裁きの時。
青い光に包まれて、目を開けるとグランディ王宮の謁見の間だった。
「これは、どうしたのじゃ。リード。」
王妃様が驚いてらっしゃる。アラン様とお二人でルルド国の大使と面談中のようだ。
「母上。お話が。」
珍しい。王妃様に会ったのに、ははうえー!と言わないレアなリード様である。
アラン様も目を丸くしている。
「アンディ?どうしたんだ?」
やはりアラン様の注意はアンちゃんに向くんだな。
王妃様は眉を顰められた。
「皆が雁首揃えるとはの。ローレン家の事じゃな。」
「ご存知でしたか!」
「すまぬ、人払いを。ルルド国のお父様に宜しくな。」
「は、御前失礼致します。」
ルルド国は王妃様の実家だったな。
大使はリード様に優しい眼差しを送って出ていった。
「爺やも老けたな。」
リード様がポツンとつぶやく。
王妃様が話を切り出した。
「まず、私の方には粗悪品クッキーの話が上がってきておるのじゃ。良く見ると本家・ローレン工房と書いてあってな。
カレーヌが暖簾わけしたのかと思ったのだが。
カレーヌはローエンじゃからの。
兄夫婦に作らせてるのかと。あちらはローレンだからな。
ややこしいからな。カレーヌには元祖と名乗らせようと思ったのだが。」
どっかの老舗の揉め事みたいじゃないか。
元祖と本家。
「母上、話はそれだけではないのです。ローレン家の乗っ取りです。」
「なんじゃと?」
「実は…」
リード様の話を聞いて王妃様とアラン様の顔が見る見る強張った。
「随分と舐めてくれたものじゃのう。王が決めた婚姻を勝手に反故にするのかえ。しかも隠し子とはの!
その上、托卵しての乗っ取りとはなあ!
その前にカレーヌの開発したものも勝手に横取りしておるしのう!
盛りだくさんじゃ。」
「ええ、トッピング増し増しのラーメンみたいに罪状が大盛りですよ!母上。」
アラン様。以前うちのラーメンを気にいってくださったのはわかっておりましたが。
その表現はいかがなものかと。
「母上、父上に話を通しましょう。そしてローレン家とその叔父ですか?申し開きをさせましょう。」
「ふむ。その腹黒イカサマ賭博のヤツはフリード子爵家か。」
「アラン様。このアンディに粛正を申しつけ下さいませ。」
アンちゃんの目は座っている。
ギュウウウ。
「キューちゃんも許せないと言ってるでごわす。カレーヌ様は美味しいお菓子を、作ってくださいますからな。」
そういえばキューちゃんは甘党だった。
王妃様が王様をお呼びになった。
相変わらずのイケおじである。
「おお、リード来ておったか。奥方とお子は元気であるか。
ここに来るまでにスケカクから話は聞いておる。」
あら、それは話は早いね!
「ネモ公よ。わざわざご足労頂いたな。ローレン家とローエン家とフリード家はな、潰しちゃおうかな。くしゃっとな。」
王は手で丸めた紙を潰すゼスチャーをした。
「御意。」
ネモさんが頷く。
「カレーヌは実家の姓を名乗らせる、公爵家に戻るというわけじゃ。あちらももう代替わりして、カレーヌを溺愛している兄が継いでおる。」
王の発言に王妃様は頷かれて、ため息をつかれた。
「カレーヌの父は三人の妻がいた。以前はリードに側妃がいても平気と発言しておったが、
やはり当時者になると変わるものじゃなあ。」
リード様が眉をひそめる。
「母上、彼女も苦労して現実を見たのですよ。
やはり隠し子と、お金の搾取は良くないでしょう。」
おや、リード様が王妃様に意見するとは。
「そうじゃな。カレーヌの父は正室以外には子供はおらんかったの。そこはわきまえておったの。」
ふうん。カレーヌ様の所は二人兄妹か。だから仲が良いんだな。
そして、さりげなく王様に嫌味を繰り出す王妃様だ。怖いよう。
「こほん。メアリアンよ、そなたの力を借りることになるな。その二股女の母はまだ成仏していないのだろう。その言葉を伝えれば真実味が増すであろう。
生まれた子供がカレーヌの夫の子供ではないとな。」
「ええ、王様。それに、そのオババとイカサマ野郎の母もおりますわ。彼女も悲しんでおります。」
「奴らをひったてい!」
「はっ。」
一時間後、王国第一騎士団に引きずられるようにして、
カレーヌ様の夫と若い女、
そして中年男女が三人引きずられてきた。
なるほどねえ。ローレン家夫妻とフリード子爵か。
そして、ああ、カレーヌ様のご主人だな。
では隣りの若い娘が相手か。
茶色の髪に茶色の目。痩せた女性だ。
「王の御前であるぞ。控えい。」
「は、はいっ。」
みんなの顔色は悪く震えている。
ズラリと並ぶ要人たちに彼らは驚き恐れている。
何しろ王家勢揃いにネモさんもいるものね。
そしてキューちゃんは姿を消しているけど、近くにいるのは間違いない。青い光が漂っている。
そしてアンちゃんは物かげに控えている。
私もカーテンの後ろから見学だ。(この中では一般人だもの。エドワード様やエリーフラワー様やメアリアンさんと違って。)
「ローレンよ、そなた私が整えた縁談を勝手に反故にしようとしたな。
それから、後継者も勝手に変えるとはのう!
ローエン家とローレン家の入れ替えか!王家になんの断りも無くか!」
「も、申し訳ございませぬ。」
平伏するローレン子爵。コレがカレーヌ様の義父か。
「し、しかし。カレーヌには男子が生まれませんでしたから!」
コイツがオババか。
「黙れっ!私が直答を許したか!」
王の怒りは凄まじく騎士がババアを押さえつけた。
「ひ、ひいい。」
「仮にそうだとしても!離縁してからであろう!
その前に不貞をしても良いと言うことはあるまいよ!」
王妃様が睨みつける。リード様とアラン様もだ。
王家三人の不貞嫌いは世間に広く知られている。
「フリード子爵よ。そなたやってくれたな。
娘を使ってローレン子爵家の乗っ取りか。
カレーヌの夫、リックの子供ではない赤子を使ってな!」
そうそう。カレーヌ様のダンナさんはリックと言った。
「え!」
驚きの一同。特にオババは口をあんぐりと開けている。
「なあ、ローレン子爵夫人よ。おまえの兄と姪はなかなかの悪人だな。確かに赤子はおまえの姪の子。
おまえの血筋ではあるが、ローレン家の血は引いておらぬ。」
「な、何ですって!」
「これは立派な乗っ取りであろうよ!フリード!
そなたの家は借金だらけらしいの!
リックからイカサマギャンブルで、金を搾り取っただけでは飽きたらず、リックの子供でも無いのに後継ぎにさせようとはな!」
王妃様の断罪は続く。
「そんな馬鹿な!兄上!あの赤ん坊は息子の、リックの子供では無いのですか!」
「知らぬ!私はただ、娘が昔から好きだったリックと結婚させたかっただけだ!
リックの所はスイーツで儲かっているから、楽が出来るだろうと思って。」
いきなり兄妹喧嘩を始めるオババとイカサマ野郎。
「うるさいの。元々カレーヌの稼ぎではないか。
ふざけておるのか。」
王妃様の言葉は怒りに満ちていた。
「メアリアン。引導を渡してやれ。」
「はい。」
王様の言葉を受けて、ベールを纏って占い師仕様になったメアリアンさんがすっと現れる。
「貴女。私を覚えてますわよね。確かフルールと言ったかしら。カレーヌ様の身内だからと言って、飛び込みで胎児の性別を知りたいと言ったわよね。」
「あ、ブルーウォーターの巫女姫様!」
「私は死者の声を聞くもの。貴女のお母様が横でずっと泣いてる。
あんな平民の商人の妻帯者に騙されて。リックと同じ髪と目の色だからと言って。」
「そ、そんな。私もどちらの子供とわからなかったのです!」
「…貴女がリックと関係を持ったのは私のお告げを聞いてからだそうじゃないの。
お母様が泣きくずれてる。小さな頃、リックから貰った四つ葉のクローバーをずっと栞にして大切にしていたそうね?本に挟んだそれを風に飛ばされて、拾ってくれた、あの男。
次に会った時に新しい四つ葉のクローバーをくれた男に、フルールさん、貴女は恋に落ちた。
妻がいる女ったらしに。」
「何故それを!」
「貴女のお母さまが言ってるの。そして貴女は孕った。
それを知った貴女の父親フリード子爵は、相手を調べ平民で妻帯者と知った。」
「ふん、それでリックとやらに托卵を思いついたのじゃな。」
「ええ、王妃様。ギャンブルに誘って。賭けに負けたら罰としてお酒を飲ませた。
そして、リックを泊めて娘を同室に放り込んだ。」
「そうやってはめたのか!」
リード様の声は怒気を含んでいた。
「え!俺の子じゃないの?本当に?」
声をあげたのはカレーヌ様の夫のリックだ。
「後継ぎが生まれたと喜んでいた私が馬鹿みたいじゃないか。」
「う、嘘ですよね?その子はリックの子ではないの?!」
青い顔をして叫ぶオババ。
「オバ…いえ、ローレン子爵夫人。貴女、タリーと言うのね?貴女の母も来ているの。貴女のことも、孫のリックのことも心配している。そして息子のフリード子爵こと、へリッツのことも。」
…メアリアンさん、オババと呼ぼうとしたな。
「え!」
「出鱈目を!」
口々に叫ぶ面々。
メアリアンさんがリード様を見た。
「リード様。魂下ろしをしとうございます。
お力を。」
「承知。」
この後魂下ろしが終わってから、
王からオババ一族に対する処罰が言い渡されるのだろう。
「もう。面倒くさいからあの辺みんな皆殺しでいいじゃん。」
アンちゃんのつぶやきに、
キュー。
かすかな声で、姿は見えぬキューちゃんがお返事だ。
怖いよう。
なんかもうお腹いっぱいだよ。断罪劇なんて。
お腹痛いことにして、早退して良いですか?




