話の流れに身を任せて良いのか。一度の人生でしょう。
次の日王妃様から連絡が来た。
「今月末にお花見をしましょうね。」
さて。桜餅を作ってみるか。きっと王妃様は桜餅が食べたいと無茶振りをなさる。ほぼ100%だ。
ご存知の通り桜の葉っぱは、花が散ってから出てくる。ソメイヨシノなんかは特にそうだね。
山桜は違うけどね。
と言う事は葉っぱは去年のうちに詰んで仕込んでおかねば今年の桜餅は出来ない。
去年、母の所の桜の葉っぱを何とか集めておいた。
(あの後折れた木はキューちゃんが治してくれたし。)
先見の明があると褒めてくれていいのよ。ふふ。
一応去年漬けてみた葉っぱをチェック。
多分これでいけるだろう。
道明寺でいいかな。私はこっちが馴染みなのよ、親が九州だし。こっちをよく買ってきてくれた。
道明寺粉がないからな。とりあえず餅米でいいだろう。アンコも炊く。食紅(タール色素がないからさ、多分カイガラ虫由来何だろうなあ。)を入れて炊いたご飯を軽くつく。ラーラさんに手伝ってもらって作って試食したが、これでまあいいでしょう。
試作はできた。あとは当日作れば良い。
「レイカさん、エリーフラワー様がいらっしゃいました。」
ショコラさんが顔を出す。
「はい、すぐ行きます。」
エリーフラワー様とエドワード様とキューちゃんがいた。
「早速、私の方からキューちゃんと話してみましたの。モスマンの繭のこと。」
「そしたら知っていたでごわす。な、キューちゃん。」
キュー。
「絶海の孤島にモスマンの里があってね、普段はそこから出てこないんですって。」
え、それはまるで、モ○ラ?小美人と暮らしてるんじゃなかろうな。
「でもその中の何人かが、はぐれモスマンとなってソレイユ村に住んでるんですって。そして村人たちに羽化したあとの繭を渡して物々交換して暮らしてるんですって。」
では、繭には穴があいてるのか。巨大だからそれでも採ってつなぐのね。
「さらにその中の1人がキューちゃんと知り合って、ブルーウォーターに来たでごわす。
で、棒を貸してくだされ。」
ん?とりあえず麺棒を渡す。
「繭をね、モスマンからもらって来たんですって。
今から糸にして出してくれるのよ、ね?」
「飲み込んできたんだもんな。」
繭を?そんな、飲み込んで運ぶだなんて。
TVで見た空港24時とかのやばいお薬の運び屋みたいだぞ。
キュー、シューッ!
おお!キューちゃんが口から細い息と共に、白い光沢のある糸を吐き出す。
「そーれい。」
それを綿飴を巻き取るように、エドワード様が麺棒で巻き取っていく。
「あら、何?麺棒じゃ間に合わないかも!?
他に棒はなかったかしら!さすまたでいいわ!」
途中でアンちゃんが来た。交代してさすまたで巻き取っている。
ええっ、なんか適当だ。
キューちゃん、ちゃんとした器具があるところで吐いて欲しかったなあ。
各種の棒にまきとられた美しい光沢がある糸。
「これで布を織らせてみるわ。」
エリーフラワー様もご満悦だ。
「お疲れ様。お茶をどうぞ。それからイチゴパフェを作ってみたのよ。良ければ新作の桜餅も試食してね。」
「美味しそう!」
「美味しいでござる!」
キュー。
「足りなかったらまだまだお腹の中にあるそうでごわす。」
え。今、キューちゃんにもイチゴパフェと桜餅出したわ。
腹の中の繭が赤く染まったりしないだろうか。
キューコーン。
「おや、何でござるが?なるほど!キューちゃんは優しいなあ!
ラーラさんにもドレスを作ってあげるようにと言ってるでごわすよ。」
「え?本当ですか?」
コーヒーのおかわりをエリーフラワー様につぎながら、ラーラさんは顔を上げた。
「そんな綺麗で貴重なもの。良いんですか?」
「おほほ、もちろんよ。龍太郎君は貴女の名付け親だもの。」
「龍太郎君とキューちゃんは大の仲良しでごわすしな!
なあ、キューちゃん。」
コ、ココーン。
大の仲良しだったっけ?キューちゃんが複雑な顔をしてるね。でもエドワード様には何も言えないんだな。
「ええっと、モスマンには何のお礼がいいかしら?
そう言うのはちゃんとしないとねえ。多量の桑の葉かしら。」
アンちゃんが頭を捻る。
「ネモさんに聞くといいかもね。」
お蚕様は桑の葉でも、成体のモスマンはどうかしら。
「そうね、レイカちゃん。」
「ところでエリーフラワー様。メリイさんはお元気なのですか?」
「ええ、今ね。ペニシリンの研究をしているわ。」
「ああ、なるほど。青かびから作ろうと。」
「流石にレイカさん詳しいわね。」
「私のはドラマや小説の受け売りですよ。」
エリーフラワー様は真顔になって、
「いつまでも龍太郎君のウロコに頼るわけにはいかないし。」
コーヒーをすすりながら言うのであった。
「ガスをな、各家庭に引くのもどうかとも言ってますしな。そちらはネモ様やリード様に相談でごわすな。」
インフラかあ。
ここの世界は水道はあるのだ。噴水も。
王妃様が記憶を取り戻されてから、随分と上水道の設備が進んできた。
電気もね、火力発電所がある。
今度はガスか。ガス田?があの亀裂のところにあるんだものね。
段々と近代化されていく。そのうち自動車やバイクも走るんだろうな。
「では、メリイさん達はドレスが出来たら式をあげるのかしら?」
ショコラさんが尋ねた。
「そうだワ。ラーラ、アンタ達とハイド達。合同結婚式で良いんじゃアないの。」
アンちゃんの発言に、
「あら、良いわね!」
「それは良いでござるな!」
賛同するエリーフラワー様たち。
おい、本人達を差し置いて勝手に話を進めていいのかい!
ラーラさんが引き攣ってるよ。
「こらこら。勝手に進めてはいけませんよ。本人の意向が一番です。ね、ラーラさん。」
「は、はい。」
「ねえ、まだ16なのよ。いきなりそんな、ねえ?」
まったく。伊○ではなく、ラーラさんはまだ16だからでセンチメンタルな年頃なのだ。
いきなり思い詰めてジャーニーに出たらどうする。
「おお!そうでしたな。先走ってはいけませんな。」
「みんながみんなビビビ婚なわけじゃないものね、
ごめんなさいね。」
エリーフラワーご夫妻はしゅんとした。
「すみません、急に話が進むので戸惑ってしまって。」
ラーラさんはちょっと泣きそうだ。
彼女の人生はここ半年で目まぐるしく変わっている。
鳴門のうずしおに巻き込まれたようなもんだ。
「ハイ。まだ色々シンゴと話を詰めてもいませんし。」
「そうだよね。」
「どこに住むかとか。」
「うんうん。」
「子供は何人欲しいとか、間は何年くらいあけるとか。」
「う、うん。」
「初等科から学校に入れるか中等科からか、その前に託児所に預けるかどうかとか。」
「…うん。」
「どっちが、家計を握るかとか。家事の分担はとか。もちろん単身赴任の時は仕方ないですけど。
あとは色んな積立てとか。」
がしっ。
ラーラさんの肩をに手を置いた。
「偉い。貴女ならちゃんとやっていけるわ!」
ショコラさんやアンちゃんはひきつっていたが、
結婚は生活なの。現実なのよ。
そのまま足もとを踏み締めて、生きていってくれたまえ。
時の流れに身をまかせ。タイトルネタです。
母の実家は和菓子屋で祖父が作ってました。桜餅も柏餅も。前述の一口香も。逸口香?という字を使う店もありますね。
(水晶ジオードが一口香に似てるという記述。)
作り方を聞いておけば良かった。
叔父の代になって洋菓子店になって、もう二人とも鬼籍に入り店もありません。




