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愛を止めないでね。そこから逃げないでね。

 庭のツツジも咲き誇り、まもなく四月も終わろうかと言う頃の春の早朝。

昨夜の土砂降りが嘘のように晴れた朝のことである。


のんびりと開店前の猫カフェの猫ちゃんのブラッシングをしていたら、いきなり室内が青い光に満ちた。


「た、助けてください!」


レプトンさんがキューちゃんとエドワード様と現れた。

「レイカさん、アンディ殿。すまないがレプトンさんを何日か匿ってくださるか?」

エドワード様の声にアンちゃんが奥から出てきた。

「どうしたのヨ、レプトンさん、顔色悪いじゃん。」


エドワード様は眉間にシワを寄せる。

「拙者も他人の色恋には首を突っ込みたくないでごわすが。

今、エメリン嬢はウチの寮に住んでるから、ウチに匿う訳には行かなくて。レプトンさんを彼女から隠したいのでござる。

ここなら彼女来れませんからな。」


「それはそうだが。どうしたの。」


ここはキューちゃんの力で隠されているのだ。


以前は誰でも来れたがリード様の追っかけが来たから警備上、一般客は入れなくした。

ここに入れるのは安心と認定された常連さんか、その人の紹介か、友達とかの身内ばかりである。

メリイさんやレプトンさんは来れる。奥のレストランは微妙だけどね。


もちろん、エメリンは無理だ。以前来たときはキューに連れられて来たのだ。自力では来られない。


「まあ、そうね。彼女は入れない。エメリン嬢に追いかけまわされてるの?」


レプトンさんの目の下にはクマがある。

「はい。自宅に帰ると大体彼女がウチの義父や母と話しています。学校の授業の打ち合わせなんです。

熱心で良いんだけど。」

まだ立ち上げたばかりだからな。教師が多忙なのはどこも一緒だ。

「それで、みんなの話で私が振られたことを知って、彼女の情熱に火が付いたのです。」

「ご愁傷様です。」

アンちゃんが頭を下げる。

おい、面白がってない?


「レプトンさん、エドワード様、コーヒーでいいですか?」

ランド兄がひょいと顔を出す。

「ありがとうございます。お願いします。」

「拙者も。」


二人を奥のテーブルに案内した。

「アンディ殿。すみませんが何か甘いものをくださらんかな。

レプトンさん、糖分は疲れにいいでごわすよ。」

「OK。カレーヌ様のマドレーヌがあるワよ。

ここはワタシのオゴリでいいわヨ。」

「おお、かたじけない。」

「有難い。今朝は何も食べていないのです。」 


にゃあん。ごろにゃああん。


レプトンさんの足元には猫ちゃん達が寄って来て、身体を擦り寄せている。

「ああ、可愛い。心が癒されます。」

「あ、そういえばチャチャは元気ですか?レプトンさん。」

「はい、レイカさん。元気と言えば元気なのですが。」

肩を落とすレプトンさん。

「すっかり、エメラーダ嬢に懐いてまして。

いつもオヤツを貰ってるようなんですよ。」

「アラ。」


レプトンさんが顔を上げて、壁側に声をかける。

「ところでシンゴさん。」

「はい。」

シンゴ君が姿を現した。

「良く俺がいるってわかりましたね?」

「うん、リード様の近くにいると影の人達の気配がわかる様になってきてね、それで、聞きたいけど、

あの日記帳使ってる?」


「あ!いえ、はい。ええと、まだ。こ、これから使おうかな。」

シンゴ君はドギマギしている。

アンちゃんは顔を背けて笑いを堪えている。


「それってさ、よっぽど仲が良くなければやらないよね?交換日記なんて。」

「ま、まあ、そうっすね。」

シンゴ君が恐る恐る答える。


「実はね。私がそういうものを用意してたことを、エメラーダ嬢が小耳に挟んだらしいんだ。

バラしたのは龍太郎君だよ。」

ため息をつくレプトンさん。

「あ、そうか。メリイさんとエメリンさんは同室でしたね。」

「ええ、レイカさん。やっと先日エメラーダ嬢は個室を貰いましたがね。」


「それで自分も交換日記をしたいと?」


シンゴ君が恐る恐る聞く。

「うん。メリイは止めてくれたけど、なんかね、龍太郎君が面白がっちゃって。

業務連絡と思えばいいじゃん。一言でもいいじゃん。って。彼女、先月綺麗なノートを持ってきてね。

ノートなら良いでしょ、連絡帳と思って、と。」

頭をかかえるレプトンさん。


「まさか、受け取ったんじゃないでしょうね?」

シンゴ君が目を見開いて尋ねる。

「ウン。勢いに負けて断りきれなくてね…龍太郎君も周りを飛びまわって、いいじゃん、いいじゃん!って囃し立ててさ。」

ぷっ。

はい、吹いてるのはアンちゃんです。お馴染みの光景です。


「それでですな。最近エスカレートしてきたのですよ。」

エドワード様が眉をひそめる。


「仕方ないから、私は一行しか書かないんです!

【本日、晴れ。特記なし。】とかね!

だけど彼女の返しがね。」

「メルヘン溢れるポエムだったんですね!」


「ええ!レイカさん。いつも物凄く多量のポエムなんです!妙に凝っていて読むだけで体力が削られると言うか。」


レプトンさんは泣きそうだが、ぶっ飛んだポエムは少し読んで見たい。


「こないだは、良くわからない文章で。何度読んでもわからないんで。【意味がわかりませんが】

と書いたんです。

そしたら、次の日。

【じゃん!「た」ヌキ言葉でした!文章の前に書かれたタヌキのイラストがヒントだよ!】って。

何が哀しゅうて疲れてるのになぞなぞに付き合わないといけないんですか!うっ、うっ。」


「拙者も見ましたがタヌキには見えませんでしたな。犬とも猫とも判別つかないシロモノで。」


「あははは!

あ、失礼。それで彼女から離れたくてここに隠れたいのね。OK。隣の集会所の空き部屋に泊めてあげるわ。シンゴ、案内して。」


とうとう高らかに笑っちゃったアンちゃんだ。


「はい。」

「アンディ殿。ノートだけでは無いのでござる。

エメリン嬢は仕事面ではミッドランド夫妻に認められてましてな。本人も熱心なんです。

学園の仕事で打ち合わせが夜になる事も多くてですな。

昨日なんですが、土砂降りだし夜遅くなったしで彼女を客間に泊めたらしいのですな!」


え、まさか。


「ううっ。夜、彼女が俺の部屋に入ってこようとしたんです!」


なんと!夜這い?


「ヒュー♬積極的だわ。」

アンちゃんは茶化してる。シンゴ君は口を開けてる。


「怖かったです。護衛には部屋を間違えたと言ってるようでしたけど、もし部屋に入れてしまったとみんなに思われたら、もう責任問題でしょ。

これ以上ここにいたらやばいと。」 


確かに。未婚の令嬢を夜部屋に入れたなんてことになれば、ご結婚まっしぐらでございます。


「それでですな。そのまま飛び出して来られましてな。メリイさんの部屋に泊まろうとされてましたが、ハイド君が自分の部屋に泊めると言ったでごわす。」

「メリイの部屋なら彼女、入って来られるでしょ。女同士だし、こないだまで同室だったんだから。って言われて。ハイド君の部屋に泊まったんだ。」


ははあ、なるほど。


「そしたらですな!朝戻ってきたエメリン嬢は研究所の中を探しまわってたんですぞ。奥までズンズン入りこんで来ましてな!

レプトンさんが、こちらに泊まったと聞きました。誤解もあります。お話したいです!と。

流石に拙者もびっくりでごわす。

何とか自宅部分には入れないように死守しましたが。

レプトンさーん、どこ!?どーこーでーすかー!と。叫んで探す彼女に狂気を感じました。

それでキューちゃんに頼んでここに来たんです。」


なんか凄い。


しゅんとするレプトンさん。

「情け無い話ですが、彼女は苦手です。」

そうだろうなあ。


「もう、ミッドランド家を出ます。良い物件が見つかるまでここにいて良いですか?」


一同、張子のトラのように首をたてに振ったのだった。

ぶんぶん、と。

タイトルはオフコースの歌ですね。


コレを書いてから、ウチにも張子の虎があったなーと探して、ぶんぶんと頭を振らせときました。

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