そして彼女は途方に暮れる。
へえ、あの噂のロージイさんはこんな感じなのか。
「ロージイにそっくりだ。目の色以外。」
サードさんが放心したままつぶやく。
「…ううう。というより、私は女優だったロージイさんの叔母さんのバーバラさんにそっくりなんですわ!ええ、目の色以外。」
フィジーさんは顔を覆った。
「確かに。」
「だから、バーバラさんのファンだった男に小さい頃からつけ狙われましたの!うううう。」
半泣きになるフィジーさん。
可憐な美少女が泣いている。先程と違って絵になることよ。
「ああ、それは同情するよ。見かけのせいて幼子が大人に追いかけ回されるのは恐怖しかない。」
リード様は真顔だ。ご自分の体験談か。
手をぎゅっと握り締めてらっしゃる。
「それで髪型も変にして、髪を染めてそばかすを描いたら、その男は離れて行きましたわ。
え、思ったのと違う。育ったらブサイクになったなぁ、と捨て台詞を吐いて。」
「うむ、ソイツは平民の少女を何人も攫った奴ではないか?みんな赤い髪だったのう。」
「はい、王妃様。その後ソイツが捕まって処分されてホッとしたのです。
それから学園にあがったら一つ上にロージイ嬢がいて。
自分にそっくりで驚きました。目の色もバーバラさんと同じで。ああ、そう言えば親戚だったな、と。」
「……。」
一同黙って聴いている。
「幸か不幸か。もう私は変人として知られていましたから、男性も女性も寄って来なかった。
彼女とそっくりとはバレなかったのです。」
喋りながらも涙を落とすフィジーさん。
「はい、ハンカチ。涙をふいて?それから、お茶も飲んで落ち着いて。さ、座って。」
「あ、ありがとうございます。」
「ふん。ハンカチを借りたからって、レイカちゃんに気安くするんじゃないワヨ。」
アンちゃん。アンタ何言ってんだ。
「兄が結婚したといいましたね。私は兄嫁から疎まれたのです。こんな変人早くどこかへやれ、と。
グローリー家は色々言われてるけど、引き取ってくれれば恩の字だ。フィジー、あんた。手紙を書いて求婚しなよ。と。」
「それで多量に送りつけてきたのか。あの変なポエムはわざとなんだな。」
レプトンさんが額に手をやる。
「ええ、何とか変人という印象を与えようと思ったのですわ。本気でレプトン様と結婚出来るとは思ってませんでしたの。」
うん、その試みは成功している。
もしかして彼女は。ゆるやかな自殺をしていたのか。
「では、我が領地に来たのは?」
ネモさんの問いに、フィジーさんは声を震わせた。
「兄が。グローリー家を調べるうちに前公爵様の事を知りました。バーバラさんに執着していること。
そして静養していること。
――そして私のす、素顔がバーバラさんに似ていることを思いだしたのです!!」
え、まさか?
「では、父に貴女を紹介するつもりだったと!?」
サードさんが絶叫した。
「それは、酷い。生け贄じゃないか!」
レプトンさんも絶句した。
「う、上手くいけば後妻になれるから、と。
でも!嫌でした!!」
全身を震わせるフィジーさん。
「それは、そうじゃな。」
王妃様も同意する。
「う、ううっ。兄嫁が言うんです。その見かけで、
しばらくは可愛がられるかもしれないけども、
どうせ、偽物なんだもの。すぐに飽きられるわよ。
あら、目の色が違うの??
じゃア、目をくり抜かれるかもねええ?ほほほ。って。」
「ーー!!」
「我が父ながら否定出来ない。父のバーバラへの執着は異常だ。」
サードさんが固い声で言う。
「メリイ、お前はしばらく父に会っていないだろう。父はもう正気じゃないと思う。それはバーバラにそっくりなロージイが現れたことに一因がある。
更に彼女が、父の前に現れたならば。」
「どうなるかわからないのですね。」
メリイさんの顔色も悪い。
フィジーさんは震えながら泣き崩れている。
背中を撫でてやる。
「大丈夫よ。貴女はここにいれば安心よ。ヒヒジジイのところには行かなくていいの。」
あら。グローリー公爵をヒヒジジイ扱いしちゃったわ。皆さん怒ってないかしら。
サードさんは苦笑している。
「ヒヒジジイでいいですよ。娘と同じ歳のロージイに手を出そうとしたんですから。」
メリイさんも怒っている。そして私と一緒にフィジーさんの背中を撫でる。
「…辛かったのね。小さい頃から大人の男に付き纏われる怖さは私にもわかるよ。」
ラーラさんだ。
「私はロージイと言う人は知らないけれど、貴女綺麗だものね。」
彼女もフィジーさんの肩に手を置く。
「…私うっかり兄嫁に素顔を見られたのです。そこから嫌がらせが始まりました。
それでグローリー元公爵のところへ行くか、ブルーウォーターのレプトン様のところへ行くか選択を迫られたのですわ。
兄嫁はメリイさんは、人喰いドラゴンの生け贄になったと。まだ食べられてなかったとしても時間の問題だと。」
「ナンダト!?」
怒りの龍太郎君だ。
「そう言うウワサは流れてるんだ。メリイも母上もブルーウォーターに行ったきりで戻ってこないだろ?
だから、生き餌としてドラゴンに飼われているって。」
「失礼だな!」
リード様が声を荒げた。
「それで、もうすぐ卒業でしたから、寮を引き払って、その荷物ごとブルーウォーターに送られたのですわ。
ついて来た使用人は荷物をポイポイと駅のホームに投げ捨てそのまま立ち去りました。
そして私は途方にくれました。」
「それで駅から連絡があったんだね。」
ネモさんが腕組みをしている。
「オマエ可哀想な奴ナンダナ。焼かずに見逃してヤルヨ。」
「いいえ!いいえ!いいえ!」
フィジーさんは激しく首を振る。
「もう、グランディには帰れませんの!後生ですから、苦しまないように、スパッと!サクッと!やって下さいませええええ。
どうせ文無しですしいいい。
連れ戻されてバーバラファンのおもちゃになるのは嫌でございますうううううー!」
うわあああああああああああ!!
泣き崩れるフィジーさん。
「……。」
みんな気まずそうに顔をそらしている。
「ねえ、レイカ。」
「王妃様、何でございますか?」
うわあ。嫌な予感がするよ。
「貴女ならこの子をどうしたらいいと思う?
正直な意見を聞かせて?」
えええー!!
この気の毒な少女の命運だか運命だかは、この私に委ねられた⁈
命運と運命は漢字をひっくり返しただけなのか?
いや、微妙に意味が違うのか。
ああ、私も途方に暮れる、、。
タイトルは そして僕は途方にくれる。ですね。
カップ麺のCMでしたよね。




