チャンスの神様には前髪しかないらしい。
そこにキューちゃんが現れた。
キューコゴーン。
「アッ。やっと来テクレタナ。パイセン。事情はワカッテルヨネ。レプトンサン連れてイッテ。」
嬉しそうな龍太郎君だ。この三つ巴が解消されるからだね。
二人?(それとも2頭?)意識が繋がってるって言ってたね。説明不要は手っ取り早いよ。
「ネエ、パイセン。メリイの父さんに怒るナヨ。ナルベク消サナイ方向で。」
コーン。
「エッ待って!まだ、話が……!」
レプトンさんはキューちゃんと消えた。
「シンゴ!ヒサシブリ!元気カ?」
「おお、龍太郎。ただいま。」
龍太郎君は嬉しいのか、シンゴ君の周りをぐるぐる回っている。
「しかし、本当に王妃様が、クッキーのおみくじで人事異動なさるとは。
アラン様のお祝いの後かと思ってたよ。」
「アンディ様。私もそうです。こないだカレーヌ様のクッキーの話は聞きましたけど、まさかこのタイミングで。
今誰がどこにいるのでしょうかね。」
ハイド君も固い声を出す。
「あ、ところでマーズさん、動物園の書類はとりあえず大丈夫かな。
コレからシンゴとサーカスの警備配置を練るわ。座席表は変更なしでいいね?
シンゴ、他の奴の異動はわかるか?」
「はい、こちらで。」
シンゴ君が書類を出す。後何か図面も。
「わかりました、アンディ様。お仕事の邪魔ですね。当日は宜しくお願いしますね。」
「はい、宜しく。マーズさん。」
「私達も事務所に戻りますわ。」
メアリアンさん達も出て行った。
「俺らも帰ロウゼ。仕事の邪魔だ。エメラーダサン、いやエメリンでいいか。エメリンにハイド。エリーフラワー研究所へ戻ルヨ。」
「私は残って警備のチェックを手伝いますよ。」
ハイド君の顔がマジになってる。
「ジャアネ。シンゴ。マタネ。」
「おう、またな。」
「龍太郎さん、私を乗せてくれませんの?」
「ウン。乗セルのはお気に入りダケダモン。」
「ひっどおおーい!」
エメリンさんは馬車で、龍太郎君は飛んで帰った。
「お送りしますわ。」
カフェのクノイチが一人乗り込んでいく。やはり監視対象なんだね。
「慌ただしい人ですね。」
呆れてるシンゴ君にアンちゃんが説明する。
「ああ、しばらく監視する。気がついたか?あの娘。」
「…雰囲気が違うけど。ロージイに似てますね。顔のつくりは。親族ですか?
アイツみたいな底意地の悪さは感じませんけど。」
「流石だな。よくわかったな。遠い親戚なんだとよ。」
「ふうん、厄介そうだ。」
そこで、シンゴ君はラーラさんを見た。
「よ、久しぶりだな。どうしたんだ。あれから痩せたんじゃねえか?ちゃんと食ってるか?
目の下にクマがあるじゃないかよ。なんかドジをして叱られたのか?」
おや、言葉のトーンが優しいぞ。
「し、シンゴ…。」
「な、なんで涙目になっているんだ!どうしたっ!?」
「何で一言も言わないで、グランディに行っちゃったのよっ!」
「え?だって仕事だし。…おい、泣くなよ。」
シンゴ君はハンカチを貸す。
成分云々言わないハンカチの受け渡しは、見ていて安心である。
「良いじゃ無いの!泣いたって!泣きたいんだから!うわあん。
何で勝手にいなくなったのよ!伝言くらいっ!同じ職場の仲間でしょ!寂しいじゃないのっ。
も、もう会えないのかと!ああもう!無事で良かった…」
同じ職場。アンちゃんのところで働いていると言う意味ではそうか。
アンちゃんが苦笑して私を見る。
うんうん、ラーラさん、偉い。寂しいって言えたね。良かった。
思わず、おたべ人形のように首を振る私だよ。
「だって、おまえさ、レプトンさんと楽しそうだったじゃないか。」
おや。シンゴ君がムキになっている。
ショコラさんは面白いものを見る目になっている。
ハイド君は、護衛の位置関係を書いた図面から顔をあげて、ほお。と小さい声でつぶやいた。
アンちゃんは真顔で図面を見て、赤鉛筆でチェックを続けている。シカトしているんだな。
「…知らないわ。もうあんな人。」
ラーラさんの声は冷たくなる。
「はぁ?何かされたのか?」
シンゴ君の声は低くなる。
「フン、逆にされなさすぎだよ。放っておかれたのさ。」
アンちゃんが声を出した。視線は図面を見たままだ。
「アンディ様?どう言うことなんですか?」
「レプトンの野郎は詰めが甘いんだ。
手紙だって届いていなかった。新しい手紙はもらったか?」
「―いいえ?先日アンディ様が下さった、捨てられて発見された手紙のみですよ。」
「はあああ。確かにワタシが渡しとく、と言ったけどさ。それから更に出さないかねえ。」
「だから今日、押しかけて来たんでしょ。」
「そうね、レイカちゃん。あの女付きでね。
――何が一緒に説明するだア?置いて来いよ!あのけったいな女をさ!」
「珍しいですね、アンディ様がそんなに怒るなんて。ラーラさん、貴女の事を気にかけてる証拠ですよ。」
「けっ!ハイド。余計な口聞くんじゃねえ!」
「うん、アンちゃんはラーラさんのことを心配してるのよ。これでも情にはあついのよ。」
「そうなの♡流石レイカちゃん。わかってくれるのネ。」
おい。あまりの変わり身にみんな引き攣っているぞ。
「で、レプトンさんはオマエをほっといて、あの女にかまけてるってワケか?」
シンゴ君は静かに怒っている。
「うん。まあ。でももういいの。割り切ったし。」
ん?
…今、割り切ったと言ったよね?
「仕方ないことはあるのよ、ミッドランドさんとかに頼まれたり。エメリンさんはレプトンさんがラーラさんを好きだとは思ってなかったから、アタックしたのね。
でもね、エリーフラワー様達に注意されてるから、
それはもう落ち着いてくるんじゃないかしら、それにレプトンさんはエメリンさんに向かってその気は無いと、はっきり言ってるのよ。」
何となくクールダウンさせようとする私。
「レイカ姉さん、おっしゃる事はわかりました。」
ホントだね?
「シンゴ、じゃあ私が嫌になったからわざと何も言わなくていなくなった訳じゃないのね?」
「そんな事あるかい!」
ああ、どうしよう。聞いてると甘酢っぱいフレーバーに包まれるような気持ちだ。
例えるなら、レモンジュースの滝に打たれたような。
トパアズ色の香気が立っているような。
(智恵子抄だっけ)
このままここにいていいのだろうか。
では後はお若いお二人で、と言って離席したい。
ショコラさんの目は輝いてる。
アンちゃんは小さくため息をついた。
「良かった、良かったよおお。」
「あらあら。」
ラーラさんは私に抱きついてきた。
これはシンゴ君に抱きつくべきでは無かろうか。
いや、それはまだ早いのかしら。
とりあえず背中を撫でてやる。
「ハイハイ。じゃアとりあえず仕事だ、な?」
「…はい!」
アンちゃんの声にハッとするシンゴ君。
その後、三人で色々チェックしていたよ。
「チッ、王宮にまだギガントの残党が紛れこんでいたのかよ。」
「こないだ焼かれたハズなのに。」
「草ですね。あの時15歳以下だったからキューちゃんの粛正を免れたのです。今は育って活動を開始した。」
「で、人事移動で炙り出されたのか。そんなのが採用されていたなんてな。」
小一時間ほど三人で色々やっていた。
「じゃ、これを叩き台にして義父達と詰めてくるわ。シンゴ、ここの守りは頼んだぞ。」
「はっ。」
「私も戻ります。食堂の仕事がありますから。」
「おお、ハイド。ありがとうな。」
アンちゃんが出ていった後、
「あのね、お二人さん。ちゃんと言いたいことは言っておかなきゃいけねぇよ。
以前言ったよね、明日生きている保証は誰にもねえンだから。」
ハイド君は二人に声をかけた。
バサバサ。
ドアの外には龍太郎君がいた。
「あれ、龍ちゃん?」
「話し合い終ワッタダロ。アンさんや、ハイドに付いてるツッチーが教エテクレタ。迎えに来タヨ。」
愛されてるなあ。そしてストーカーみたいだぞ。
「マタネ。」一人と一匹は飛んでいった。
「敵わねえな、アイツには。」
シンゴ君がポツリと言う。
「俺も色々考えたんだよ。ラーラ。
グランディに行ってからも、ずっとおまえの事が気がかりで、……会いたかったんだよ。」
「シンゴ。」
見つめ合うふたり。
「忘れられなかったんだ、……それでさ。」
シンゴ君が今まで見たことが無いような思い詰めた顔をしている。
ショコラさんは楽しそうだが、私は気まずい。
離れて会えない時間が愛を育てると歌ったのは誰だったか。その通りなのか。
よろしく哀愁だったのか。
「えっと、ちょっと席を外すわ?ごゆっくり。
双子を見に行かなきゃ。サマンサちゃんに任せっきりだし。おほほほ。」
サマンサちゃんと双子の所へ行くべし。
そろりそろりと後退りする私だよ。
後はお若いお二人でどうぞ。ほほ、おほほほ。
さ、ショコラさんも、こっちにおいで、とアイコンタクトを送る私。
「あ、姉さんも、ここにいて下さい。
証人として。」
……なんの?
「…あのさあ。ラーラ、おまえが良ければなんだが、
――将来俺と一緒にならないか?」
うわあっ。交際の申し込みをすっ飛ばして、いきなりプロポーズをかましてきたよっ!?
「うん。」
こっちも即答かいっ??!




