責めるままに。わがままに。アタシはキミだけを傷つけてるわけじゃない。
さて、ピジョンブラッドのルビーは母から私に渡された。
ほう、お取り置きされていただけのことはあって、綺麗だわ。きらめいていて石も大きいわ。
「お帰りはあちらだよ。」
アンちゃんはアゴでしゃくって彼等に退出を促した。
「アンディ様、色々すみませんでした。
もうこれでウチと、私と、取引きをやめるとは言わないでくださあああい!」
ダンさんはアンちゃんの足にすがって半泣きだ。
「さあてね。」
アンちゃんは横を向いてツーンとしてる。
あー、オー・ギンさんから聞いたことがある。
「ダンはアンディがお気に入りなんですよ。
いつも無理しても品物を揃えてくれるんです。」と。
―ぞっこんラブなのかい?
「あの、レイカ様。」
おずおずとロージイが話かけてきた。
「い、命を助けてくれてありがとうございました。」
その目には感謝の色があった。
「貴女がいなければ、ナイフの錆になっていました。」
「あっ、ハイ。そうかもね。」
それは否定しない。ここまでキレてるアンちゃんは
あまり見なかったな。
「サリーさんの代になったらアンディ様からご注文はいただけないのでしょうか?
私が助手をしている限り??」
ロージイの目は真っ赤だ。
「さあ。直接会わなければいいんじゃないの?」
アンちゃんは聞こえない振りをしている、それが答えだ。
「私は!男に頼らない人生を送りたいのです。
自分のチカラで生きていけるように、仕事を頑張りたい。」
「うん、いいんじゃない?頑張れ。」
ロージイは目を見開いた。
「…貴女はそう言ってくれるのですね。
みんなこの見かけを利用しろとしか。早く結婚してしまえとか。
ダン様とサリー様は違いますけど。」
「けっ、散々利用してきて。何を言うんだよ。」
アンちゃんが毒を吐く。
「うん、この世界ではそう言われるよね。
女性は結婚して当然だと。
見ればわかると思うけど、私だって実家はそんなに裕福じゃなかった。ルビーが出る前はね。
それに、私は職場のストーカーみたいな勘違いヤロウに、理不尽に給料を下げられて。
食べるものを切り詰めて工夫して。
動機がさ、僕と結婚したら生活が楽になりますよ、だったもん。」
母や父が驚いてる。
アンちゃんは眉間にシワを寄せてる。
「…あのセバスの野郎。」
「ご苦労されたのですね。」
「まあ、ソイツはもうこの世にはいないけど。」
「エッ。」
みんなの視線がアンちゃんに集中だ!
「あ、違うわよ。クマに食われたの。」
「それもすごい。」
彼女達を応接室から廊下に出して、外へと誘導しながら話す。
「貴女も自分で色々家事をやってきたんでしょ、それで理不尽に洗いものを押し付けられそうになったと聞いてる。同室のお嬢様にね?
慣れてるから、いいでしょって?」
「ええ。ご存知だったんですね。」
そこで私の手をみせる。
「以前はとても荒れていたの。エリーフラワー様のハンドクリームで随分良くなったけどね。
今でも、貴婦人の手ではないわね。ごつごつしてるから。下級貴族の娘なんてそんなものよ。それでいいじゃないの。
自分で食い扶持を稼ぐ。立派なことよ。」
「……。」
「貴女は勉学に勤しんで努力した。這い上がったんでしょ。」
「達観してらっしゃる。」
ロージイがポツリと言う。
「聞いたことあるでしょ。私も転生者。以前は孫もいた歳よ。」
「 ! 」
「貴女は多分、許せないことが多すぎるのね。
若いから仕方ないけど。18だっけ?ほんとなら学園を卒業する歳よね。」
「レイカだって若いじゃないの。」
おお、母のツッコミだ。
「ええ、そうなんです。本当は許せないんです。
いやらしい目で見てきた男たちを。
幼い頃から一番の金持ちに嫁がせるといっていた親を。客がくるたびに呼ばれて見せ物になって。
少女の私に手を伸ばしてきた酔客が何人もいました。兄だけが庇ってくれました。
金で私を買うような結婚を押し付けてきたアオヒゲ野郎も。
婚約者がいるのに熱い目でじっと見てきたルートも!
自分の娘と同じ歳なのに、囲おうとしてきたグローリー公爵も!
みんな!みんな!許せない!!」
ロージイは泣いていた。彼女の赤い髪が外の風になびいている。そこに桜の花びらも落ちてくる。
花影の中で、ダンさんとサリーさんも泣きそうな顔をしていた。
「可哀想に、苦労してきたのね。娘がいる親としては気の毒になるわよ。」
人のいい我が母は目を押さえている。
「そう。でもそれは貴女だけではないわ。
砂漠で10歳上の男たちに連れ回されていた少女、
親から下げ渡されるように、年上の人殺しに結婚を強いられた少女。
他にも枚挙にいとまがないわ。
貴女、自分だけが可哀想だと思ってはダメよ。」
「だったら、メリイさんはどうなんですか。
いいウチに生まれて苦労しなくて。
母親に愛されて!ウチの母は私に冷たかった。
叔母のバーバラに似てるからって。
そして、憎いグローリーの娘に勝てと!
……なのに彼女は、今はエリーフラワー研究所で幸せに暮らしてる。」
なるほどね。
「貴女はメリイさんが羨ましかったのね。
だから、ルートにちょっかいをだした。」
「…だけど幸せになれなかった。」
「でも、今、お仕事をして立派に認めてられてるじゃないの。」
「そうです、でも。」
ああ、そうか。この娘の求める幸せはあったかい家庭なのか。
だけども、人間不信、男性不信で1人で生きていこうとしている。
その矛盾に苦しんでいるんだな。
「だから私は!もうそんな目で見られないように、化粧も薄くして!地味な服を着て!
控えめにしているのに、絡んでくる男達が多くて!
嫌になっちゃってるんです!
もう、嫌なんです、情欲まみれの視線が!」
目から溢れる涙を拭おうともしない。
あー、どうするか。
「うん、そうか。貴女は綺麗だものね。地味で大人しい格好をしてれば、逆に自分でもいけるんじゃねえ?
みたいな野郎が寄って来たというわけね。」
はあーーっ。
提案してみるか。
「あのね、言葉に責任は持てないけどさ、女王様になったら?いっそのこと。」
「え?」
「逆に貴女はそっちが似合うわよ。わざとおしとやかにしないでさ!
強気で!迫力で!押し切りなさいよ。
派手な格好して!
ほほほほ!私はね、未亡人なのよっ!そこんじょそこらの青瓢箪じゃ、満足できないわよ!ってね!」
コンセプトは王妃様だ。そう言うセリフあったわね。腰に手をやる。
気分は白鳥麗○でございます!おーほほほ。ってなもんよ。
「れ、レイカちゃん?ご乱心?」
アンちゃんのアゴは外れそうだ。
「弱気な人間にはつけこむヤツらが現れるものよ!
電車のチカンはスケバンにはやらなくて、おとなしげな女を狙う卑怯者なの!」
「え?電車とかスケバンってなんですか?」
サリーさんがポカンとしてるが、無視して続ける。
「ロージイさん!貴女は伝説の赤い髪の妖女なんだから!
そこを前面に押し出しなさいよ!馬鹿にするヤツは
祟って呪ってやるぐらいかましなさいよっ!」
「あ、あの?伝説の赤い髪の妖女って?」
「アーンド!妖女の髪の怨念!の関係者の1人じゃないの!
不埒な男なんか踏んづけてやりなさいっ!ふふん。」
「ホラよ。読んでねえのか?参考文献だ。」
アンちゃんが冊子を二冊放った。
外の芝生の上に落ちる。
「腹に入れてたんだ。刃物除けだぜ。龍太郎直伝さ。」
なんでや。ツッチーがいるじゃないのよ。
「もう開きなおって怪奇をコンセプトにしたホテルでも開けよ。アンタ、モノホンのバーバラの血筋なんだからよ。好事家がやってくるんじゃねえか。」
アンちゃんが鼻先で笑う。
それもアリかもね。
「こ、これは何ですのっ!誰がこんなものを!」
拾い上げて、パラパラとめくって絶叫するロージイ。
あら、本当に初見なの。
「作者は王妃様よ。ベストセラーらしいよ。」
「……。」
ガックリと肩を落としている。
「アンディ様、奥様。私どもはこれで失礼いたしますよ。」
のそりとダンさんが動き出して馬車に乗り込む。
「さ、サリーも、ロージイも行くよ。」
あ、コレだけは言っておかなくては。
「あのね、メリイさんを妬むのはお門違いよ。
私はね、前世でもあの人と知り合いだった。
あの人は重病で。
一度手術をして助かったけれども、身体の傷を見て彼女の親は、結婚出来ないわね、自力で生きなさいと言ったのよ。」
「……。」
「それで親元を離れて遠くで仕事を見つけた。
私が知り合ったのはその頃よ。いつも青い顔をして。勘違い男に食事は取られるわ、入退院を繰り返すわで、若くして亡くなったの。
とてもとても苦しかったらしいわ。」
ロージイが私を見た。
その目に反省の色が見える。
「レイカさん、貴女のように親身にアドバイスをくれる人はいませんでした。
みんな、遠回しに意地悪や当てこすりを言ってくるばかりで。
または、サリー様たちや兄みたいに気を使われるばかりでした。」
「うん。ごめんね?余計な事ばっかり言っちゃってね?」
「いいえ。自分だけが不幸だと思っていたのは本当なんです。」
「うん。」
「これからは開きなおって女王様な悪女になってやります!」
「…うん?」
「ええ!見てろよ、男ども!私は女傑として君臨してやるわっ!
レイカさん!貴女は私の恩人です!
強く生きていきます!見てて下さい!」
「あっハイ?」
気焔を上げてロージイは出ていった。
はたしてこれで良かったのだろうか。
後日。
ダイシ商会ではオカルトや占いグッズの取り扱いにチカラを入れたそうだ。
水晶玉、タロット、アロマキャンドルなど。
それらは、紅い髪の美魔女監修!としてなかなかの売り上げらしい。
美魔女なあ。日本だとちょっと意味が違うなあ。
どっちかと言うと熟女の美人だが。
ま、いいか。
B'zですね。ドラマ・西遊記のテーマソングで。りえちゃんとモックンがハマってました。




