サヨナラ、サヨナラ、サヨナラは3回。アンコールも3回かも知れない。
誤字報告ありがとうございます。
メリイさん達は寮に戻ったそうだ。
凄くレプトンさんがごねたらしいけれども、
「レプトン兄さんもそろそろ妹離れしてるでしょ。」
と言われて引き下がったらしい。
もちろんイリヤさんも出て行ったわけだ。
「脈なしはわかってましたけどね、ざーんねん。レプトンさんたら、寂しがってもくれなかったの。」
イリヤさんはからりと笑っていた。
「あーあ、どっかに性格がいいヤツいませんかね!性格が!」
「おい、オレを見るな、何が言いたい。」
シンゴ君が睨む。
「あら、自分の性格がイマイチだと自覚してるのね。」
「いじっぱりのお子様だもんねえ。」
ショコラさんも合いの手をいれる。
「な、何を!」
「ま、どっちにしろ六つも年下では私らの相手にはなりませんわ。」
「こっちもお断りだっ!」
さて今日は。アンちゃんが、たまには若者たちにご飯を出して労ってやってくれない?と言うから、レストランには若い忍びが集合だ。
それでこういう賑やかな光景が繰り広げられているのである。
メニューは何が良い?とリクエストを取った。
「カレーにしてね、母さん!じゃなくてアネさん!」
……○○ス インドカレーの懐かしいCMが頭の中を流れる。
とうとう私は母さんなのかい。
ま、と言うわけでカレーである。ルーを作るのに力仕事が必要だから、ハイド君を招集だ。ラーラさんに作り方を伝授している。
その後は鍋でお待ち帰りをさせた。
ラーラさんには、
「あちらでハイド君やメリイさんと食べなさい。
ねっ?」
と言い含めた。
もちろんシンゴ君やイリヤさんが万が一にでも彼等に絡まないようにという忖度である。
(というか、イリヤさんがラーラさんに絡むと思われてる様なのだ。本人にその気が無くても嫌な思いをしないように。)
トンカツも揚げた。カツカレーにしても良いという私からのサービスである。
チキンカツではなくてよ。ほほほ。
あとは茹で卵スライスも。お好きにトッピングなさいね。
サラダもお食べなさい。オニオンスープも飲みなさい。
お残しは許しまへんでー!!
おお、おお!ガツガツと若者どもが食べておる。
「食べ始めたばかりだってえのに、ご飯不足が当選確実!」
だの、
「ウオオン、俺は人間火力発電機!」
というどっかで聞いたセリフが飛び出している。
(この世界は石炭を燃やす火力発電所がございます。)
「イリヤはどうするの?メリイさんとこから異動しても良いってアンディ様が言ってたわよ。」
ショコラさんがイリヤさんに話しかけている。
「そーねえ。私はメリイさんも龍太郎君も好きなのよ。場所には不満はないけどさ。
レプトンさんに横恋慕してる厄介なヤツみたいな立ち位置だよね。こないだの川原でも脈が無いってわかったし。」
「うんうん。」
「メリイさんとこにいるとレプトンさんに会っちゃうし。といってここに異動したら、ラーラさんがいるからね。
また痛く無い腹を探られそうでさ。」
「そうねえ。」
「サーカスに行こうかしら。」
ショコラさんが目をぱちくりしている。
「サーカスう?」
「砂漠の娘たちがいなくなったから、人手不足でやってない演目があるよね。そっちに行こうかな。」
「あ、そう。じゃ誰がメリイさんのところに行くのかしら?」
マリ・ポーリィ14歳。短い金髪に緑色の目。
サマンサちゃんと二人で保護された少女である。
ネコカフェの支店でヤー・シチさんの部下として働きつつ、クノイチとしての修行中。
いずれはエラ妃の専属になる予定である。
その子がサマンサちゃんと二人で皿洗いなどの裏方をしていた。
「はい、二人とも。食べて?」
カツカレーを調理室の奥の休憩スペースで食べさせる。
「向こうで食べても良いけど。」
「えー、レイカさん。あっち忍びのひとばっかりだし。」とサマンサちゃんが言えば、
「パイセンばかりでツラいっす。」とポーリィちゃんも言う。
(※これからこの子はポーリィちゃんと呼ぶ。マリちゃんと言うと、メリイさんのお母様マリーさんと混同するといけないからだ。)
そこへアンちゃんが入ってきた。
「私もここで食べようかナ。」
「ええー!?」
顔をしかめる少女たち。
「コラ。そんな顔しないの。あっちだとみんなが気を使うでしょ。」
「こっちでも気を使いますーっ!」
アンちゃんは奥の自宅で食べても良いのだ。
わざわざこっちに来たという事は。
お食事をしながらのミーティングか。
カレーランチミーティング。元横浜市民の私としてはそんな言葉が浮かぶ。特に興味は無かったが。
「ポーリィ。アンタ、イリヤの代わりにメリイさんのところへ行きなさい。クノイチとしての初任務だよ。」
「えええっ?ま、まだ私はぺーぺーですっ!」
「わかってるよ、正直言って龍の字がいるから、
護衛は要らないの。ただ、バスルームや寝室に一緒にいる同性が必要なのさ。
ハイドが夫になればそれも要らないけどな。」
アンちゃんがため息をついた。
「なかなか、仲が進展しないしね。」
「はあ。」
「どうせアンタはもうすぐエラ妃付きになる。
それまで実践で護衛をまなびなさい。ハイドにも教わることがあるはずだ。」
それに、とアンちゃんは笑った。
「白狐様は子供には優しいんだ。15歳以下のね。
ま、上手くやってくれ。」
それで彼女達は異動した。
イリヤがいなくなることに、メリイさんは驚き寂しがっていたが、ハイド君はすぐ納得したと言う。
「あれからもレプトンさんはラーラさんを誘っているじゃないか。ふきのとうを摘んだり、海岸で綺麗な小石を拾ったりして。イリヤも辛かったのさ。」
と言っていたとシンゴ君は語った。
また、採取かい。それはデートなのだろうか。
シンゴ君も苦笑していた。
「二人っきりなの?」
「いえ。メリイさん達もついて行ってました。
ただ、俺とイリヤは影から見てましたけど。
龍太郎とハイドには気づかれました。二人とも知らない振りはしてくれたけど。」
「あの二人はなあ、鋭いからな。」
アンちゃんが横で合槌を打つ。
「で。シンゴそろそろグランディに戻るか?」
「はい、アンディ様。」
そうしてシンゴ君もいなくなった。
それから、二日後。ラーラさんが来た。
「レイカさん、シンゴの奴はどこに行ったのですか?最近見かけませんけど。」
「ああ。グランディ王国へ戻ったわ。」
「え?戻った?」
「そう。彼は元々アラン様の護衛なの。こっちには特別にお手伝いに来ていただけなのよ。」
「え、そうなんですか。」
ラーラさんの目が見開いていた。
「も、もしかして私が意地悪ばかり言うから嫌になったのでしょうか…。お別れも言ってくれないなんて。」
ラーラさんの瞳は潤んでいた。
「そんな事はないわよ。」
「は、初めてだったんです。怖くない男の人って。
私に言い寄ったり圧をかけたりしないで自然体で接してくれる人って。」
「うん。」
「つい、反応してくれるから楽しくって。」
「うん。」
「何でこんなに寂しいのかしら。」
ぽたぽたと涙が落ちている。
「……ラーラさん、彼はお仕事で戻ったの。貴女が嫌になったとかじゃないから。安心してね。」
「はい。」
彼女は男の子に好感を持ったことはなく、もちろん初恋もまだだったのだ。
過酷な育ち方をして、周りがみんな敵だと思って生きてきた。特に男性は怖かったんだ。
とりあえず抱きしめる。
「大丈夫よ、ここの人達は貴女に危害を加えたりしないから。」
「はい。わかっています。ここの影の人達は私を守ってくれてる。危険を感じません。
ただ、遠巻きにされてますけど。突っかかってきたのはシンゴだけでした。」
「そう。」
「黒き狼と呼ばれて恐れられてたのに。
失恋してボロボロ泣いていて、ああ普通に感情もあって、弱いところもあるんだなって。
怒鳴ったら怒鳴り返してくるし、忖度無しで。」
「そうね。」
「いつ今度会えるのかしら。」
「……。それは私にもわからないわ。」
目を見開いて、
「そうか、もう会えないかもしれないんですね。」
また、彼女の目から涙が落ちた。
どう転ぶかわからないから、ただの第三者の私は、これ以上どうすることも出来ない。
明日にでもシンゴ君は仕事で命を落とすかも知れない。
そのうち彼にもいい出会いがあるかもしれない。
レプトンさんが彼女の心を掴むかもしれない。
シークワーサージュースを飲んだ時のようなほろ苦さである。
さて、次の日。
レプトンさんがチャチャを引き取りにやってきた。
「トライアルして上手くいったらウチの子になってもらいます。母も義父も楽しみにしてるんですよ。」
ニコニコして語る。
「わかったわ、ではこの書類をよく読んでね。」
アンちゃんが説明している。
そこへラーラさんが現れた。
「やあ、ラーラさん!」
「こんにちは、レプトン様。猫ちゃんを宜しくお願いします。」
「もちろんですよ!そうだ、今度水仙を見に行きませんか。牧場あたりに咲いているとか。つくしも出てるみたいですよ、菜の花も。」
「摘んでも良いのですか?」
「そうらしいです。」
「メリイさん達も来ますか?」
「ええ、もちろんですよ!二人っきりだと緊張しますよね、お互いに。」
レプトンさんはにこやかに対応している。
「私はね、ゆっくり貴女に慣れて欲しいんです。
猫ちゃんもですけどね。」
「猫と一緒なんですか?」
ラーラさんは泣き笑いだ。
「そうですね、私は貴女と過ごすのが楽しいんです。」
レプトンさんの笑顔は曇りがなかった。
淀川長治さん。サヨナラはという回数は3回と決めたらしいです。
始めはランダムだったけど賭けに使われたとか。
徹子の部屋で言ってたかな?うろ覚えですけど。
アンコールは3回。くらもちふさこ先生ですね。




