動物に好かれる人に悪い人はいないと言うけれど。
次の日。三月三日。
王妃様にちらし寿司をお届けしたらカレーヌ様に会った。
「ちょうど良かった。カレーヌ様のとこのビレイーヌちゃんの初節句のお祝いにもちらし寿司どう?
うちにあるから、寄っていって。」
「ありがとう!実は私もレイカの所にも、ひなケーキ作ったのよう。
馬車に乗せてるから渡すわね。」
その後、ウチでカレーヌ様とエリーフラワー御一家とお茶をした。
「あのねえ、やはりフォーチュンクッキーを焼く事になって、そのうち中に仕込む紙を届けるって。」
「さっき王妃様に言われたの?やはり王子様の誕生日に?」
「どうかしら?お毒味があるからね。王族に出せないかもよ?だって割っちゃうでしょ。そしたら中がわかっちゃうもん。普通のクッキーならさ、多少割られてもいいけどね。」
そしてカレーヌ様は遠い目をした。
昔リード様に差し入れしたクッキーが毒味の為割られた事を思い出してるのね。
「一応ね、龍太郎君のウロコがはめ込まれた泡立て器とか、ボウルは使ってるのよ。先日届けられて、それで王室用のお菓子は作ってるの。
解毒作用があるんでしょ。すごいわよ、あれで作ると日持ちが違うの。」
なるほど。
「王妃様のところでお披露目した後はうちでも作っていいって。フォーチュンクッキー。
入れるのはね、動物くじにしようと思うの。動物園の売店におけば売れるわよね。うふふ。
ハシビロコウクッキー以来のヒットの予感。」
「わあ。きっとそれ喜ぶわよ!」
「猫しゃんがいい。」
「そうね、ミネルヴァちゃん。猫ちゃんも入れましょうね。」
「わあい。」
それから。時はめぐって三月十二日。
桃の節句も終わり春めいてきた。
エリーフラワー様と、ミッドランド家は新設校で忙しいらしい。
メリイさんもだが、フィジーさんも見かけない。
…レプトンさんもだ。
何やってんだろうなあ。音沙汰なしだぞ。
ラーラさんは1週間くらいはイライラしてたけど
ここのところスッキリとした顔になっていた。
とうとう彼を見切ってしまった?手紙のひとつくらいよこしなさいよ。
次の日。三月十三日。部屋でアンちゃんが声をひそめてささやいた。
「どうもね。面倒なことになっている。」
「何が?」
「フィジーは、ラーラとレプトンさんがいい感じだったと知らないだろ。だから遠慮なく近寄っていってる。」
「ええっ。」
「ミッドランド氏も知らないから、案内ぐらいしてあげたまえ。と。
彼にとって二人とも可愛い教え子なんだからな。
それでレプトンさんは仕事の合間を縫って彼女のお相手さ。
何しろ、ミッドランド家に同居してるからね、逃げられない。」
「でももう10日くらいたってるでしょ。そろそろ案内もいいんじゃないの。」
「マリーさんはね、以前息子がウキウキして出かけたのを知っている。だから複雑なのさ。ただ相手がどこの誰かはわかっていない。」
なるほど。
「それでね、エリーフラワー様とミッドランド家と、フィジーが学園のことについて昨日会議をした。新校舎の会議室で。」
あ。なんか、読めてきたわ。
「エリーフラワー様が言ったんだ。
レプトンさん?貴方ここにいるけど、お母様の護衛なの?それとも、このフィジーさんのお世話係?
あんまり愛しの彼女を放っておいたら、愛想を尽かされますわよ。と、眉をひそめてね。」
正義感の強い人だからなあ。
「え!となったのがフィジーさんと学園長でね。
マリーさんは、手紙くらいは出してるんでしょう?
あんなに惚れ込んで、メリイ達としょっちゅう出かけていたじゃないの。ダブルデートでね?と。」
「すごく詳しいじゃないの。まるで見てきたようね。」
アンちゃんは眉をひそめた。
「あのフィジーは交代で見張られてる。
昨日は俺が張ってみた。
それにレプトンの野郎、ラーラに手紙ひとつよこさないんだから。冗談じゃねえよ。」
アンちゃん。ラーラさんの為に怒ってくれてるのね。
「そしたらさ。大丈夫ですよ、母上。私はフィジー嬢にはまったく興味がありませんからね。
ただ彼女に手紙は出してるはずなんですが?
そういえば返事がこないな?って。」
「え、なんなの。それ。」
「そこでさ、護衛について来たエドワードが。アイツには俺の気配がわかってたんだな。
アンディ殿。どう言うことでごわすかな。と言うから、仕方なく姿を現した。」
エドワード様とエリーフラワー様以外は驚いたと言う。
「ウチには届いてないですねえ。本当に出したんですか?」
「…はい!あのポストに入れて。」
窓から敷地内のポストを指差したと言う。
「ん?なんか変だぞ?こんなとこにポストあったか?」
その後、近くの藪の中から捨てられた手紙が発見されたと言う。
「別にレプトンさんへの嫌がらせではなくて、幼稚舎に入れなかった親が、補欠の合格通知があったら盗んで我が物にしようと漁っていたらしい。
単純な手だよ。偽ポストを作って置いてたんだ。
犯人はその後すぐに捕まって牢屋に入れられてる。」
ちなみに補欠合格は無かったと言う。
「へええ。」
「レプトンさんがご執心なのは、アンディ様が預かってるネモさんの遠縁の方ですわ、とエリーフラワー様が言い、
おお、キューちゃんもデートの送り迎えをやっているでごわす。もちろん龍太郎君も認めてますぞ、とエドワードも援護射撃だ。」
「ふうん。」
「それで、フィジーは青くなるし、ミッドランド氏は慌てるし。まあ、そのうち手紙が来るんじゃないかな。」
アンちゃんは伸びをした。この手の問題にかかわりたくないのがバレバレだ。
「ったく。顔ぐらい見にこいよ、本気ならさ。詰めが甘いんだよ。」
さて、天気が良いからお昼はお散歩に行くことにした。
アンちゃんが動物園に行くのに合わせて、双子たちをベビーカーで連れて行く。
ふふ。ハシビロコウを見るのよ。
ショコラさんとラーラさんがついてきて、それぞれベビーカーを押してくれる。楽である。
たまにアンちゃんも押す。そうそう。子供と触れ合ってね。
「ねと!(猫)」
トラを見て大喜びだ。やはり血だな。
最近はね、まんま!とかぱあぱ!とかいうようになったの。
次の言葉が猫とはね。
さて、ハシビロコウのデイジーちゃんだ。
「ちょうどお食事タイムだね。やあ。マーズさん。」
マーズさんはアンちゃんから筋トレ指導を受けてすっかり仲良しなのだ。ハシビロコウの檻に入っていた。
「あ。アンディ様。今からお食事です。」
デイジーちゃんは身動きをしない。じっと、エサが入ったバケツを見ている。
「本当に置物みたいですね。」
「生きてるんですよね?」
ラーラさんとショコラさんも見守る。
そして、デイジーちゃんは動いた!
しゅっ!ぱくっ!
バケツに顔を突っ込んで小魚をゲットだ。
目を白黒させて飲み込む所が可愛い。
そうそう、魚は頭から飲むんだよね、ちゃんと向きを整えて飲む。上手だよ!
やっぱり鳥は恐竜なんだな、と思わせるフォルムです。カッコいいなあ。
その後、マーズさんに体を擦り寄せる。
あらまあ慣れてるじゃないの。
「あ、レイカさんにお嬢様たちも来ていたんですね。」
マーズさんがデイジーちゃんを軽くいなしてから出てきた。
通路を歩くマーズさんを慕って、動物達が檻に張りつく。
猿は手を伸ばしてくるし、
ゾウは鼻を出してパオーンと鳴く。
トラやライオンは檻に顔をくっつけてゴロゴロ言っている。(やはり猫だ。)
鳥はさえずり、コヨーテは甘え鳴きをする。
孔雀は羽を広げて求愛だ。
「あの人。物すごく動物に好かれてる?」
「ラーラさんは初めてね。ブルーウォーターの血筋は半端なく動物に好かれるの。UMAにもね。」
マーズさんはニコニコしてこちらにくる。
「お子様大きくなりましたね?デイジーちゃんを見に来たの?」
うちの子供たちに挨拶をして、視線をあげてラーラさんを見た。
息を飲んだよ。この人。
あらら、顔が赤くなってるわ。
あー、やはりか。好みだと思ったんだよねえ。
「えっと、こちらは?」
「ラーラさんよ、マーズさん。」
「ああ、貴女が!兄から話を聞いております。」
「ラーラさん、こちらがネモさんの双子の弟の1人なの。マーズさんだよ。」
それを聞いて弾かれたようにお辞儀をする、ラーラさん。
「あ!そうなのですか。お世話になります。」
「はは、私たちは遠い親戚じゃないですか、
母の従姉妹のお嬢様でしょ。ギガント戦でご家族を亡くしたとか。大変でしたね。」
おお、ちゃんと設定を周りに聞かせているぞ!
気配りができて偉いぞ!マーズさん!
「あ、そういえば。アンディ様、弟のマーグにお心遣いありがとうございました。とても喜んでおりましたよ。」
「アラ、そう。良かったワ。」
ん?
「マーグは先日入籍したのです。アンディ様から素晴らしい絹織物を頂きました。」
また絹織物かい。え?入籍?
「それはおめでとう御座います。エミュー牧場のグッズの責任者の方でしたっけ。」
「ええ、そうです。いやあ、私も早く結婚したいなあ!」
……ラーラさんを見る、マーズさんの目が猛禽類に見えたのは私だけでは無いと思うのよ。




