幸せとは、それを探す旅そのものらしい。
「えっ。明日、何でオレが付いて行くんですか?嫌ですよ!!」
次の日の早朝、シンゴ君がアンちゃんにくってかかっている。アンちゃんの言う事は何でもハイハイと聞くのに珍しい。
「シンゴ。レプトンさんには護衛が必要だ。リード様の補佐なんだから。それからラーラにもな。」
そこで咳払いをして小声で付け加える。
「いいかい。ラーラの血筋は厄介だ。実際大自然の中で、急に彼らの仲が深まってだな。そういう関係になったら、父親ははっきりしてないとなあ?」
「な!?」
「お前が一番気配を消せるだろう?見届けられるだろう?ま、同意してるかは重要だけどな。してなかったら邪魔していいよ。」
うわああ。
「ではずっと最初からコッソリ付いていって、影から見てるわけですか。」
「うん。」
何だろう。アンちゃんそれは鬼畜ではないか?
「……。」
ほら、シンゴ君が沈黙して床に座り込んだ。
「仕方ないなー、では別案で。」
シンゴ君が固まってるから、アンちゃんは出ていった。
これはなあ、何とも。
シンゴ君とラーラさんはケンカ友達という奴だ。
お互いに遠慮がない。そしてお互いに否定しながらも好感を持っているのは間違いない。
そう、恋を自覚する前の中学生の恋愛を見てるみたいでおばちゃん甘酸っぱい。レモンというよりグレープフルーツだね。
ここで、
「アンタ、アイツのこと好きでしょ?」
なんて言ったら、
「ば、バーロ!んなことあるかよっ!」
とこじれるタイプだ。
それにラーラさんも自分からもシンゴ君に絡みに行ってるよね。
女性はどうでも良い相手には自分から寄っていかない。嫌いな相手には基本話しかけない。
無視である。
はい、ここテストに出ます。
しかしなあ。このままでは淡い気持ちのままで終わってしまって、
あなたは私の青春そのもの。になってしまうやつだ。
シンゴ君が彼女への淡い恋心があるとして、それを自覚しないままで、濃厚ラブシーンがあったら邪魔をせず見届けろとアンちゃんは言う。
我が夫ながら鬼である。
しかし影とはそういうものかも知れない。
うーんん。
「あのねえ、シンゴ君。」
「なんすか、アネさん。」
「イリヤさんとついていきなさい。」
「え、何でイリヤですか?」
「女性相手だもの。クノイチもいた方がいいでしょう。堂々とダブルデートな感じでいきなさい。」
「で、ですが。」
「イリヤさんはレプトンさんに気があるでしょ。
レプトンさんはどのみち彼女には興味がないみたいだし。護衛団としてね。」
「そうですか。可哀想だけどアイツも引導を渡されるのですね。」
あら。
そこにアンちゃんが戻ってきた。
「レイカちゃんに先を越されたか。メリイさんとハイドと龍太郎君に付いていってもらう話をしたところさ。
トリプルデートになるかもね?けけけ。」
「そしたら、護衛はいらないでしょ。龍太郎がいれば。」
「ふーん。そうかもね。でもさ、そろそろイリヤもレプトンさんから離れないと。現実をみないとね。」
「今イリヤさんは何処に?」
「ミッドランド家で住み込みで警備をしてる。
メリイさんとマリーさんのね。
でもさ、メリイさんがミッドランドの家を出るなら一緒に出るだろうね。」
「どう見てもイリヤのアプローチはレプトンさんには刺さってませんからね。」
なーるほど。
ラーラさんとのウキウキデートを見るイリヤさんも辛かろう。
「いいか。シンゴ。オマエもイリヤも影なんだ。
それを忘れるな。
ラーラの出自は隠される。多分ネモさんの母方の遠縁という事になる。」
アリサさんか。確かセバスチャンがレッド領に隣接している母の実家の領地には海がある、といって昆布を取りに行ったな。
(結局ワカメだった。前作グランディ王国物語の、
昆布をぎょうさん使ってるの。を読んでね。)
その後、レッド家がやらかして絶縁状態になり、ネモさんの代でまた交流ができたと聞く。
元レッド領ことブルーウォーター領には海はないから、シーフードも手に入らない時期があったのはそういう訳だ。
そしてネモさんの従兄弟が継いでいたが、先日独身のまま、怪我をして夭折したのでブルーウォーターの一部となった。
他所に合併されるくらいならとアリサさんが頼んだらしい。ネモさんがグランディ王国に打診して快諾された。小さな領地だったしね。
確かに。出自を隠すならそこ出身にすれば誤魔化せそうだよ。
「レプトンさんは悪い人じゃないぞ。」
「わかってますよ、メリイさんのお兄さんですからね。」
とシンゴくんはノロノロと立ち上がった。
「あのさあ、オマエはまたアラン様のところへそのうち戻るんだよ。今はラーラのゴタゴタがあって一時的にこちらにいるだけなんだからな。
あの子もさ、一生護衛といいながら監視されるのさ。」
「メアリアンさんみたいに?」
「そう。オマエはラーラの監視の強化の為に今はここにいる。自覚しろ。
まあ、レプトンさんと上手くいけば監視の目も緩むけどな。ランドさんみたいに、レプトンさんも彼女の血筋を利用しないだろ。」
「……。」
「滅んだ砂漠の国の、唯一の王族の血を引く生き残りだ。下手にお家再興の旗印にされたらたまらない。砂漠の国はもうマナカ国の一部なんだから。」
シンゴ君は下を向いた。
「そうですね。アイツもよく考えれば可哀想な奴でしたね。」
「オマエとケンカをする前は割と無表情な娘だったよな。色々我慢して感情をころしてきたんだろ。
解放させられてよかったな。
それにシンゴ、オマエもあの娘と罵りあってる時は年相応だったじゃねえか。」
「……まあ、楽しかったですよ。気を使わなくて良くて。向こうもそうでしょう。人をコロコロと転がしてくれて。ふふふ。」
顔をあげたシンゴ君の目には迷いがなかった。
「明日はちゃんと仕事をします。色々すみませんでした。」
そのままシンゴ君は出て行った。
「気持ちを切り替えたようだな。」
アンちゃんがポツリと言う。
「毎回、監視や警備対象に惚れては話にならんよ。」
そして盛大にため息をついた。
―アンちゃん、アンタがそれを言いますか、と言う気はしないではないが。
カレーヌ様から私でしょ。
ああ、その前に忍びの元カノが三人くらいいたか。
バシッ!
「な、なんで打つの。レイカちゃん。」
ムカついたから背中を叩いておいた。
ふん。
タイトルは妹たちよ。という歌の一節から。
TVアニメ、ハーロッ〇の挿入歌かな。




