あなたと私。夢の国。
桜が咲いた。満開である。さあ、お花見だ。
火山の近くの桜並木にみんなできた。
見渡すかぎりの桜だ。桜、桜、花ざかぁりー♫なんである。
「ほほほ、去年のリベンジね。」
王妃様はご機嫌である。メリイさん、龍太郎君にハイド君がいる。
もちろんキューちゃんに運んでもらったわけで、エリーフラワー様御一家も一緒だ。
私も双子を連れてきてるよ。子守としてショコラさんが来て、アンちゃんとシンゴくんとラーラさんもいるよ。
王妃様の護衛としてスケカクさん達もいる。
多分見えないところに護衛がまだいるんだろうな。
簡易テーブルにお弁当を並べる。
「まああ!稲荷寿司!唐揚げ!玉子焼き!タコさんウィンナー!」
ハイ。定番を揃えておりますよ。
後は煮物とか、生野菜もね。
「おにぎりもあるのね。」
「ええ、オカカにエビマヨ。シャケ。こんぶ。」
「あ!エッグサンド!」
「そうよ、ミネルヴァちゃん好きでしょ。あとはね、フルーツサンドもあるから。キューちゃんと食べてね?」
「わあい。」
キュー。
平和である。
ウチの子達は離乳食を与えている。エリーフラワー印の瓶詰めだ。
「俺が来テカラ一年になるんダナ。」
龍太郎君がしみじみと言う。
「そうよ、龍太郎君。私の差し入れよ、樽酒。お飲みなさいな。」
「王妃サン、アリガト。」
「ねえ、レイカ。日本酒があると言うことは、ここの御先祖さまに転生者が?」
「そうですよね、きっと。」
「うーん、ワインとかはね、転生者がいなくてもねえ。自然発生的に出来るわよね。でも樽酒はね。」
樽酒のひとつに顔を突っ込んで飲んでいる龍太郎君を見て微笑む王妃様。
「良いわねえ。この絵が観たかったのよ。ヤマタノオロチか、ウワバミかって。」
手を叩いて喜ぶ王妃様。
「ホメテねえよナ、ソレ。」
「ほほほ。ほらご覧なさい。風流よ。さア、レイカもメリイさんもお飲みなさいな。」
王妃様の盃には桜の花びらが浮いている。風流である。
「いただきますわ。」「私も。」
キューっとくるわ。たまらん。美味しい。
「香りがたっていて、喉を通り過ぎてからの後味のよさ。淡麗にて豊潤。ふくいくとしてまったり。」
海○雄○になる私。
「ほほほ。喜んでもらえて良かったわ。私が目をかけている蔵元なのよ。」
いや、いけるわ。どうせ護衛の人達は飲まないし、王妃様のお相手は私らだけなんだもの。
飲んだくれて良かろう。
「エリーフラワーさんは、ワインの方が良いかしら?」
王妃様が手を叩いてワインを持ってこさせる。
「そうですわね、王妃様。どちらかと言うと。
でも皆様美味しそうで。清酒を嗜まれる転生者の繋がりと言うか、キズナを感じますわね。」
横でアンちゃんも頷いている。そうか。
意訳として仲間外れっぽくて寂しい、と言ってるのか。
「その透明な酒に浮かぶ花びらは風情があると思いますね。まあ、ワタシはビールに浮かべての方が良いですネ。」
「アンディも一杯付き合いなさいよ。誰かビールを持ってまいれ。」
「ははっ。」
シンゴ君がビールをグラスに注いで出す。
「イヤ、ワタシは仕事中ですから。」
キュー。
「アンサン。俺らがイルから大丈夫ダヨ。」
「エエー。仕方ないワね。良いんですか?
では一杯だけ。」
そしてアンちゃんのグラスにも花ビラが落ちた。
「ああ、綺麗だな。」
そしてごきゅり、と飲み干す。
平和で良い光景だ。さっきから青い薄い光が満ちている。キューちゃんの仕業か。
「パイセンが結界を張ってクレテルヨ。トコロでさ、ハイド。後で墓参りっつーか、オマエの実家跡にもイコウカ。アチラも桜が咲いてるダロウよ。」
ハイドさんは泣きそうな顔をした。
「いいのかい、龍ちゃん。」
「ウン、俺とオマエの仲ジャネエカ。式を挙げたらお揃いの指輪を、三人でツケルンダモンナ?」
「ははは。」
苦笑するハイド君。
「あら、そうよ。ポスター見たわよ。アラビアのロレンスね?」
「ソウ!王妃サンわかってクレタ?」
「いつ式をあげるの?」
メリイさんが頬を赤くして、
「ドレスが出来次第ですわ。」
と、答えた。
「ふーーん。そうだわ。式でリードに歌わせましょうか?」
「いえいえいえ!」
ハイド君とメリイさんは固辞した。
顔が強張っている。
「めっそうもないですわ。それに勿体ない事でございます。」
「イイジャネエカ。頼みナヨ。綺麗な王子様の素敵な歌。イイネエ。」
「龍太郎!」
「龍ちゃん、簡単に言ったらダメだよ。あちらは王族なんだし、警備も大変なんだよ。」
2人で必死に止める。
「警備?俺がイルのに?」
「そういえばそうね。安心、安全だわ。」
「王妃様!」
「大事な転生者ですからね。その式となれば。デーハーに、豪華にやりましょうよ。ネモやリードも顔を出すわよ。何しろ龍太郎君も絡むんでしょ。」
「ウン。三つ巴で指輪の交換ヲするよ。」
「いや、本当に身内でこじんまりと。」
「そうです、こじんまりとやるつもりでですね。」
「そうね、まず楽団の手配からかしら。」
聞いちゃいないよ。この王妃様。
ご自身も顔を出すつもりだな。費用はどうするよ。
そうか。龍太郎君は宝いっぱいもってるか。
でもなあ。メリイさん達の顔色が悪くなってきたな。
仕方ない。
「あの、王妃様。」
「あら、レイカ。なあに?」
「メリイさんは、森の小さな教会で結婚式をあげるのが前世からの夢だったとか。」
「んん?それはてんとう虫が踊るやつ?」
「そ、そうなんです!赤青黄色の虫が衣装をつけて踊るのが!いえ、虫は無理ですから、可愛い動物に色とりどりの衣装なんか来てもらったりして!」
これ幸いと乗っかってきたメリイさん。
支離滅裂だよ。
「まああ。懐かしいわね。結婚式のお友達の余興が
この歌だったわよ。昭和ではね。
くっちずけ♬しろと♬はやしたて♬のところをキスするまでリピートして歌うのがお約束よねえ。」
ええ、そして年配の親族が苦みばしった顔になる奴です。
「最近は何かを歌うのかしら。乾杯?糸?バンザーイ? ありがとうって伝えるやつ?恋ダンス?」
良かった。話題がそれたぞ。
「ほほほ。王妃様。リード様には新設校の第一回の入学式で歌声を披露していただきたいですわ。」
おっ。エリーフラワー様も助け船を出してくれた。
「まあ。そうなの?」
「ええ、校歌を作りましたの。フィフィ・ヤーンさんの書き下ろしですわ。」
王妃様は真顔で考えこんだ。
「それってエメラーダさんよね?大丈夫なの?キテレツな歌詞では?」
「おほほ、ご安心くださいませ。いたってマトモでございますよ。すぐにお届けいたしますわ。」
話題が移ったところで、桜餅を出した。
「まあ!レイカ!嬉しいわ。葉っぱを漬けておいてくれたのね。食べられるのは来年かなあと思っていたのに。」
ものすごく喜ばれた。良かったよ、あらかじめ仕込んでおいて。
そして平和にお花見は終わったのだった。




