表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続 グランディ王国物語  作者: 雷鳥文庫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

258/288

眠れる獅子は起こしてはいけない。

誤字報告ありがとうございました。

 何とも言えない雰囲気の中、レストランの奥からラーラさんがソーセージとポテトを持ってきた。


「お待ちどうさま。」

「美味しそう。そして美味しいわ。」

…みんな良く食べられるなあ。

「さあ、どうぞ。ぐっとやって下さいな。」

アンちゃんがみんなの前にビールのグラスを置く。その顔は怒りに歪んでいる。


「…方針が決まったら私にもお教えくださいませ。カレーヌ様。」


うわあ。目の端に見える。アンちゃんが研いだナイフを眺めてるのが。


ふっ。


髪の毛を一本抜いて刃先に吹き付けたぞ。


ふぁさ。ぷつん。


抵抗なく切れたぞ!



カレーヌ様はキューっとビールを飲み干した。

「うん。とりあえずビールおかわり。あとね、メンチや唐揚げとか?王妃様お気に入りの物を出してっ。

この際憧れのメニュー食べまくっちゃる。」



なるほど、憧れだったのか。確かにあまりカレーヌ様は王妃様とお食事はしてないかもね。

それは良いけどピッチ早くない?


「はっ。ご注文承りました。」

アンちゃんは奥に消えたがどうせ聞き耳を立ててるんだろう。


「ふっふふふ。私があのババアに散々嫌味を言われたのは知ってるかしら。娘しか居ないからよ。

ふん!義兄のとこだって娘じゃん!

だいたいねえ、結婚した時からグチグチ言われてさ。私のことが気にいらなかったのよ。

公爵家の嫁は気位が高いに決まってるとか、可愛い顔してチヤホヤされてきて、人生舐めてたんでしょ。ってね。」

「あ、そうなの。」


カレーヌ様のご主人はカレーヌ様のことが昔から好きだった。息子を取られた気持ちが強かったんだな。

デレデレしてる我が子を観るのが嫌だったのか。よくある話だ。子離れしてないんだな。


エリーフラワー様もビールをあおる。

「ふう、カレーヌ様。ご実家の公爵家にも報告なさったの?」


「まぁだよ。こないだね、レイカと会った時は隠し子がいるとは知らなかったのよ。

ただね、さっきのカードイカサマ親父の娘。

つまり従姉妹がね?旦那のウワキ相手じゃないかと言うウワサがあったの。

いき遅れでさ。昔から旦那が好きだったみたい。

ババアはそいつと結婚させたかったらしいのよ。

ふん。知るか!旦那は昔から私にお熱だったんだから。」


メアリアンさんはワインをゴクゴク飲んでいる。

その後ビールに手を出している。


私は何も喉を通らないのだが。


「飲まずにはやってられませんわ。半年くらい前かしら。お腹が大きな女性が1人で来ましたの。

お腹の子の性別を知りたいと。付き添いの義母は駅で弾かれたけど、ずっとそこで待ってる。

もし、男ではなければ始末しなさいと言われたと。大泣きしてね。」

はあっ、と息をつく。

「私にもビールのおかわりをくださるかしら。ポテトと良く合うわね。」


アンちゃんがビールを持ってくる。

いや、みんな早いって。飲むペースが。

と言うか、強いね?まあ、夕飯にワインがつきものの国だからな。


「もうすぐ、唐揚げもあがりますよ。メアリアン義姉さん。」


「ふふ、アンディ様に給仕をしていただくなんて恐れ多いわね。

で、話の続きですけどね。普通はそんな飛び込みの依頼は受けないの。

だけどね、カレーヌ様の親戚と言うから特別に。

確かにビレイーヌちゃんと似たオーラを感じたの。」


カレーヌ様が鼻で笑う。


「そうね、例の従姉妹だったのね、それが。

そりゃビレイーヌと血は繋がってるでしょうよ。彼女にしたら、ウチの子はハトコですからね。」


メアリアンさんは頭に手やった。


「それでね、ひと目で男の子だとわかったから。

泣いてる妊婦が気の毒になって男の子よ、と言って教えたの。彼女、喜んだわ。くれぐれも貴女には内緒に、と言っていたのが不思議で変だとは思ったの。カレーヌ様の名前を出してゴリ押ししてきたくせに。

…利用されたのね、私。」


そこに出来たてのメンチがきた。


「ふうっ、昼間からのビールは効くわね。

レイカさん、飲まないの?あ、そう?

それでそのふとどきな女は妊婦だから入国出来たのね。キューちゃんは妊婦には優しいからね。

意地悪バハアは弾かれたと。もう嫁姑気取りとはねえ。」

エリーフラワー様は色々、すぐに理解できるのだな。


「でも旦那の子じゃないの?私にあのババア、男の子が産まれたから出ていけ!って言ったのよ!

三日前に手紙が届いたの!

工房や稼いだお金も置いていけ、無一文で娘連れて出ていけ!ってさ!」


「はああ?だって工房とかやってるのはカレーヌ様でしょうに!」


とりあえずワインをひとくち飲んで気を落ち着ける私。

いかん、悪酔いしそうだ。水にしよう。


「ふん。だから良い弁護士を紹介していただきたいの。もうあんな馬鹿には未練もないし、ずっとあの一族にたかられるのはごめんなのよ。」

カレーヌ様が頭を抱える。


「事実を確認したいんだけど。」

エリーフラワー様が言う。

「カレーヌ様。ご主人は今どこに?」


「ババアのとこよ。ババアは跡取りにするって。男が生まれたから私と離縁してあの女と再婚させて、長男夫婦を追い出すんですって!」

「……へえ。 最後にご主人が戻ってきたのは?」

「半年前。」

「うん、お腹の子が男子とわかった頃か。

ハメられたわね。」

「 ? 」


「多分ね?10ヶ月くらい前、ご主人は一服もられたの。そしてこの従姉妹とそう言う関係になった、と思わせられた。」

「エリーフラワー様、なんでわかるの?」

「カレーヌ様。キューちゃんが許さないわよ。不貞をしたヤツを。貴女が産後でふーふー、言ってる時に。

キューちゃんにはご主人がシロなのはわかっていた。だから帰ってきたの。」


カレーヌ様は腕を組んだ。

「じゃア、最近帰ってこなくなったのは、帰ってこれなくなった、と言うことなのね。」

「ええ、キューちゃんの怒りにふれたのね。」

とメアリアンさん。


「ふーん、それでは、あのバカはその後、やはり一線をこえたと言うことなのね。自分の意思でね。

はっ!安定期になったから安心と言われて盛ったか。

私が産後で授乳も大変な時にね!仕事もしてたって言うのに!

確かにもっとボクに構ってよう、って甘えたこと言ってたな!あの僕ちゃん!

おまえがもっと育児に協力しろ!

大した仕事もしてなかったくせに!宿六がっ!

で、松子ちゃんチェックに引っかかったと。

…ふふふふふん、上等じゃねえか。」


カレーヌ様。声は笑ってるけど顔が笑ってないわよ。それにガラが悪くなっているわよ。 

バカだの僕ちゃんだの宿六だのと、色んなバージョンで、ののしってるわ。



「多分、その従姉妹は妊娠して父親に逃げられたかで、ご主人を嵌めたか。

または、ご主人が薬をもられても手を出さなかったから、あえて他の男とそう言う関係になって身籠ったか。

そしてご主人に貴方の子よ、と。」


メアリアンさんが淡々と語る、そしてビールを飲む。


「えええ?そこまでする?」

気色悪い。

「まあもともと二股かけてたか、二股かけようとしたか。

そこにインチキギャンブルの伯父さんがかんでいるわね。

娘を、カレーヌ様のご主人の子を孕んだ事にして、嫁がせようとした。

男を孕んでたら、後継にできるぞ、と。占い師に確かめてもらえ。と言ったのね。

その義母さんにもね。」

淡々語るエリーフラワー様。

うん?それって?


「そう。気がついたわね。レイカさん。ローレン子爵家の乗っ取りよ。」

エリーフラワー様はビールをあおった。


「ふっ、けったくそ悪い。ビールくださいな!」

「はい、エリーフラワー様。ただいま。」

鬼の形相のアンちゃんがビールを持ってくる。


「つまり、生まれた子はお姑さんの血筋だけど、ローレン家の血筋ではないのね?」

「ええ、レイカさん。私にはローレン家のオーラは感じられませんでした。

胎児から感じられた父親の姿は、焦茶の髪の茶色の目の男。

感じとしては出入りの商人ですね。妻帯者のようです。」


「え!」

「その従姉妹のお母様は亡くなってますね。

あの時、私が胎児の性別占いをしてた時、側にきてましたのよ。

そんな子供を産んではダメ、父親は平民の男じゃないの!と叫んでました。

私は、平民に嫁いだ貴族令嬢なのだな。男を産めといびられてるのだな、と。同情したのですよ。

死んでからも、娘が平民の子を産むことを憂慮している母親にもね。

…馬鹿みたいですわね。」


一同無言である。


「…ただ、カレーヌ様のご主人と同じ髪と目の色だし、お姑さんは息子さんの子供と信じきっていますね。ローレン家の跡取りだと。」

メアリアンさんの発言は続く。


「だってさ、もうカレーヌ様たちは、ローレン家を出て、名ばかりだった(失礼)ローエン家を継いでるじゃない、関係ないでしょ。」

ローエン家は後継がいなかった、ご主人の父方の親戚と聞いている。

名前がややこしくてすぐ間違えちゃう。


「レイカさん、多分スライドさせる気よ。そのババアは長男をローエン家にして、

次男をローレン家に戻す。なんとしても後継の男子か欲しいのね。」


恐るべき執念である。


ババアは三人の男子の母だ。きっとそれだけが自慢で心の拠り所だったのだろう。

私だって前世では娘しかいなかったから、夫の方の親戚に色々言われたもんだ。

「次は男ね」と。腹が立ったが昭和の価値観を引きずっている人は沢山いた。


きっとオババは、男子に恵まれなかった人を揶揄して来たのだろう。それなのに女の孫しか生まれない。

ブーメランとなって発言が戻ってきたのだ。

意趣返しもされただろう。

自業自得である。



カレーヌ様は目を閉じて下を向いている。


「ねえ、カレーヌ様。どうしますか?

まずご実家に連絡しましょうね。カレーヌ様を溺愛してらっしゃるんですもの。きっとお力になって下さいますわ。」

と、メアリアンさん。


「それからリード様にもお伝えしましょう。

貴女はリード様の幼馴染。しかもあの方は不貞をする奴がお嫌い。締め上げて下さいますわよ。」

怒りながらの発言はエリーフラワー様だ。


「うん、私も王妃様にお手紙を書くわ。カレーヌ様は王妃様のお気に入りのパティシエ。

フォーチュンクッキーだって、ジャ○ィクッキーだって、王妃様のリクエストで作ったんでしょ。

その売り上げを吸い取るなんて許せない。」


「そうね、レイカちゃんの言うとおり。あの馬鹿たれはここに入れなくなって、お金を引っ張れなくなったから、あちらで見よう見まねでジャム入りクッキーやおみくじクッキーの粗悪品を売り出してるのよ。」

アンちゃんからの驚きの情報。

「え!そうなの!それは権利関係をしっかりしておかないと!」


「…それより、カレーヌ様。俺が何とかしましょうか?

アイツらをサクッと。バッサリと。

アラン様に相談して、許可が出ればですけどね。

嫌とはおっしゃいますまい。

王妃様も口添えして下さるでしょう。

だってこれは乗っ取りだ。」


オネエ言葉封印のアンちゃんだ。

手にはナイフが光る。 研ぎたてだぞ!


カレーヌ様は、さっきから俯いて目を閉じたままだ。


「カレーヌ様?」


…ぐう。


「あらやだ。寝てるじゃない!」

素っ頓狂な声をあげるエリーフラワー様。


あれだけガバガバ飲んでたらねえ。


「気が緩んだのですわね。」

「ええ、今日はこちらに泊めましょう。」

「ショコラ、客間を用意しろ。クノイチが交代で見張りをする様に。途中で具合が悪くなられたら介抱するんだぞ。」

「はい。水差しと洗面器を用意しますわ。」



カレーヌ様、ゆっくり休んでね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
うーん、何とも言えないお家騒動にまでなりましたね。 私も言われました、「次は男の子ね」とか「長男の嫁の義務」とか。 こういう、貴族のような後継ぎの嫡男を求めるところではよりきついでしょう。 最初のほう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ