彼女の未来予想図。
フィジーさんが涙で潤んだ瞳で私をじっと見つめる。
その、まばたきに、た、す、け、て。のサインを読み取る。
(ブレーキランプ五回ならあ、い、し、て、る。のサインだったな。)
やはりヤケになって殺してえ、なんて言っても生きていたいわよね。
それならその見かけをなんとかしないとね。
「うーん、そうですね。髪を切る事に抵抗ありますか?
多分病院かシェルターに入ってそれから身のふり方を考えるのだと思いますけど。縦ロールはもうやめていただいて、印象を変えましょうね?」
「なるほどレイカ。ア○・シャーリーも染めを失敗したらばっさり切ったわね。」
「ええ。それに短くしたら濃くなった気がしたと本に書いてありましたね。」
「やはり生かす方向なわけ?レイカちゃんならそう言うと思ったけどさ。」
アンちゃんがため息をつく。
「うん。気の毒な娘さんだし。姿を変えてなんか仕事してもらえばいいじゃないの。
それにこれからの染髪とメイクはエリーフラワー様に相談しましょう。」
「ネエ、眼鏡っ子もイインジャナイカ?」
「ああ、そうね。印象変わるわね。」
レプトンさんが口を開く。
「ただ、母には会わないように気をつけてもらえませんか?」
「そうだね。その姿を見せると荒れると思う。
どこか塔にでも監禁されて、出てこないのが望ましい。」
サードさんも口を揃える。
マザコンどもめ。
「ううう。私だって好きでこんな姿に生まれたのではありませんのに。」
「その姿に生まれたのが、罪なんだっ!」
その途端、ものすごい冷気が漂った。
「…サード君だっけ。好きでそんな見かけに生まれてないのは、私も同じさ。…それは罪なのかい?」
「え、え?リード様?!」
「…リード。」
王妃様が眉尻を下げた。
美しい王子様の本気の怒りが伝わってくる。
確かに言ってたな。
(……そんな顔で私を見るなよ、アンディ。
私だってな。好きでこんな風に生まれたわけじゃないんだ。小さい頃からそれなりに嫌な目にあってきたんだよ。)と。
第89話の、誰にだって〜に詳しいよ。
サードさん、地雷を踏んだな。
あたりに怒りのオーラが立ち込める。
気温が下がって来た気がするよ。これが土地神に愛されてると言う事か。
「リードサン。落ち着きなよ。ナンカ冷エテキタヨ!」
「そうよ、寒いわよ、リード。」
「ああっ!母上!すみません!」
リード様の表情が緩んだ。
「アンディ、何か母上に温かいものを!」
「はっ。すぐに。」
顔を青くして震えるグローリー兄弟。
「予想はつくだろうが。私も美し過ぎたから、変態の大人に追いかけ回されたのさ。
護衛が付いてる私でさえ、そうだったから彼女はもっと怖かったと思うよ。」
お茶を飲むリード様。落ち着かれたようだ。
「わかってくださいますかあ〜〜!」
「ああ。あとね、ラーラさんもそうだろ?」
「……ええ。」
王妃様が私をそろりと見る。
ええ〜。また私に背負いなげ〜じゃなくて丸投げ〜。
「こほん。もうショック療法でいきましょう。
ここに、マリーさんと学園長を呼ぶのです!
ロージイの顔を知ってるのはこの国ではその二人だけなんでしょ!そこでオッケーなら良いじゃないですか!?」
「れ、レイカさん、それは。」
驚くレプトンさん。
「あ、いいと思います。いつかバレるなら早めで。
彼女のことを隠していたら、却ってお母様は傷つくわ。
どうせシェルターにはいるのでしょ。きっとどこかで顔を合わせますもの。」
言い切るメリイさん。
「サードくうん?何か不満があるのかね?」
うわ。怒りのリード様、また降臨だ。
「……いいえ。」
「そうかい。不満はないんだね。別にいいんだよ。
嫌なら嫌で。ただキミは、この国にもう入れないだけさ。」
「に、兄さん!お詫びを!リード様!私も失言しました!申し訳ございませんっ!!」
「あ、レプトン君はいいよ。キミには気の毒をしたね。」
「 ? 」
ラーラさんが拗ねてる事に、リード様は責任を感じてるのね。
サードさんの顔は真っ青だ。
「お、お許しくださいませ。母のことを思っただけなのですが、言葉が過ぎましたっ!
このまま母やメリイに会えなくなるのは嫌でございます!どうか、お許しくださいませっ!」
「え?サード兄さん?オレは?」
目を見開くレプトンさん。
「そうか、わかったよ。母上に会えないと辛いもんね。」
「リード様……ありがとうございます。」
サードさんは涙を浮かべてる。
「ね、ねえ、兄さん?お、俺は?ねえっ!」
あー、わざと無視していじってるなあ。
やれやれ。男兄弟ってよくわからないわ。
「じゃアさ。メリイと一緒に二人ヲ迎えに行ッテクルヨ。パイセン、頼んます。」
キュウウン。
キューちゃん達は消えた。
この隙に空になったお皿を片付ける。
「ご馳走様です、レイカさん。」
「フルーツサンドって初めて食べたけど、いいわね。」
リード様やカレーヌ様達がお礼を言ってくださる。
さて学園長夫妻のためにもお茶の用意をするか。
「ネモ。この国に入れなくて弾かれるものは年間何人くらいいるのじゃ?」
「はっ。王妃様。百人は下りませぬ。」
「その中の1人という事にしておくか?」
「そう言うことになりますかねえ。彼女がここにいると親族にわかれば面倒ですかね。」
「そうだわ、フィジーさん。このメガネ試してみる?」
「カレーヌ様、これは?」
「ふふふ。お料理をするときに、油のはねや香辛料の刺激から目を守るために使っているのよ。だからね、度は入ってないわよ。」
…すごく激しい料理法をなさってるわね?
「あら、似合うかも?」
「おお、アラレちゃんのようじゃの。斉藤祐子?の様でもあるな。」
今日は飛びませんねー。ですね。
(ハンバーガーのCMです。)
そこへ蒼い光が満ちた。
キュー。
「ほほほ。皆様こんにちは。お久しぶりでございますわ。」
「皆様お集まりとのことで。拙者も馳せ参じましたでごわす。」
「あら、エリーフラワーさんにエドワード。」
「王妃様。ちょうど母と義父と一緒におられたので。」
困り顔のメリイさんだ。
……勝手についてきたんだな。
エリーフラワー様は誰にも止められない。
それにキューちゃんがエドワード様にスリスリしている。お気に入りだからな。連れて来ちゃうよね、
うん、仕方ない。
「ちょうど良かったの。この娘のメイクを頼もうと思っておったのじゃ。」
「あらあ!新顔さんですわね?私はエリーフラワー。ご存知?」
「おお、宜しくな。エドワードでごわす。」
「宜しくお願いしま…」
「何と!君はフィジー君じゃないか?」
被せるように発言する、学園長ことミッドランド氏。
「ええ!おわかりになるのですか?いつもと違う私なんですけども。」
「もちろんだよ。だって願書や生徒名簿には素顔で載っているんだよ。」
あー、そりゃそうだった。
「ええと?この方はどなた?バーバラに良く似てるけども。目の色が違うし、自信なさげな感じは、ロージイではないわね?」
「あ、母上。これは。」
「すすすす、すみません。私、フィジー・ダルカンと言うものなんですが、お目汚しをっ!
この髪、赤いのが目障りでごさんすよね?
すーぐチョッキンしてですね、染め染めしますからっ!
そ、そしたら某女優さんとは、似ても似つかニャイ感じになりますです、はい。
個人の感想ですが、実践済みなんですので!」
焦って弁解しているフィジーさん。テンパって言葉使いが変だよ。
「……はあ。そ、そうなの?
ん?フィジー・ダルカンとおっしゃった?貴女。」
「は、ハイですう。」
タラちゃん?
ぷっ。
そこでマリーさんが吹き出した。
「プークスクス。あ、あのけったいなポエムを書いた人?くくく。ふはは。ほほほ。」
あら、ツボに入ったみたい。
それに、プークスクスっていう人初めてみたな。
「母上?」
「ほら、レプトン。あの面白いポエムを書いてたのはこの人なんだって!」
「はい、さっき本人に確認?したような。」
「へえ、それでレプトンに直接求婚にきたのねえ?」
「ええ、そうでござんす。いえ、ございます。」
「ふーん、バーバラの親戚なの?そのお顔は。」
「そうみたいなんです。あちらの家から、三代前にお嫁に来たんではないかいな?です。ものすごい遺伝子のチカラですね。」
「は、母上。この娘の顔を見ても動じないのですか?」
「なんで?」
いきなり真顔になるマリーさん。
「だって、この人。似てはいるけど、あの2人とは、まったく違うじゃないの。オーラというか、色気がない。覇気もない。人を惹きつける誘蛾灯のようなフェロモンがないのよ。」
なんか凄くディスってるな。
「た、確かに?胸も腰もありませんね?」
「きいっ!レプトン様!ナインペタンはコンプレックスなんですのにいいい!」
泣き崩れるフィジーさん。感情の振り幅が激しい人だ。
「ナインペタンとは古い言い回しじゃのう。」
王妃様が感心しておられる。
「女性の体型をイジるなんて。最低ですわ。」
ラーラさんが冷たい目をレプトンさんに送る。
あーあ、好感度がまた落ちたよ。
「い、いや、すみませんでした。」
しょげるレプトンさんを尻目にエリーフラワー様が彼女の前に立つ。
「なるほど!ほほほ。今ので大体の話が飲み込めましたわ!
ざ・ちぇんじ!ですわね。」
氷室冴子さんの懐かしい小説のタイトルの様な事をいい、エリーフラワー様はフィジーさんを奥へ誘うのであった。
氷室冴子さん、好きでしたね。
なんて素敵にジャパネスクシリーズも良かったけど、
お母様との確執を書いた母子草も時々思いだします。




