ウワサを信じちゃいけないよ。
三月になった。水ぬるむ春というヤツだ。
王妃様が顔を出された。あらかじめのリクエストは筍ご飯と、土佐煮と筍と野菜の天ぷら盛り合わせ。
筍ご飯の具は筍と鶏肉と椎茸と人参と蒟蒻。
炊き込みでなくて混ぜご飯形式だね。小ネギのせます。
あとはお吸い物。菜の花入りです。
舌鼓を打ってお召し上がりになった。
食後のお茶を飲みながら、
「明日はアランの娘、パールと、リードの娘ディアナの初節句だわね。
明朝、ちらし寿司を用意してくれるかしら。」
とおっしゃっる。
「了解です。」
「ねえ、レイカ。今月末にはお花見をしましょうね。メリイさんや龍太郎君も一緒にね。」
「ええ。火山のふもとの桜並木も浄化されているみたいですし。」
気になることを聞いて見た。
「シンゴ君は元気ですか?」
「ええ、たまにアランの所で顔を合わせるわ。精悍な顔になっていてね。黒き狼って感じになってたわよ。一皮剥けた感じね。」
「あら、そうですか。良かったです。」
そこへアンちゃんが。
「カレーヌ様がお見えです。お呼びになったとか?」
「ええ、入って。」
「グランディの華の中の華。王妃様にご挨拶申し上げます。」
いつもながら完璧な礼をしてカレーヌ様が入ってきた。
「いつもクッキーを美味しくいただいていてよ。」
「ありがとうございます。」
「今度はね、フォーチュンクッキーを作ってもらいたいのね。」
「それはなんでございますか?」
「実はね。」
また絵に描いて王妃様が説明だ。
薄い煎餅みたいなクッキーが半円状にたたまれ、もう一回、折り曲げられている。その中におみくじが入っているのである。
食べるとき割ったら出てくる。運試しだ。
占ってよ、カモンカモンなのである。
「了解ですわ。」
「王妃様。アラン様のお子様の誕生日とかに使われるのですか?三月十七日にお生まれですし。」
「ああ!レイカ!それも良いわね!ただ、最近ふっと思いだして面白そうだから作ってもらおうと思っただけよ。」
あっ、はい。そうですか。
「大吉とか大凶とかはわからないかしら。ラッキーとか、アンラッキーとかにした方がいいかしら。」
「私が前世で食べたのはラッキーカラーとかラッキーアイテムとか書いてありましたよ。」
「なるほど!そうだわ。異動先をランダムに書いて仕込んで、ドキドキ人事異動ってのも良いわね。」
オイ。
「あー、それも良いかもですよ。護衛の配置変えとかですね。癒着とか他所の国の間者とかいたりすると、シャッフルな人事異動には慌てるかもですね。」
アンちゃんが食い付いたよ。
「おほほほ。アランも面白がると思うわ。あ、そうだわ。ラーラさんを呼んで頂戴。」
「はっ。」
そして奥からラーラさんが現れた。
「お呼びでございますか。グランディの華の中の華の御方様。」
彼女も完璧な礼である。
はーなの中のはーなーと聞くと、その名はアーサー…と続けたい衝動にいつも駆られる。
「カレーヌさん。彼女は初めてかしら。ラーラさん。アリサの遠縁なのよ。」
「まあ、そうですの。私はカレーヌといいますわ。宜しくね。」
にこやかに頭を下げるカレーヌ様。
「おほほほ。やはり気がつかないのね。」
王妃様はしてやったりの顔だ。
「 ? 」
「彼女はキャリーよ。貴女自分のとこに引き抜こうとしたじゃないの。」
私の言葉にカレーヌ様は目を見開いた。
「――え?ええええ?あの美少年振りはどこにいったのっ!?」
彼女の顔を舐めるように見回す。
「あー、なるほど。ゴットハンドのお医者さんに頼みにいったのはこの事ね。それでシークレットクッキーが欲しかったと。
……アメリアナさんみたいに厄介と言ってたのは。こういうことなのね。」
それから真顔になって王妃様を見た。
「以前王妃様がおっしゃっていた、砂漠の国とハシナ国の姫の話。これで繋がりましたわ。」
カレーヌ様は勘がいい。
「他言無用でございますね。」
「ええ。その通りよ。でもわからなかったでしょう?」
「はい。あの美少年が儚げな美少女に。
髪の色も抜いてるのですね。印象がまったく違いますわ。アリサ様の遠縁と言うことにするのですね。
…………。
(ヒソヒソ)レイカ、美少年じゃなくなって残念だったわね。(ヒソヒソここまで)」
……何を言ってるのかしら。
カレーヌ様ったら(怒)。
王妃様は頷く。
「明日以降ネモやマーズ達に引き合わせるわ。」
「見かけはメリイさんタイプですわね。白っぽい金髪に大きな瞳。儚さを感じさせて。マーズさんが気に入りそうですわ。」
カレーヌ様の指摘に、
「おほほ。それはダメよ。ラーラはレプトンと仲が良いのよ。ねえ?」
こうお返しになる王妃様。
「そ、そんな。仲良くなんてことは。」
何となくドギマギしてるラーラさん。
「あら、そうなんですの?」
カレーヌ様が眉をあげた。
「最近ね。メリイさんのお兄様が婚約間近と聞きましたの。ではサードさんの方ですわね。きっと。」
ええっ。
「初耳だの。サードは公爵家の後継者であるのよな。報告は上がっておらぬぞ。
――アンディ!?どうなっておるのじゃ。」
王妃様は驚き、アンちゃんは眉をひそめる。
王妃様の言葉がお仕事バージョンに。
「そのような報告は上がっておりませんな。
こちらでも急ぎ確認しますが、カレーヌ様。
どこからの情報なのですか?」
カレーヌ様は額に手をあてて考えたこんだ。
「実はね、年末ぐらいからかしら。
グランディから来た観光客から時々聞くのよ。グローリー家は何かと話題だったでしょ。伯爵令嬢との縁談が持ち上がっているとか。いないとか。」
「伯爵家の令嬢か。年頃の娘と言えば限られるの。」
「はい。前公爵があんなになってしまったけれど、私はあの人を見捨て無いと言ってるとか、前公爵夫人が再婚したから姑がいなくなってラクだとか。小姑はどうせそのうちドラゴンに食われるとか。」
「……割と失礼じゃのう。」
王妃様の眉間にシワが。
割とどころか、かなり失礼です。
そんな変なヤツとサードさんは結婚するのかい。
いいえ、デマかもしれないね、うん。
うわさを信じちゃいけないか。私の心はウブなのよときたもんだ。
「レプトンに聞けば良い。アンディ、呼びだせるかの。」
「はっ。」
アンちゃんは奥に消えた。
「そうですわ。王妃様。カレーヌ様に雛ケーキを作っていただいたらいかがですか?
明日、ちらし寿司と一緒にお持ちになれば。」
「あらそうね、レイカ。カレーヌさん、こういう菱形のケーキを作って欲しいの。」
王妃様がまた絵を描いて説明する。
「なるほど!可愛いですわね。では明朝お届け致しますわ。
本日はリード様のところにお泊まりなのですか?」
「ええ、まだ連絡はしてないけど。」
……おい。
その時である。
バタン!
ドアが開いた。
「ははうえー!いらしてたんですね!!
レプトン君をお呼びとか?私も同行致しました〜!!」
あ、やっぱりねえ。
リード様が現れた。後にはレプトンさんが引き攣った顔で立っていた。
ああ、どうにも止まらない。
引用したのは、恋するフォーチュンクッキーと、
どうにもとまらない。
ですね。
後はアニメの円卓の騎士物語 燃えろアーサーですか。




