ビフォーアフターかな。
ところで、と口火を切ったのは学園長ことミッドランド氏だ。
「彼女は成績優秀でしてね。特に語学や歴史は創立以来の優秀さで。
ラブレターのポエムはおふざけかもしれませんが、文芸誌に詩を投稿して採用されて作家としてデビューしたのですよ。
確かペンネームは、フィフィ・ヤーンでしたな。」
「え!フィフィ・ヤーン様なんですか?!
私ファンでしたのよ!」
食いつくメリイさん。
「私も聞いたことがあるわよ。新進気鋭の詩人&小説家じゃないの!」
目を輝かせるカレーヌ様。
「彼女は家族に内緒にしておりましてね。印税は取り上げられないように、マナカ銀行の口座に入れていたはずです。色々家族との軋轢については相談を受けましてね。」
学園長が補足する。
わざわざよその国の銀行に預けるとは。スイス銀行みたいなものかしら。
「着の身着のままって感じだったわよね。下ろす暇もなかったと?無一文って言ってなかった?」
「そうですね、カレーヌ様。駅に荷物は放置されたままなんですかね?」
「スケカク!」
「はっ。」
「彼女の荷物を回収して参れ。後、マナカ銀行のな、ブルーウォーター支店にも話を通しておくのじゃ。」
「ははっ!」
スケカクさんは王妃様の命令を受けて消えていった。
「とりあえず、私の部屋に泊めますわ。」
「え!メリイ?」
「レプトン兄さん。今私の護衛のクノイチは1人だけだから、もう1人は泊められますわ。」
「そうかも知れないが……。」
「レプトンサン、サードサン。メリイにはオレもハイドも付イテルンダ。心配要ラネエヨ。」
「うーん。それはそうだろうが。」
「宜しいじゃありませんか。レプトン様が好きなんでしょ。彼女。きっと喜びますよ。メリイさんのところにいれば交流も増えるでしょうし。」
冷たい声で言い放ったのは、ラーラさんだ。
「ら、ラーラさん?!」
こじれている。こじれきっている。
レプトンさんは顔色を悪くした。
アンちゃんは、あちゃあという顔をして、カレーヌ様は微苦笑をしている。
そしてリード様は頭を抱えた。
「そういえば、メリイ。ハイドはどうしたのじゃ?」
「はい。こんなに長くなるとは思わなかったので。
食堂のお仕事が忙しそうだったから、声もかけずに来ました。」
「俺はね、一応昼ゴハンは要ラナイヨ!とは言ってキタ。」
あ、そうだった。
「龍太郎くん、筍ご飯おにぎりにしたから。ハイ。」
「ウワオ。ウレシイナア。和食ッテイイネ!レシピ書いてヨ。今度ハイドに作ッテモラウカラ。」
「そうだわ、龍太郎君。今月末に桜が咲いたらお花見に行きましょうね。」
「ウン、王妃サン。モウスグ一年経ツンダネ。」
そうか。龍太郎君が来てからもう一年か。
「ほほほ、皆様お待たせですわ。フィジーさん、
へーんしん!ですわ。」
おお、仮面ライダーみたいなご紹介の言葉で出てきたのは、髪を切ったフィジーさんだ。
「元々は直毛なんですわ。切って洗ったらカールも取れましたのよ。そしてね、脱色しましたの。エリーフラワー印のブリーチ剤で。お肌と髪に優しいんですのよ。以前は洗ったら落ちる簡単な染め粉で黒?緑にしてたんですって?」
サラサラのおかっぱだ。うん?金髪だ。色が抜けて薄い黄色になっている。
「ハニ、ハニ、ハニー?」
つい口から出ちゃった。
「くっ。やだあ笑わせないでよ、レイカ。
でも綺麗になったじゃないの!」
カレーヌ様が笑った。
「本当に。」
今日、春の日に彼女は綺麗になった〜。
多分去年よりも、ずうっと〜彼女は、綺麗にぃ〜なったあ〜。
である。
眉はあえて太めに描いてある。アイメイクを駆使して切れ長の目だ。つけまつげバサバサだ。
鼻筋に陰影を足して更に高く、シャープに見せている。
口は、グロスで、つややかに光らせて。
先ほどまでのオドオドしていた赤い子猫のような彼女はいない?
「一条○かり先生の描くキャラのようじゃの。」
「ええ。こいきな○らとか?」
「イイヤ?ドッチかと言えばシャー○ンじゃネエノ?」
「龍太郎、プリンス・シャーキ○のこと言ってるの?
彼、あまり美形じゃないわよ。それは違くない?」
「あ!飛んで○玉の!二階○ふ○ちゃんみたいですよ!」
「そうね!レイカ。それが一番近くってよ!
あちらは髪が細かいウェーブだけどね?」
ポカンとするメリイさんと龍太郎君。
すまない、ほぼ令和のネタで。
「良くわからないけど、イメージチェンジ成功でよろしいわね?」
エリーフラワー様の言葉に頷く一同。
それにメガネをかけると、あらいいじゃない。
「ロージイっぽさは無いわね。」
マリーさんが言う。
「あとはね、はい、このイヤリングをつけて。」
「これは大きくて派手ですね?……目玉模様ですか?」
「ええ、魔除けの目玉模様なの。みんなそっちに目がいっちゃうわよ。視線を逸らすのにうってつけ。」
「何だがベランダの鳥よけの様じゃのう!」
「小さな宝石も使われていて、オシャレですけどね!」
「食品サンプルのフルーツをぶら下げるのも良いですわね。ほほほ。最近開発しましたの。」
エリーフラワー様が、小さなミカンのふさのサンプルをイヤリングにしたものと、リアルないちごを下げたものを出した。素材はゴムかな?ロウかな?樹脂はこの世界あったっけ?あ、イチゴは木彫りだわ。
「食品サンプル!何度か合羽橋で買ったのう!」
「あーオレも合羽橋には時々行ッタナア。」
そう言えば龍太郎君は江戸っ子だったな。
行くと楽しいですよね、あそこ。コックの看板があってさ。寸胴鍋とか買いにいったの。業務用の奴が色々あって便利だったよ。
個性的なイヤリングをつけ、デカいメガネをつけたフィジーさん。髪の色も変えたから、以前の面影はない。
「どうじゃ。この国で生きて行く気持ちはあるかな。」
「は、はい!王妃様。許されるなら。」
「では、キミ。新設校で文学や詩を教える気はないかね。科目は国語になるのかな。
初等科なら講師は女性のほうが良いと思うのだ。
あのフィフィさんが教えるとなれば箔がつくと言うもの。」
なーるほど!
「良いかもね。ねえ、レイカ。私たちの教科書って、サイタ、サイタ、サクラがさいた。じゃなかった?そう言うほのぼのポエムなら彼女も教えられるわよね。」
えっ?王妃様?まさかの戦前生まれ?
んなワケない。
「い、いいえ?それは何かと混同されてるのでは。
確か?山がみえます。川がみえます?
学校が見えます?見たいな?
教えられるのは同意しますけど。」
「あ!そうそう!あとさ、小学校の教科書と言えばくじらぐも?ごんぎつね?ジョン万次郎もなかった?
大造じいさんとガン。とか?」
「色々年代が混ざってますが、おおむねそうですね。」
大造じいさんを読んでから、椋鳩十全集を読んだなあ。懐かしいな。
閑話休題。
「そしたら、国語の教師をやると言うことで良いかの。何、担任を持てとは言わないぞえ。
そのうち中等科も頼むかもしれないのう。」
「そうですね。王妃様。」
にっこりと学園長夫妻が頷き、
「お、お願いしまっしゅ。」
噛みながらもフィジーさんは承諾した。
「では後日話すとして、今日はゆっくりするが良い。
メリイ、みんなに紹介してやるのじゃぞ。」
「はい、王妃様。」
そこへ荷物をスケカクさんが持って来て、彼女はメリイさんと研究所の寮へ向かった。
大きめの馬車を呼んだらしい。
「ではリード。そちらに参ろうか。レイカ、カレーヌ。明日の朝は頼んだぞよ。」
「はい。」「了解しました。」
「では、母上。参りましょう。」
嬉しそうなリード様に連れられて王妃様はご退出された。
「じゃア、レイカ。またね。明日のケーキの仕込みをするわ。」
「ウン。またね。」
さて、誰が残っているでしょうか?
エリーフラワー様ご夫婦と、グローリー兄弟、ミッドランド夫妻とラーラさんである。
「レイカさんに久しぶりに会えたから、ここに泊まっちゃう♡」
「おお、そうですな。キューちゃん、子供たちを連れて来てくれるかな。」
キュー。
キューちゃんが消えた。
「エリーフラワー様、ゆっくりしてね。
ラーラさん、明日の朝はちらし寿司を作って届けるの。お手伝いをお願いね。」
「ええ、蓮根を切ってさらしますね。干ししいたけ、干瓢も戻しましょう。」
「ええと。馬車を用意しますか?今日はサードさんはレプトンさんのところにお泊まりで?」
アンちゃんが馬車の手配をしようと声をかける。
「そうだね、サード君。是非我が家に泊まりたまえ。兄弟仲良く、つもる話に花を咲かせては?」
「はい、ありがとうございます。」
「じゃア、一台でいいですね?」
アンちゃんも走りさる。
「あ、あの。ラーラさん?」
「…はい、何でしょうか?レプトンさん。
忙しいのですけども。」
うわぁ。ラーラさんの声が固いよ。
「もしかして、何か怒ってらっしゃいますか?」
「いいえ、そんな事はありませんよ。
ただ、…これは私自身の問題なんです。」
そしてラーラさんも奥に消えた。
「あの、レイカさん?」
おずおずとサードさんが声を掛けてきた。
げ。私に何か聞く気かよ。
「何ですか?」
「もしかして、レプトンはあのラーラさんとお付き合いをしてるのですか?」
「に、兄さん!」
そこへ馬車が来た。
「その話は!お家でゆっくり兄弟で話し合って
ください!では!また。」
追い出すように押し出す。
―もう、知らんわ。




