八月の1番長い日
「これは。お婆様の字だわ!」
「確かに。封蝋もそちらの王太后のものですね。」
「これをおババ様の独走とするか。あちらの国の総意とするか。」
来週7か国会議を行いましょう。王妃様は静かに言った。
この国を囲む様に6個の国がある。
「流石に。馬鹿にしすぎだ。」
王様が本気で怒った。
「最悪そなたの国との関係性が悪くなって良いか。」
「はい。」
エラ姫は固い声と表情で応えた。
「アンちゃん。」
「ん?」
「なんでそんなに隣の国というか、ギガント王国となかがわるいの。」
「あちらの王太后が以前ここの前国王様の弟。つまり今の王様の叔父上かな。その人にね。激しく振られたらしいんだよ。」
チラリとリード様を見て、
「あんな感じの美形だったとか。」
ふええ。
「自分のムコにしたかったらしいよ。」
「今の国王様もリード様系統のルックスだよね。」
遺伝なのか。
「そこでも縁談があったりとか?」
「うん。次の世代での縁談と思ったけど、息子がお互いひとりだけだよね、今は。」
「アメリアナ様に似た姫さまがいたって。」
「夭折されてる。本当ならその姫が今の王妃様になってたかもしれない。結局、ルルド王国の姫、今の王妃ルララ様がベタ惚れで嫁いできた。」
美形ってトクだね。トラブルのタネにもなるけどさ。
アンちゃんがオネエキャラ封印で淡々と話す。
「そのギガント国の王太后を振った前王弟、リヒャルト様。その人は二年前になくなったけどさ、その方がリード様が荒れる一因を作った人だ。」
「もしかして。おまえは兄のスペアだとか、囮になれとか言った人?」
「そう。見かけは綺麗でも、ろくな奴じゃなかった。ギガント王国にくれてやればよかったのさ。」
その割ににはアメリアナ様はほっとかれて、暴言もそのままで。自爆を誘発されての教会での幽閉。
「あの国も一枚岩ではないんだよ。さて、これから会議の為要人が集まる。俺はアラン様についてないと。」
というわけでエリーフラワー様のところに戻った。
「あら!レイカさん!もちろん貴女のお部屋残ってるのよ!ずっといていいのよー!」
「おお、アンディ殿はしばらく忙しいですからな!
ご自宅に戻られるより、こちらにいらっしゃる方が安心ですぞ!」
ミネラルヴァちゃんのお世話をしながら、ご厄介になる事にした。
「今八月ですからね、一歳過ぎましたね。
お餅を踏んだり、背負ったりするってコチラには無い風習ですか?ああ、お餅がなかったんでしたか。」
「何かしら?それ?」
エリーフラワー様の目が光った。
「うるち米ともち米?ちがうのね、OK。
ふむふむ、それをついて、のして、踏ませる。
ワラジ?わらじハンバーグの語源ね。
無いから靴下で。選びとり?やだ、なにそれ、
実に面白い。」
ガリレオの福山っぽいフレーズを吐いた才女様。
あっという間にお米が集められて、
「これがもち米っぽいですかね。白っぽいし。」
速攻にもちっぽいのができた!
「選びとりはハサミが美容師?危ないからクシでいい?」
「ウチの娘もクシを選びましたよ。」
ええと。うちの母の実家が九州だから、
餅ふみやらせろ、選びとり、やらせろってうるさかったのだ。
選びとりというのは。
足腰が強くなるというおまじないの餅を、
草鞋をはいて踏んだのち未来の仕事を占うのだ。
もちからおりたら各種グッズが置いてある。
お金を掴めば銀行員か。
そろばんをつかめば商人か。
鏡をとれば役者か。
絵筆をとれば芸術家か。
本をとれば教師か、学者か。
ハサミをとれば美容師か。
という遊びである。
まあ、地方により少しずつ違うけど。
(長女が生まれたころは関東では知られておらず、親戚が九州に嫁いだから知ってる。
という綱島の和菓子屋さんが特別にお餅を作って下さった。その折はお世話になりました。)
「本を選んで欲しいわー」
「お金も大事でごさるな。」
一同見守るなかミネルヴァちゃんは、ハイハイをする。そのままターボ全開でカーテンの中へ。
「あ、あんなとこに隠してたっけ!」
一心不乱に高速ハイハイして掴んだものは。
「はーい!ばぶう!」
ひっひっひっひ、ふっふっふっふ、げーへっへっへ。
怪しい光を点滅させながら不気味な笑い声を響かせる、例のむらさきかがみの試作品だった。