思わぬ邂逅、赤い髪の女。
四月の半ば。実家にアンちゃんと出かけた。
ルビーを見に行くことにしたのである。
持ってきてもらうより、そっちが早いし。
「あら?まだ桜が咲いてるわ?」
「日当たりの関係かしらね?」
家の近くに桜が咲いていた。
桜なんかここにあったかしら。
「お帰り。レイカ。ようこそ、アンディさん。」
母が出迎えてくれた。
「あ、お義母様。ご無沙汰しております。」
おや、アンちゃんが好青年の仮面を被ってペコペコしてる。母には弱いんだよね。
「見事な桜ですね。」
「ええ、この桜はね、キューちゃんに植えて咲かせてもらったのよ。
去年、お花見の途中でダメになったでしょ。
レイカとお花見したくってね。
お昼はここで食べましょうね。後で用意するから。」
「うん、でも随分遅咲きね?」
「と言うか、植えて咲いたのは昨日だから。」
はい?
「フフフ。これよ。この指輪を擦りあわせるとキューちゃんが現れるの。昨日試してみてね、桜を咲かせてっておねだりしたの。」
指輪を見せつける母。
枯れ木に花を…じゃなくて、何もない所から花を咲かせましょうって?
凄すぎる花咲キューちゃんである。
「ええ、神獣様の扱いが雑……でも、すげえ。」
アンちゃんが呟いている。
「こないだ王妃様とお花見をしたんでしょ?その時ね、花びらを飲み込んでいたらしいのよ。
それを使って三分間で出来上がり。」
○ューピー三分間クッキングもびっくりだ。
そこにサンド兄も現れた。
「ようこそ、アンディ様。実は今、ルビーを買い付けに来た商人の方がいましてね。」
アンちゃんの目がすっ、と細くなった。
「あア、なるほどね。あの馬車。荷物、あのたぬきか。」
そこで考えこむ。
「うん、顔を合わせたくないなあ。面倒くさそうだ。サンドさん、俺らが来たのはご内密に。」
「じゃあ、裏からお入り下さい、ね、レイカ。」
「うん。」
「あ、それでね。母さん。お父さんがレイカの為に母さんが取っといた最高のピジョン・ブラッドのルビーをうっかり見せちゃって。売られそうなんだよ。」
母の目が釣り上がった!
「何ですって!アレはレイカのものなのに!」
アンちゃんが真顔になった。
「あー、それはいけませんな。あのたぬきは口がうまい。丸め込まれてしまいますよ。
仕方ないなア、私が何とかしましょう。」
「いやあ、見事なルビーですな!」
「いえ、これは非売品ですから。」
「フフフ、これでいかがですか?」
「ごくん、そんなに?」
「ハイハイ!そこまでヨ。」
応接室のドアを蹴破る勢いで入るアンちゃん。
「アンディさん!?」
「お義父さん、お久しぶり。」
「アンディ様!?」
「悪いわねえ。ダイシ商会のダン。
それはこっちが先約なのよ。このアンディがね。」
「あ!そうか!ここは奥様のご実家でしたな!」
「そおよオ。ワタシとした事が妻に石付きの良い指輪を贈ってなくてね。まずルビーが欲しいと言われて取り置きしてもらってたの。」
「あ、それなら仕方ありませんな。」
シュンとするダンさん。
「そんな、お父様。」
応接室を見回す。いつものダンさんと、若い女性が二人。
お父様というからにはこちらが娘さんか。
黒髪に黒い垂れ目で少しふくよかさんだ。
え?もう1人赤毛でキツイ感じの美人がいるぞ。
…ちょっと待てよ?この見かけってさあ?
フィジーさん?違うよね、じゃあ、あの?
アンちゃんが張り付けたような笑顔を浮かべて、黒髪のお嬢さんに話しかける。
「へえ。お嬢様かあ。初めまして。私はアンディ・ハイバルク。ご存知か?」
おや?声も少し低くなってるぞ。
「 ! あ、は、はい?貴方様が、あの!く、黒い悪…!
こ、これはご無礼を!」
ブルブル震え出す娘さん。アンちゃんが怖いのか。
「あらまあ、震えちゃって。ダン、あんた私のことをよっぽど悪く言ってるのね?このお得意様をねえ?」
「いいえっ、そんな、アンディ様ー!」
「…そして、」
赤い髪の娘にアンちゃんから殺気が放たれる。氷の様な冷たい目だ。
「オマエには二度と会わないと思っていたがな。
ロージイよ。」
ああ、やっぱりこの人がロージイか。
フィジーさんに似ているわ。
「私を忘れてないよな?アラン様の側近のアンディだよ。アラン様の前で婚約破棄騒動を起こしたよなあ?
――まさかこんなとこで会うとはな。ブルーウォーターには入れないオマエだが、ここはグランディか。……ふん!」
「あ、あああ。」
カタカタと震え出すロージイさん。顔色は白い。
「オマエの片割れのルートにはとても迷惑をかけられてねえ。アイツが引き込んだハシナ国の間者には
袈裟斬りにされたよ。UMAに守られてなければ、
とっくに私はこの世にいないのさ。」
「アンディ様、そんな事が。」
ダンさんがショックを受けている。
アンちゃんはソファに座っている彼女の前に立つ。その顔は薄笑いを浮かべてる。
あら、狂戦士バージョンになってるわ。
「自分には関係ない?そうだろうさ。
でもねえ、アンタがあのルートにちょっかいを出さなきゃこんな事になってねえンだよ!」
「ひ、ひいいい。」
腰を落としてガンをつけているわ。
「わかってるよな?アンタをここで始末しても、誰もワタシに文句は言わないと。アラン様でさえ。
アラン様怒ってたしな。ルートにも、色々王城を引っ掻き回してくれたアンタにも。
もちろん、メリイさんの味方のドラゴンも、九尾の狐様もアンタの事をよく思っていない。
このアンディの怒りを買ったアンタが悪いのさ。
逆恨み?そうかもな。
あんたのご親戚のさ、アンタに似てるフィジーな。
知ってるか?
アンタに似てるからって迷惑をかけられていたな。
グローリーの変態親父に売られそうになって、ブルーウォーターに逃げ込んだが、九尾の狐に焼かれたよ。
アンタのことをさぞかし恨んでるだろうなぁ。」
それは嘘だ。
そうか、これでフィジーさんことエメラーダさんの死を確実に広めようとしてるのか。
このたぬきさんは顔が広そうだし。
「ダン、この女を私に見せるな、と言ったけどさ、
まあ、不可抗力だったから仕方ない。」
「あ、アンディ様ー!」
「で、始末していい?」
アンちゃんはとてもいい笑顔で、振り向いてダンさんを見た。
ううーん、仕方ないなあ。止めるか。




