サーカス。②
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そこに白い象が現れた。
ぱおおおーん。
会場のみんなの目を釘付けだ。
「彼は絵が得意なんですよ。ひとつご覧にいれましょう。」
大きなキャンバスが用意されている。
ああ、良くシーパラで見たな。オタリアの書き初め。
飼育員のお姉さんの誘導で干支の漢字をオタリアが口に咥えた筆で書いてくれる。
ああ言うやつね。
「ハイ、誰か?自分を描いて欲しい人。」
「あい。」
最前列で小さな女の子が手をあげる。
「マーズ、彼女をエスコートしてくれ。」
「ハイ、兄さん。」
スポットライトが当たりマーズさんが立ち上がる。お手伝いをするのね。
クルルクウ。
ミャアオウ。
その肩に白い鳩が来てとまる。反対側に白いネコもぴょんと乗る。
あれ?タマちゃん?来てたの?
「え!とりさんとネコさんがのってるう!」
自然界ではあり得ない光景だ。
エスコートされた女の子も目が釘付けだよ。
ライトに照らされたマーズさんはイケメン振りが二割増しになっている。
彼の見せ場だ。ラーラさんの目も釘付けである。
何となく不憫になる私。順番が逆だったらねえ。
女の子は椅子にすわってスタンバイOKだ。
ゾウさんが女の子を前に筆を取る。
あら?ネモさん誘導しないの?
シュバババっ!
象さんの筆捌きは休まない。色とりどりの絵の具につけられた各種筆をとりかえて、絵を仕上げて行く。
まあ、何でことでしょう。この完成度は。
ちゃんと女の子の顔に見えます。というか似ています。輝く金髪に青い目もちゃんと塗り分けられていて、バラ色の頬もほんのりピンクが乗せられている。
中に画家が入っているのではないか?って感じだわ。
「きゃあ!凄い!ありがとう!」
可愛いモデルさんさんもご満悦だ。
「ありがとう、レディ。」
王子様みたいなマーズさんに送り届けられて、頬を染めている。
「さあ!皆様!画伯象太郎くんに拍手を!」
足を上げて、
ぱおおおおーん!
ひと鳴きする象太郎くん。
割れんばかりの拍手の中退出して行った。
「良かった。成功しましたね。」
戻ってきたマーズさんがつぶやく。
「兄がいないとへのへのもへじだけ描いて終わるんですよ、まあ、それでもウケるんですけど。」
「さて、次は!サーカスの華!ダンスと曲芸です!」
セクシーな衣装を付けたクノイチ軍団が出てくる。
そこにピエロがひとり混じっている。
ラインダンスの中心で足をあげてる。
なかなかそろってるぞ。女性達はセクシーに。ピエロはコミカルに。会場のみんなの視線を釘付けにしている。
ん?ピエロの服が左右から引っ張られた。
真ん中で裂ける。
ピエロの面とアフロのカツラを投げ捨てると、中から表れたのはセクシー&ビューティーなイリヤさんだ。
「イッリッアちゃあああーん!!」
野太い声が舞台にかけられる。ファンクラブだろうか。アイドル並みの人気である。
あっという間に空中ブランコが用意される。
相方は細マッチョな美男子である。
なるほど。これがイリヤさんの彼氏か。
クルクルと回って飛ぶイリヤさんを受け止めている。
均整の取れたイリヤさんの姿が美しい。
躍動する肉体の素晴らしさよ。
その後は綱渡りに挑戦するイリヤさん。
えええ?命綱を付けてない?
(危ないから良い子は真似しないでね。)
器用に綱を渡って行くイリヤさん。
ドラムロールの音が鳴る。手に汗を握る瞬間だ。
もう少しで渡りきる?と言う所でバランスを崩した。
ぐらり。
あっ!落ちる?
しゅるるる!
上下左右から紐が伸び、絡みついて落下を止めた。
紐と思えば白いヘビである。下で手を振って操っているのはネモさんだ。
そのまま、そっとイリヤさんを下に降ろす。
イリヤさんは各方面に投げキッスをして出て行く。
「普段は命綱を付けてるんですよ。今回はネモ兄がいるからわざとです。」
マーズさんの解説。落下もわざとか。
「女体に絡むヘビ。たまらん。」
ヒソヒソと聞こえる声。まったく男ってヤツは。(怒)
「その次は、クマさんの三輪車乗りです!」
ネモさんの声でシロクマにツキノワグマが出てくる。巨体で上手に乗ってるよ!
「上手だね!では次は一輪車はどうかな?」
乗ってる!乗ってる!
凄いなあ!スケートリンクを滑るかのように、スルスルと、クルクルと回って乗り回してる!
「じゃあ、最後は玉乗りだね!」
奥から大きな玉が出てきたよ。
まああ。良くあの大きな身体で乗れるものだ。
おや、マーズさんの前に来たら手をあげて挨拶してるよ。
マーズさんも手をあげて挨拶だ。
ほお。次のターンでは、マーズさんは客席から降りて中にはいり、ハイタッチしている。
どよめきと歓声があがる。
そこに鳩が二匹飛んできた。協力して口に何かを咥えて運んでいる。あら?タスキ?
「あんたが大将!」
と書かれている。
忘年会の余興で使われそうなそれをマーズさんの肩に通して行く。
マーズさん満面の笑みだ。
だけど裏側には、
「嫁さん募集中!」
と書かれているよ。……本人は見えてないよね。
うん、うん!と笑顔で頷くネモさん。
わあ。兄の愛が空回りだ。
「まあ。これでマーズもモテモテかしら。ウフフ。」
アリサさん、ソレはどうかな?
クマさん達はボールに乗ったまま出ていく。
それと入れ替わりに出てきたのは、ビッグフットにスノーマン、ミノタウロスだ。
ざわめく会場。
彼らはまず、ロイヤルボックスにむけて膝を折って挨拶をした。
これでネモさんが彼等を自由に操れることが証明された訳だ。
「私の友人の力持ち達です!さあ!みんな!」
いきなり、わっしょいわっしょいと、マーズさんを持ち上げて胴上げを始めた。
……何故?
「ワッショイ、ワッショイ!」
「タイショー、タイショー!」
「えっ、えええ?みんな?何コレは?」
慌てるマーズさん。
うわあ。めっちゃ対空時間長いじゃん。
そして、ミノちゃんがマーズさんを肩車した。
そのまま退場口に向かって行ったが、途中私の前に止まり、
「アネザン、チィーッス!」
ミノちゃんが挨拶をした。
「チーッス!」「オッス!」
他の2人も続く。
注目を浴びるわたくし。
……うわあ。やめて、巻き込まないでっ!
そのまま、ワッショイ、ワッショイ掛け声を再開して退場して行った。
今のは何?
「まあ、レイカさん。UMAたちのアネサンなの?」
いいえ?アリサさん。違います。忘れて下さい。
「では次は!皆様お待ちかねのビッグキャットショー!
ライ太郎くん!カモオオーン!」
白い美しいライオンがやってきて、中央部の台に乗り、がおがおと吠える。どこぞの映画フィルムのようである。拍手喝采だ。
「虎男くんに虎子ちゃんもおいで!」
ホワイトタイガーが二匹やって来た。
ライオンの左右に座って、がああ!ぐわあ!と吠えてガンを飛ばす。
やはり美しい動物達だな。猫族の美は完成している。
「きゃっ♡みんな頑張って!」
アンちゃんが声援を送る。とても嬉しそうだ。
「では、まず!火の輪くぐり!」
三匹揃ってジャンプしてくぐる。もどる、またくぐる!偉いぞ!
「平均台!」
まあお猫様だもの。何なくこなしている。
「ヨシヨシ!いい子だ!」
ネモさんがトラやライオンを撫で回す。
目を細めて喜ぶビッグなお猫さま達。
「虫歯はないかな?ハイ、口を開けて?」
トラやライオンの口に顔を突っ込むパフォーマンスだ。会場がどよめく。
アナウンスが流れる。
「コレを見ている良い子も悪い大人もマネしないでね、キケンです。」
悪い大人は喰われてもいいのかも。
「顔突っ込みは私にも出来ません。もっと精進しなくては。」
マーズさんは真剣な顔をして手を膝の上で握りしめていた。
アラ、いつの間にか戻ってきたのね。
(あのタスキは取られている。)
いや?無理してやらなくてもいい技では?
「はい!お座り!お手!伏せ!はい!ごろん!」
まるでワンちゃんのようになすがままに芸をする
お猫様たち。すごい!すごーい!
「さて、みんなにご挨拶!」
お座りをして招き猫のポーズをとる。
可愛い!
好評のまま終了した。
「では!最後です!この国のもうひとりの守護神をご紹介しましょう!
ファイヤードラゴンの聖龍様です!」
奥からすーっと、龍太郎君が出て来てネモさんの肩に止まった。
「ああ!ドラゴン!」「本物だ!」
「この会場に集まったモノ達ヨ。我が加護をアタエヨウ。頭を低くスルガヨイ。」
「しゃ、しゃべった!」「ありがたや。」
どよめく会場内。
「今日、特別に来てくださいました。先ほどの九尾の狐様といい、お二人揃ってお姿を見せて祝福されるのは今回限りです。
皆様、この後聖龍様が頭上を飛んで祝福を与えて下さいます。
頭を低くして帽子を取って下さい。風圧で飛ばされます。リボンなども気を付けて下さい。
決して手を伸ばしたりしないで下さい。怪我の責任は負いかねます。」
○○ラシアや、那須〇〇王国のバードショーのような注意をするネモさん。
そして、龍太郎くんは肩から飛び立つ。見る見るうちにひとまわり大きくなる。
バサバサバサバサ!
みんなの頭上を飛び回る。
「本当に実在したんだ。」「ありがたや。」
ブルーウォーターの住民以外には馴染みがないからなあ。
「ウロコのカケラを撒いてくれるそうです。」
マーズさんの言葉に目を凝らして見ると、確かにキラキラと粉のようなものが落ちている。
オカメインコの脂粉みたいだなあ。
結婚した次女ヒトミの家ではオカメインコを飼っていた。触ると白い粉が付いたりするんだよね。
肩に乗せても粉がつく。
「ヨッ、アネサン。」
ん?龍太郎君が、私の前でホバリングしている。
「あら。こんにちは。」
「マタネ!」
飛んでいった。
またまわりの視線が痛いぞ。
「レイカさん?ドラゴン様からも、アネサン呼ばわりされてるの?」
アリサさんが目を丸くしている。
「では皆様!拍手でお送りください!」
割れんばかりの拍手の中、龍太郎君は飛んで退場した。
各国の要人たちの度肝をぬいてサーカスは終了した。
コレでこの国に攻めてくるバカたれは、いなくなっただろう。
めでたし、めでたしである。




