第三の男が帰ってきたぜ。いきなり三すくみかな。
誤字報告ありがとうございます
バリリリッ。
アンちゃんがいきなりそのカツラをひん剥いた。
乱暴だなあ。
「え。何を。」
おお、その下にはサラシを巻いてある。
それにピンで取り付けてたんだな。
舞台俳優のメイク途中みたいだよ、目鼻立ちクッキリだしね。
「な、何を!アンディ様っ。ひどいっ。」
涙目になっているハイド君。
布を取り外していく。
「メアリアンさん、コレで間違いないか?
これがこの、エメラーダ嬢の髪なんだな?」
カツラを差し出す。
「えっ。」
ハイド君が目を丸くする。
「ま!私の髪が、即、カツラになってたのですの!
で、この美丈夫がつけていたと。やん、エッチ♡」
何がエッチなのか。ハイド君へのダメージが半端ないぞ。
メアリアンさんが頷く。
「ええ!今、コレにバーバラの魂が吸い込まれて行くのが見えましたわ!呪いの?いえ情念が籠ったカツラになりましたわ!」
うえええっ。絶対被りたく無いわ。こんな物。
「そしてコレを、レプトンさん。お父上に届けて下さいませ!」
「え、ええっ。私がですか?」
レプトンさんは腰がひけている。
気持ちはわかる。触りたくないもん。
「ええ、貴方でなければお父上には近づけませんわ。それにそのカツラはグローリー家の血縁の人間を求めてますの。」
「えええっ、呪われませんか?」
メアリアンさんはすっと手をかざす。
「これで少しは大人しくなる筈です!さ、早く!」
「ううう。」
レプトンさんは涙目で受けとる。アンちゃんがトートバックを渡す。
「まあ、せめてこちらに入れてお持ちくださいな。コレあげるワよ。」
トートバックには可愛い猫ちゃんがプリントしてある。
猫カフェの人気商品なのだ。モデルはタマちゃんです。
「エメラーダさん。」
「は、はい?占い師様。」
「血縁の貴女からチカラをもらう事によって、このバーバラの魂は滅びずにいました。
死後何年もゼルド氏への未練でフラフラしていて、貴女が生まれた瞬間に取り憑いたらしいのです。」
エメリンさんは頭を左右に振って混乱している。
「えええ!何故、ロージイさんのところへ行かなかったのでしょうか!直系だったし、あっちが似てるでしょうに!」
「ロージイさんの意識と生きるチカラが強くて、跳ね飛ばされたそうなんですわ。」
「がーん。霊にまでなめられてるう!ハチミツじゃ無いのよお!」
いや…貴女、素なのね、素でそのセンスなのね。
がーんって言う人初めてみた。
やはり、厨二病というか……若者特有の表現をするお年頃なのね…。
「じゃアさ、レプトン君。行ってらっしゃいヨ。リード様には、こちらから連絡しとくワね?
ねえ、龍の字。君が連れてってくれる?」
ほほう!アンちゃん、まとめにはいったな。
「アンディサン。レプトンサンを乗せるのは構ワナイケドサ。俺、グローリーのオヤジに会ッタラ焼イチャウカモネ。」
そこでチラリとレプトンさんを見て、
「メリイ怒るカナ?父親ヲ焼いタラ。デモサ、若い女に懸想シテ、囲オウトシタリ、ホテル潰そうとシタリ、王宮で悪口トカ撒イタンダロ?許せネエヨ。
ダカラ、運ぶのは白狐のダンナに頼ンデミルよ。
俺ナラ問答無用で焼いチャウカラ。」
「あー、キューちゃんに運んでもらうのか。それでも良いけどね。」
「待って!聖龍様。まだラーラさんに会ってない!ここには誤解を解きに来たんだ!
ラーラさん!いますか!?会いたいんです!」
レプトンさんが奥に向かって叫ぶ。
アンちゃんは横を向き、マーズさんは目をむいた。
そして、エメリンさんも声を張り上げる。
「最近、私と親しくしてらっしゃるから拗ねてらっしゃるのでしょう?
だから私も同伴して誤解を解きに来ましたの!
全然、付き合ってませんから!」
くくっ。
笑ったのはアンちゃんだ。
ふふっ。
ショコラさんも苦笑した。
「あの日と逆だな。」「まったくですね。」
アンちゃんは真顔になった。
「レプトン君。ひとつ忠告するよ。いや、聞いておく。
前回、キミはラーラに関係ない人は巻き込めないから来るな。と言ったよね?
では何故、今回はこの人を連れて来たんだい?」
「え?」
「リード様がラーラに付いて行かなくて良いのかい?とお聞きになったよね?
王妃様も、ラーラを恋人だと、すぐにエメラーダさんに紹介すれば良かったのにとおっしゃっていた。
―そしたらこんなに拗れてないよね?
わかってる?キミ。状況凄く悪いんだよ。」
レプトンさんは青くなった。
「そんなつもりでは。」
「でも私は、蚊帳の外に置かれたと思ったの。」
ラーラさんが奥から出てきた。
「ラーラさん!」
「手紙ひとつくれなくて。」
「それは!偽ポストに騙されて!」
「会いにも来ないし。」
「申し訳ありません!」
「そしてこの人を連れてきた。どうして?」
「え……。」
うん、不満はぶつけたらいいと思う。
「それは、お仕事からグローリー家に帰ってきた
レプトンさんを私が待ち構えていたからですわ…。」
エメリンさんが震える声で言う。
目玉模様の耳飾りが揺れる。
うん?今回は本物の目玉焼きを模した食品サンプルか?
エリーフラワー様、作るときに攻めすぎだと思わなかったですか?
「待ち構えていたんですか。凄い情熱ですね。」
ラーラさんがポツリと言う。
「仕事の関係でグローリー家に来た彼女を、連日メリイの部屋まで送り届けたら深夜になりまして。
それからはとても、ラーラさんのところに行く時間では。」
アンちゃんは何度も夜中に会いに来たけどね。
まあそれはプレ婚約者だったからか。
「レプトンは、フラフラダッタヨ。メリイモ心配シテイタノサ。」
ハイドさんも言う。
「疲れきったレプトンさんをオレの部屋に泊める事もありましたよ。」
そうか。忍びと体力は違うよね。一般人のレプトンさんは。すまんすまん。比べてはいけない。
「どうせ、同じ敷地内のハイドさんのお部屋に泊まるのなら、ご一緒にお茶や食事をと。
まさか、心に思う人がいるとは知らずに。
ごめんなさい!」
「メリイに怒られたんです。あまりにラーラさんをほっといてると。
メリイは龍太郎君と一緒にリード様の所へ乗り込んで、今日の休みをもぎ取ってくれました。
リード様はまだ拗れていたのか、すまないと。
…この事だったんですか?」
そうです。この事です。
「こほん。ところでね、ラーラ嬢は私の遠縁なんだ。わかってるよね?」
あら。マーズさん?何を言いたいの。
「レプトンさん。キミは忙しいのだろう?コレからグランディにも行くのだし。ラーラ嬢の気晴らしには私が付き合おう。
とりあえず今度のサーカスとかね?」
「え、何ですか、それ。」
レプトンさんが眉をひそめる。
「…大体貴方は、うちのメリイのことが。」
マーズさんはハイド君をチラリと見る。
「いつまでも、婚約者がいる人を追いかけたりしないよ。」
あたりに漂う冷たい雰囲気。
「なあ、ハイド。これ、どうやって収める?」
「知りませんよ!アンディ様!それより頭がスースーしますっ!」
「早くパイセン来ないカナ。レプトンサンを連れてイッテ欲しいナ。」
龍太郎君がため息をつく。
からり。
遠慮がちに猫カフェのドアが開いた。
みんなが一斉にそっちを見る。
え?
「あの。お久しぶりです。どうも。
皆様お揃いで何ごとですか?
実は昨日、王妃さまのフォーチュンクッキーでのドキドキ人事異動がありまして。
私が食べたクッキーにはこの紙が。」
【配属先 ブルー・ウォーター公国】
と赤字で書かれたおみくじをもって佇むのは。
「シンゴ!」
「シンゴさん!」
「シンゴじゃないのっ!」
「……シ、シンゴ!!」
(上から順に、アンちゃん、私、ショコラさん、
ラーラさんだよ。)
「はい?私はシンゴです。」
楳図か○○先生の漫画のタイトルみたいな事を言って、にこやかに笑っているシンゴ君なのだった。
やっとフォーチュンクッキーの人事異動の伏線を回収しました。




