春なのに。涙がこぼれたりします。
誤字報告ありがとうございます
お客様がみんな帰ったあとエリーフラワー様に声をかけられた。
「あら、ごめんなさいね?レイカさん。忙しかったのね?勝手に泊まる事にしちゃって。」
「大丈夫ですよ。半分は方便です。色々面倒な事になりそうでしたからね。」
あ、なるほど。と言う顔をされた。相変わらず飲み込みが早いお方だ。
「明日、早朝王妃様の所にちらし寿司を届けるのは本当なんで、多少の下ごしらえはありますけど平気です。具は一度この後煮ておいて明日また火を通して、寿司飯を炊いて混ぜます。
その方が味が沁みますからね。
あ、茹で海老と錦糸卵は当日ですよ。」
目指すはすし○郎っぽいチラシ寿司だよ。
「レイカさん、エビが届きました。」
「あっ、はーい。エリーフラワー様。明日の朝には
ミネルヴァちゃんにも振る舞いますよ。
ウチの子も初節句ですからね。」
とりあえずエビを冷蔵庫にいれる。
この後下ごしらえだ。背わた取らないと。
「明日は三月三日ねえ。女の子のお祝いなの?」
「ええ、そうです。日本の風習です。」
「ふーん。ところで、ラーラさん。どうして泣きそうな顔をしているの?」
「…なんか、自分が嫌になって。あのままだとレプトンさんに嫌味を言いそうだったから、レイカさんが引き離して下さって助かりました。」
「なんかリード様が気まずそうでござったな。」
「エドワード!アンタするどいわね!
リード様というか、レプトンさんが無意識にやっちまったのさ。
ま、ラーラ、アンタも意地はってるんじゃないワよ。」
アンちゃんがテーブルを拭いて後片付けをしている。
「何だか、色んな事があって。彼女のパワーに当てられて疲れました。」
ラーラさんが、テーブルやイスを定位置に戻しながらポツンと言う。まったく同感です。
キュー。
そこにキューちゃんがミネルヴァちゃんとサファイアくんを連れて来た。
「こにちわ!来たよ!」
「あらあ、いらっしゃい!」
サファイアくんを抱っこしてるのはハイド君だ。
今日は頭に手拭いを巻いている。
「よう、ハイド。」
アンちゃんが声をかける。
「キューちゃんに咥えさせても良いんですけどね。ま、危ないから抱いてきました。」
にこやかに笑うハイド君。
サファイアくんをショコラさんに渡す。
「はい、お渡ししました。では、コレで。」
「お待ちよ。」
踵を返そうとしたハイド君の首根っこをアンちゃんが掴んだ。
「う、何ですか?アンディさん!く、苦しいっ。」
「アンタ、今日のことはどこまで聞いてるの?」
ハイド君は真顔になった。
「あー、さっき馬車とすれ違って。そこにメリイさんと龍太郎君が乗ってましたね。
スケカクさんと女の人もいたような?」
「私たちも半分しかわかってないの。」
と、ぼやくエリーフラワー様のためにも説明いたしましょう。
◎レプトンさんを好きなフィジーさんという女性が駅に現れた。彼女は今までレプトンさんにポエムなラブレターを送りつけてきていた。何故か神獣に喧嘩を売り、焼かれそうになる。
◎実は彼女の素顔はあのロージイにそっくり。遠い親戚だよ、赤毛だよ。
◎彼女の美しさを妬む義姉にグローリー元公爵に売られようとして、逃げてきたのだ。
◎実は彼女は有名な詩人兼小説家。学園長が新設校の教師にスカウト。ついでに髪を切ったりメイクやメガネで印象を変えたよ。
◎今夜からメリイさんと同室だよ。
「えええっ!同室なんですか?危険は無いのですか!」
「なあ、ハイド。お前早く結婚しろよ。それでずっと同室にいろよ。」
アンちゃんの言葉に赤くなるハイド君。
「え、あの。そのうち…。」
「ほほほ!ハイドさん。ウチはアクセサリー工房も始めることにしようと思ってるのよ!」
「あ、そうなんですか。」
「いつも職人さんに頼んでるけど、ちゃんと入社してもらって、福利厚生も充実しようとおもうの!
それで、結婚指輪のモニターやらない?
あなた、見かけがいいから、ポスターなんかに使えば良い宣伝になると思うのよ!」
「え、えーと。考えておきますね。」
ラーラさんが思い詰めた顔をして、口を開いた。
「あのう、ハイドさんは今回のこと、蚊帳の外に置かれて平気だったんですか?」
みんながじっとラーラさんを見る。
ハイド君がラーラさんに向き合う。
「私より、ハイドさんの方がずっとグローリー家と親しいのに。今日、この騒動に呼ばれなかったのが面白くないとか、ありませんか?」
ハイドさんは、静かに微笑む。
「……ラーラさん。今日何か蚊帳の外に置かれたのかい?」
「私の僻みだとはわかっています。私、レプトンさんやメリイさんとも出かけて、親しくなったと、思い上がっていたんですね…。」
ハイド君が目を見開いた。
「え?そりゃあ親しいでしょ。と言うかレプトンさんはキミと親しくなろうと一生懸命だよ?」
「でも。」
ラーラさんの目が涙が落ちた。
「関係ないって、言った。兄妹だけで片をつけるって。」
アンちゃんが額に手を当てて上を見上げてぼやく。
「あーあ。なんて言うかね。きっと深い意味はなかったと思うがね。」
「私の耳にも入っていてよ。レプトンさんがラーラさんにお熱だと。」
エリーフラワー様が優しく声をかける。
「ラーラさん。私は特に気にはしていないよ。
確かに同室になるというのは驚きだし、あのロージイにそっくりと言う事実はびっくりだけどもね。」
ハイド君は穏やかに話す。
「まだキミは若いから。傷つきやすいのはわかるよ。16だっけ?」
「はい。」
「そうか。私から言えることは意地は張らないように、と。
彼もまだ若いんだから色々と足りないこともあるし、傷つきやすいと思う。」
「え。」
「それにね、人間はいつ死ぬかわからない。
それは覚えておいてね。」
「……。」
ハイド君の言葉は重かった。
「ううっ。」
「え、エドワード様?何を泣いているんですか?」
「ハイド君は、色々ツラいことがあったんですものな!
おお、そうだ。キューちゃん、送ってあげるでごわす。お疲れ様でしたな。」
キュー。
「あ、待って?レイカさんにちらし寿司のレシピを聞いてから…」
言い切る前にキューちゃんと共に消えたのだった。
いや、キューちゃんはまったく仕事が早い。そして仕事きっちりなんである。引越しの〇〇イもびっくりだ。
「ハイドは、良い事いいますね。」
ショコラさんがサファイアくんをあやしながら言う。
「ラーラさん、私はね、貴女がどんどん普通の女の子みたいに感情が豊かになって行くのが嬉しいのよ。悔しい、寂しいって言えるようになったじゃないの。」
「うわああん。レイカさん。」
「よしよし。」
泣いて抱きついてきたから、背中をポンポンしてやる。
がしーん!
「おい!エドワード!?何で抱きついてくるんだ……あら心身ともに軽くなったワ?」
「はっはっは。アンディ殿。ラーラさんにガンを飛ばすのはやめるでござる。」
「なるほど!ダーリンが邪を払ったのね!ステキよ!」
「はっはっは。ぎゅっ。」
ミネルヴァちゃんがエリーフラワー様に抱きついている。
ああ、平和だ。
いわゆる卒後式ソングの一つですよね、




