挑発して、されての♾️。
そっとアンちゃんの肩に手を置く。
「ちょっと、やめなさいよ。始末するのは。」
みんなが私を見る。
「ひ、ひええ。こんな状態のアンディ様に声をかけられるとは。流石奥方様。肝が座ってらっしゃるう!」
ダンさん、それ褒めてるの?
「そうだネ。レイカさん。ここで始末したら汚しちゃうよネ。」
「いや、だから。ウチの家族も引いてるし、怖がってるし。」
アンちゃんはそこで破顔した。
何故ここで笑えるんだ。
「ああ!すみません、お義母さん、お義父さん。
お目汚しを。すぐ済みますから。」
そこでロージイに向き合って、能面のような顔になった。文楽の人形の早替わりのようだ。
「立てや、女狐。表に出ろ!
フィジーの家族も粛清されたんだぞ。
それから、メリイさんの父親っていうか、グローリーの変態オヤジが、白狐様の怒りを買って消されたのは知ってるか?
まあ、その前にルートのヤロウもドラゴンに消されたけどな。けけけ。
あ、そうだ、お義母さん。白狐様呼びだせるでしょ。」
アンちゃんはロージイさんを指差して、
「この女は神獣様たちの怒りを買ってる。
顔を見た途端に粛清されますよ。そうしましょう。
神獣がやることは更に誰も、文句言わない♫止められない♫」
やめられない、止まらないみたいに言うなよなぁ。
これでわかった。アンちゃんはロージイの心を折りにいってる。暗部恐るべしだ。
本気で殺す気は無いだろう。
(と、思う。)
本気なら、問答無用でサクッとやっちゃって、
あらーん、殺っちゃったワ?となるタイプだ。
ロージイに顔をよせて言い放つ。
「オマエを消せばシンゴへの良い婚約祝いになるだろうよ。」
「エッ。」
ロージイの顔から血の気が引いた。
みるみる目から、涙が溢れる。
そうか、この子、シンゴ君が好きだったのか。
我が夫ながら容赦ないぞ。
「お、お許しください、アンディ様。」
ダンさんがいきなり平伏した。というか今までアンちゃんの圧で動けなかったのが、注意がロージイに向いたおかげで動けるようになったのだ。
「そうだよ、もうやめなよ。」
「け!ワタシに意見するとは!偉くなったなあ、
ダン!
……まあ、レイカさんがそう言うんなら。」
アンちゃんが殺気を引っ込めた。
ヤレヤレ。
「お許しください!黒い悪魔さまっ!
すぐにここを出て行きますからっ!」
次に平伏したのは娘さんだ。
「アンタ、サリーって言ったっけ。いつも話は聞いてるよ。部下を庇うのか。流石だな。
でもさ、コイツは腹にイチモツ抱えてるヤツだ。
いつ寝首をかかれても知らないぞ。」
「そんな事はございません!ダン様にも、サリー様にも良くしていただいてますから、誠心誠意おつかえ申し上げます!」
ロージイも跪いて頭を下げる。
アンちゃんはロージイの言葉を聞いて口元をあげて笑う。
「どうだかねえ。アンタ、口が上手くて頭も回るよな。王宮でも味方を作ったよな。
嫌がらせも耐えた振りをしてさ?細工された制服を入れかえたじゃん。
それが騒ぎになって実は自分も嫌がらせされてました、と上司に訴えた。
ふん、服に細工されてたのはオマエだけだっつーの。
くくく。そしてその上司のお局様にね?
心配してくれたのは貴女だけ、だの、兄は貴女を気に言ってますだの、美人の妹さんに似てるだの、ペラペラおだてていい気にさせたよな。
いや、まったく恐れいる。」
肩をぴくりとして固まるロージイ。
額やこめかみに冷や汗をかいている。
小刻みに震え始めたよ。
「それさあ、ちゃんと見てたから。影が。
王宮にはどこにでもいるんだよ。
そう言う話は俺のとこにも、忍びの上のやつらにもちゃあんと回ってるんだ。そこからアラン様に報告をあげるんだがね。
アンタの人間性のヤバさはみんな知ってるってことさ。
あと、わざとメリイさんの前でいちゃついて、彼女が気がついたらニヤリと笑ったんだって?
それはシンゴが見てた。知ってるよな。」
ふん、とアンちゃんは笑って続けた。
「いや、アンタは頭の回転はいい。胆力もある。
ルートに近づくためにわざと靴擦れをして、足をチラ見せか。ハニトラ要員のクノイチになったほうが
大成したと思うぜ。」
アンちゃんの口撃は容赦なく続く。
ロージイは目を見開いた。
「な、なんでそんな事を?」
「知ってるのかって?グローリー家の執事や侍女がそこのお屋敷にいたろ?彼等がレプトンに話してたのさ。あの怪我はわざとじゃないか?と。
普通ならその前に馬車を呼んで帰るだろ?わざとらしいんだよ。
足?ルートの奴が自慢して喋ってたのさ。クラスメートの男子に。
学年一の美人の生足を見たってな!」
「え。」
眉をひそめるロージイ。
知らないうちに男たちの下卑た話題にされていた不快感は分かる。
そこでアンちゃんはサリーさんを見た。
「良いのか?アンタ、将来自分の恋人を取られるかも知れないぜ?この腹黒女にな!」
うわあ。ブラックなアンちゃんだ。そこまで言うか。本気で嫌ってるんだな。
「そんな事はしませんっ!」
ロージイは涙を流した。
「オマエさ、何とか逃げ切ったと思ってたろ?
自分がさ、何をしたかあまり自覚ないんじゃねえか。
メリイさんの母親は何回倒れた?何故、アラン様の前で乱心した?それで離縁になったのさ。
元々はオマエがさ、娘を思う母親の気持ちを踏み躙ったのが原因だ。」
フン。
アンちゃんは鼻をならして続ける。
「気がついてたよな?娘を思う母親が調度品を揃えたと。ずっとルートの家を管理していたのは、新婚夫婦のためだって。
そこでまあ、新しいフカフカのベットでさ。
あーんなことや、こーんなことをさ、やっちまってよ。
メリイさんの親にケンカ売りまくりじゃねえか。
誰からも責められないと思ったか?」
「…う、ううっ。」
ああ、もう。仕方ないなあ。
「もう、やめなさいよ。この人ばかり責めるのは。
誘惑に乗ったルートの馬鹿たれも悪いんじゃん。
服に細工をする嫌がらせはした方が悪い。
そりゃ、取り替えるのは良くないよ。
ロージイさん、私はね、正直に言ってメリイさんやレプトンさんと仲が良い。シンゴ君ともね。
彼等から貴方の話は聞いている。」
そこでロージイさんの正面に行き、ひざまずいてる彼女の手をとって立たせた。
「さあ、ソファに座って。サリーさんも。」
サリーさんの手もとる。
「だからと言って一方的に初対面の貴女を責めないよ。
私だってヤバい男の人に粘着されたことがあるから。ほら、ここの隣の息子だって。」
「そうね、カスティンでしょ、逮捕されたよね。」
母も同意する。
「ね、そいつヤバすぎて死刑になった。
だからさ、嫌な縁談から逃げたかった気持ちもわかるのよ。私だって男爵令嬢だったから、貴女と同じにアオヒゲ野郎にも目をつけられた。」
ロージイさんの目に驚きの色が浮かぶ。
「 ! あ、貴女も!」
「それだけじゃないよ。その他にもひどい縁談があったから。
私はその時王妃様の侍女だったからなんとかまとめて逃げられたの。」
「レイカ殿はエリーフラワー様と王妃様の体調不良をお料理で治したと聞いております。」
あら、ダンさん。知ってたの?
「私も聞いたことがありますわ。王室の伝説の料理人。」
ロージイさんがつぶやく。
えっ。知らないうちに私が伝説に?
「それで王宮勤めだったから、アンディ様との縁談を押し付けられて断れなかったのですか?」
ダン!
アンちゃんがテーブルに手を音を立てて打ちつけた。
「……おい!俺との結婚が罰ゲームだとっ!
このアマ、もう許せん!ぶっ殺す!」
あららら、声が超低音だ。髪が逆立っている。
え。ナイフを出した。マジ?
本気だぜ、やばいくらいに本気なんだぜ、なのか。
俺のナイフ、貫いて見せるぜ、なのか。
「違う、違う。お二人は物凄く仲がいいんだよ!」
「そうよ、ダンさんの言う通りよ。結婚は私から言い出したのよ。」
「ええっ!」驚愕の声をあげる娘さん達。
そんなに驚くことかいな。
何、その信じられないものを見る様な目は。
「ま、レイカさんたら♡」
ヨシ、アンちゃんが元に戻ってきたな。
「ええとね、こんなにアンディさんが怒ってるのは、自分のテリトリーと思ってるところに、
この子を連れてきたからなの。」
ウンウン、とアンちゃんが頷く。
「だからね、悪いけどダンさん。モルドールとの取引きは諦めて下さいな。
ウチはメリイさんのところ、というか、サードさんの商会とお取引きをするの。特にルビーはね。
ねえ、お母さんもメリイさんやキューちゃんと付き合いがあるし、元々この鉱山はキューちゃんが見つけたものだから。」
「それは知りませんでした!白狐様のお怒りを買うところでしたな。」
「だいたいお父さんが非売品のルビーを目につく所に飾っておくから。」
「いや、だって今日取りに来るってわかってたから。」
ハイハイ、夫婦喧嘩は他所でやってね。
よし、何とか収まったかな。
シブがき隊の挑発♾️ですね。




