
私は血を吐いて死んだ。ストレスで胃に穴が空いたのよおおおお。
ああ、とても痛くて、つらかった。
私を苦しめ、死にいたらしめたのは、
…その犯人は
―――――おまえだああああああ!!】
ビシ!と鬼ババアことタリーを指さすフリード夫人!
古典的な怪談のオチだが、怖いぞ!
迫力満点だ!
【ふははははは!祟ってやるうー!!】
「ひえええ!!」
おや、また老女の顔に変わる。
【この馬鹿娘が!それに妻がいびられたと気がついていなかった馬鹿息子!
それからな、自分の妻が嫁いびりをしていたのを見て見ない振りをしていたな、ムコ殿!
それから、不貞をした孫達!
どいつもこいつも人の道から外れとるやないかい!】
指で1人1人を指さす。
【…まとめて、この婆が地獄に連れていってやろうか?!
そうしてやろうか?しゃー!】
ああっ。LIF○の名作コントのようだ!
がっくん。
そこで、いきなりメアリアンさんがダラリとした。
「うん?もう接続が切れたみたいだ。二人分だからね?お疲れ様。」
リード様が彼女を助け起こす。
キュー。
癒しの青い光に包まれてメアリアンさんは目を開けた。
「ありがとう、キューちゃん。回復したわ。」
「いや、物すごいね、魂下ろしは。メアリアン、ご苦労であった。楽にしてくれ。」
「はい。」
オー・ギンさんが来て、水を持ってきた、
そのまま椅子に身を横たえるメアリアンさん。
「さて、だいたいのことは了解したか。
沙汰を言い渡す。
まず、リック。カレーヌと離縁して、フルールと結婚せよ。嬉しいだろ?三人で仲良くな?
なーに、オマエとは血が繋がってない子供だが、気にするなよ!
カレーヌの事業への賠償金、不貞の慰謝料、娘への養育費を働いて払うのだ。
なんの瑕疵もない、リックの兄夫婦は、ローレン家をそのまま継がせるがよい。
それからフリード家は息子のジャンに継がせよ。
元々後継者がいなくて、リックが継いでいたローエン家は本日を持って消滅する。
ローレン子爵夫婦と、フリード子爵のヘリッツ、そしてリックとフルール。
…このものたちはこの場をもって貴族籍を剥奪する。」
「そんな!」
「みんなで、働いてカレーヌへの賠償金を払うのだ。
おまえたちが粗悪品をばら撒いたおかげで迷惑をこうむっておる。
嫌なら影のものに始末させるか、神獣様に焼いてもらうか。
それでもいいがな。」
「そうですね、父上。やはり鉱山送りですか?」
リード様が同意する。
「逃げないように、ヘビをつけましょう。」
ネモさんからヘビが放たれて、巻きついた。
「う、うわっ、取って!助けて!」
「リック、フルール。子供がいるから温情として三人一緒に住んで、働くことを許す。
下働きとして牧場に住み込みで働くと良い。北の牧場でな。」
あら、とても寒いところでは。
「後は鉱山送りだ。タリー夫人はそこで賄い婦をやる様に。」
「……。」
「乗っ取りを企てたのだ、命があるだけマシだと思え。」
「そんな!わ、私は何もしておりません。」
カレーヌ様の義父で鬼ババアの夫か。
「何を言う。何もしなかった?妻が嫁いびりをしていたのを知っていたであろう?
リックが度々帰ってきて、金品を貢いでいたのも知っていてその恩恵に預かっていたでは無いのか?」
そこに、ヤー・シチさんがきて耳ウチをした。
そして王は頷いた。
「私はな、影のものにおまえの素行も調べさせていたのよ。私が睨んだ通り、若い女のところへ通っているそうではないか。
嫁いびりをする妻に嫌気をさしてキミと結婚したいと言っておったそうじゃな。
仕事は長男に押し付けて良い身分だな。
まあ、そなたはフリードよりは楽な鉱山に送ってやるよ。」
「何ですって!」怒る鬼オババ。
うわあ。クズのオンパレードだよ。
「キミたち。私のヘビから3回噛まれると死に至るよ。他人を攻撃したらカブリと行くんだよ。
ふふ、ケンカはほどほどにね?」
ネモさんが怖い笑顔で付け加える。
「タリーさん。私の目には貴女の首に手をかけて締め付けようとしている、元フリード子爵夫人が見えますわ。
それから、ヘリッツさん。貴方のお母様が背中にずっと張り付いていましてよ。そして頭を殴ってらっしゃるわ。」
「く、咽喉が苦しい。」
「あ、頭が痛い!」
速攻で祟られてるようだ。
「この馬鹿どもを連れていけ。二度と私の目に触れさせるな!」
「は!」
第一騎士団の屈強な騎士たちから引きずられて彼等は退出した。
おや、騎士団がエドワード様に目礼をしているぞ。
エドワード様も軽く手をふって答えている。
「おほほ。私の出る幕はなかったですわね。」
「ヨシヨシ。キューちゃん、よく耐えましたな。
さて、私たちはお暇しましょうかな。」
そうしましょう。私も帰らなくては。カレーヌ様も心配だし。
「おお、そうか。才女殿。会えて嬉しかったぞ。
リード、もう夜も遅いから泊まっていくか?」
「そうですね。」
「アンディ、久しぶりだから一杯付き合えよ。」
「はい、アラン様♡喜んで。」
今は夜の8時半である。あっという間だったな。
ネモさん、メアリアンさんとエリーフラワー様ご夫婦。
みんなと一緒にキューちゃんに運んでもらって、私は帰宅した。
明日はきっと良い日だ。
すみません、とくに、タイ○ースのファンではありません。
タイトルはアレですけど。




