春と言う日は三人の日と書くらしい。
「へえ。お母さん達が引っ越してくるの。」
次の日ブルーウォーターに戻ってランド兄に報告に行ったら、兄は猫カフェの伝票を整理していた。
「そう。どっか良いとこないかな。」
「うーん。どうせレイカの手伝いするんでしょ、
住み込み…というわけにはいかないか。お父さんもいるしなあ。」
そう、しばらくは父は働かずにゆっくりしたいらしい。
「あまりウチと離れてない方がいいよね。」
どこか日当たりが良くてこじんまりとしていて、
温泉が近いところは無いかな。
不動産はネモさんところに相談かな。
「しばらくはホテル暮らしして、まあ、メアリアンの仕事が無いときは住んでもらっても良いんだけど。」
そういえばランド兄は別にちゃんと家を持ってたな。
馬車の乗り合い所の近くに住んでいて、占いの仕事の時はそこから馬車でホテルに行くのだ。
ちなみに猫カフェは徒歩圏内である。
占いの仕事がない時は猫カフェや、隣の忍の寮兼集会所の事務をやっているのだ。
「そりゃ、お父さんが来て仕入れとかの手伝いしてくれればありがたいよ。週に3回でもね。
ええっと、コーヒー豆と紅茶の伝票はどこへ…ああ、あったあった。」
伝票を台帳に貼り付けてまとめながら言う。
「そういえば、メリイさん達はどうするんだろう。
結婚したらエリーフラワー研究所の寮ってんのもねえ。」
まあ龍太郎君の資産もあるし、よく考えればメリイさん自身も洗濯機やら掃除機の売り上げをもらっているはずだ。
豪邸建て放題であろう。
「もうエメリンはメリイさんの部屋を出て、研究所の個室をもらったらしいよ。」
兄もエメリン呼ばわりか。
「あら、そうなの?学校関係者の寮とかは無いんだっけ?」
「うん、その方が安心だからって。研究所からエリーフラワー線の汽車が学校方面に出てるしね、交通の便も良い。」
なかなか情報通である。
「そういえばシンゴ君は結婚したらどこに住むのかな?
まあ、忍びの寮の夫婦用の部屋は空いてるけどねー」
兄が台帳のページをめくりながら言う。
「新婚時代ぐらい出た方がいいだろ。真夜中に飲み会のお誘いとかあるしさ。」
「どこの寮も同じなのねえ。」
メリイさんのお母さんが公宮の寮がキツくて出たのはそれだ。レプトンさんと住んでたけど騒がしかったと。
パタンとページを閉じて、
「まあ、ネモさんところの不動産屋に聞いてみるよ、お母さんたちの物件。」
「宜しくね。」
「お母さんは良いけどさ、お父さんはナチュラルに俺と同居と思ってそうで怖いからね。」
あ。なるほど。長男夫婦と同居してたんなら、次は次男夫婦と言いそうだ。
メアリアンさんは元お姫様だ、知らないオッサンとの同居はキツいだろう。
「メリイさんはウェディングドレスが出来たら結婚するって言ってたけど。ラーラさんもかな。」
「そりゃあね、せっかくいいドレスを作ってもらえるんだから。」
午後からベビーカーを押してお散歩がてら、カレーヌ様のスイーツ工房に行った。お供はショコラさんとラーラさんだよ。
お菓子を選んでいたら、カレーヌ様が現れた。
「あら、珍しい。レイカから来るなんて。リンとルイが似てる人が来てるって、言ってたけど本人なのね、ウフフ。嬉しいわ。」
「カレーヌ様、先日はどうもありがとうございました。ちょっとね、甘いものが食べたくて。」
「ヤダ、言ってくれたらお届けしたのに。奥のカフェ部分にいらっしゃいよ。キッズコーナーがあるわよ。うちの子と遊ばせましょう。あ、そうだ!お揃いの服着せましょうよ!きっと可愛いわ。」
「え、持って来てない。」
「フフフ。ちゃんと別の試作品があるのよ。」
カレーヌ様が奥に声をかけてるとスタッフが可愛いワンピースを下げてやって来た。
フリフリだわ!可愛い!不思議な国のアリスみたいよ!やはりエプロンドレスだけど!
いきなりカフェ部分は貸切だ。
ビレイーヌちゃんも来た。久しぶりだな。
カレーヌ様にくりそつで可愛いぞ。
ふわっふわの金髪に青い目だよ。
キッズコーナーで速攻でお着替え完了。
「先日のより、フリフリピラピラよ!お花の刺繍入り♡
お写真撮りましょう!
写真屋さん呼ばなくっちゃ♡」
おおう。なんかおおごとだぞ。
三人揃っておめかしだ。三人そろって春、らららだね。
うん。三人とも可愛いこと。ウチの子は黒目黒髪にちょいとタレ目。アンちゃんの遺伝子恐るべし。
「可愛いですね!三人そろって、三人娘って感じ!」
ラーラさんもニコニコしている。
「本当ですね!アンディ様に似てるのに可愛いって不思議ですね!」
ショコラさん、それは余計だよ。
ケーキとお茶をご馳走になる。
娘達もプリンやゼリーを貰ってるよ。
「ねえ、レイカ。メリイさんは森の小さな教会で結婚式をあげるんでしょ。なんで?」
カレーヌ様がレモンティを飲みながら言う。
「良く知ってるわね、昔そう言う歌が流行ったからよ。」
と言うわけで歌ったり、歌詞を説明した。
「ふうん。じゃあ、赤青黄色のてんとう虫の代わりに、ウチらの子供に衣装を着せましょうよ。
今だって三色で着てるじゃない?そして花びらを撒かせるの。」
「フラワーガールにするのね?」
「そそそ。」
「あら、可愛いじゃないですか。」
リンさんとルイさんも相槌を打つ。
この二人は砂漠の娘さん達だ。カレーの時はお世話なった。今も娘らの世話をしてくれている。
「その時はいくつかしら。歩けるかな。」
考え込む私。
「ウチの子は来月で一歳よ。レイカのとこは再来月か。でも絹を糸からやってるんでしょ。
デザインも決めなきゃだし。あと一年くらいかかるんじゃないの?」
「そうねえ。」
彼女たちの結婚式はドレス待ちか。
「そういえば、レイカさん。ビッキーなんですけどね。」
この人はリンさんかな?
「あら、彼女元気?」
「はい、セティと結婚しましたよ。」
「はあああ?」
「だってコレですもん。」
ルイさんがお腹のところが膨らんでるゼスチャーをする。
「あら、腹ボテなの?」
カレーヌ様、腹ボテっていうのやめようよ。
エリーフラワー様に言って怒りを買ったじゃん。
「ええ、カレーヌ様。あの野郎手が早いっす。」
「もー、すっかりラブラブでしたよ。」
「確かゴロツキに絡まれたところをセティさんが助けたと聞いてるけど。」
「ええ、家出した時ですね。それから急接近。」
そこでルイさんが、
「ビッキーと仲が良かったキャリーさんはどうしてますか?ビッキーが意地悪して当たってたんですって?セティが彼女に興味を持ったから。
ビッキーも今は反省して謝りたいと。」
顔を変えて目の前にいるよ、とは言えないな。
と言うか気が付かないんだな。
「ああ、彼女はグランディにいるのよ。ウチの忍びの1人と仲良くなってね、あちらで暮らしている。」
嘘をつく時は真実を混ぜると良い。
「そうでしたか。気になってたけど。良いお友達ができたのですね。」
ルイさんは、ほっと息をついた。
「忍びの棲家は秘密なので私も良くは知らないのよ。」
そのうち、キャリーさんはグランディで事故死したことになるのだろう。
横目でラーラさんを見るが知らないふりをしていた。
「ああ、今日はレイカに会えて、こども達もお洒落に着飾って楽しかったわ。
写真は出来たら送るわね。」
「うん、ありがとう。」
「最近、気苦労が多くってさ。良い気晴らしになったのよ。ねえ、今度エリーフラワー様と三人でまたお茶しない?
流石にヴィヴィアンナ様には簡単に声はかけられないからさ。」
「それは良いけど、何かあったの?」
カレーヌ様の横顔は憂いをおびている。
何だろう?経営は上手く行ってるよね?
「あー、大したことじゃないのよ。姑の愚痴よ。
今度聞いて?」
「あ、わかった。」
確かに。前世から既婚の女友達の愚痴のトップワンだ。
エリーフラワー様も一緒という事は、もうちょっと複雑なのかもしれん。
借金を申し込まれたとか?弁護士を紹介してくれとか。
「私はいつでもいいから、エリーフラワー様の都合がついたら会いたいわ。」
「うん。」
後ろ髪を引かれる思いでカレーヌ様のお店を後にしたのだった。
石野真子ちゃんですね。春ららら。




