ここでお泣きよ。悲しかったら。
誤字報告ありがとうございます!ハイドとシンゴの名前が入れ違ってるところがありました!
訂正しました。
アンちゃんはグランディへ行った。アラン様にご報告する為だ。
「気は重いけど。アラン様にお会いできるのは嬉しいワ。」
ハイハイ。
楽しげにネクタイを選んでいる。割とアンちゃんは着道楽なのだ。抑えた色味だが数はそこそこある。
いつも絹織物を買っているだけの事はあるな。
美しい光沢のシルクタイの中から深い緑のを選んだ。
「一応リード様が王様にご報告なさるのでしょ。」
「まアね。俺はね、結局シンゴを連れ帰る為に行くのさ。可愛い弟子の面倒を見なくてはねえ。」
そこでため息をついた。
「レイカちゃん、悪いけどさ。明日アイツを連れて帰るから、若手を使って上手いもの作ってやってね。
もちろん、ハイド抜きでね。」
「あっ、ハイ。」
「メリイさんに引導を渡させる。泣いちゃうよな。
アイツ。」
そして次の日。アンちゃんはシンゴ君を連れて帰ってきた。
なんと、龍太郎君付きで。
シンゴ君はレストランに入った瞬間気が緩んだか、
「……う、ううっ。」
男泣きに泣き出したよ。
「良か良か、泣きんしゃい。」
「ううっ、レイカの姉さん、俺辛いッス。」
「うんうん。許してやるから、アンちゃんの胸でお泣きよ。」
「ええっ!」
「ううっ!!アンディ様っ!」
「ちょっ、おい、待てよ。そんなグイグイとチカラ任せに抱きつかないでっ!!」
ふふふ。鯖折りされる気持ちがお分かりいただけただろうか。
さて私はポッカリ空いた胸の穴に、メシを詰め詰めしてやるか。
ハンカチも椅子もあるぞよ。
「さあ、お食べなさい。山盛りのチキンライスよ!」
「こ、こんな沢山食べられませ…う、うまい、止まらない。」
「さ、味変にタバスコをおかけなさい。」
半泣きになりながら、口元を赤くしながらシンゴくんはチキンライスを食べる。
「うん、このケチャップの甘さ、チキンの香ばしさ。玉ねぎとにんじんとコーンの優しい味とピーマンの苦味。いい、いいですっ!またタバスコがあうこと!」
ガツガツと平らげて行く。
「凄いワネ。まあ沢山食べなさい。
ビールも飲むか?」
「はいっ!」
あら、アンちゃん優しいじゃない。
さあ、横に添えた生野菜もお食べ。チーズも出してあげるから。ビールのつまみにね。
龍太郎君も食べている。
「美味いナア。トコロデ、チキンライスにはグリーンピースはノッテナイの?」
「そう言えば以前はそうだったけど。段々やらなくなったよ。」
「イヤ、苦手ダカラ良いけど。シンゴ、元気ダシナヨ。」
「龍太郎。お前もツラいだろ?」
「ツラいに決まってンダロ!ずっと好きダッタ。デモ仕方ないジャン。バーカバーカ!
早目にオマエも告っとけば良カッタンダロ!」
しゅんとするシンゴくん。
「だよなあ。なんかさ、あの馬鹿と毒婦に当てられちゃってな。メリイさんって清純だからそういう下心を持ってはいけない気がしてよ。」
「ハハア。オメーは若えナア。
ウーン、とにかく飲メ。今日は飲メ、ナッ?」
あれか。ドロドロした情念ばっかり見ていて、メリイさんを神格化したか。アイドルに憧れるようにな。
彼女だって生身の人間だ。色んな一面はある。
龍太郎君はじっと見てきたし、共有してきた。
もうほとんど家族だな。
「龍太郎君、ワインはいける?私から差し入れよ。ほら、シンゴくんも。」
とりあえずグラスワインを出す。
「じゃ、ワタシからは特製ナッツ盛りヨ。」
アンちゃんがナッツを大皿に盛る。
うちには普通はアーモンドとクルミとピーナッツしかないけど、
ヘーゼルナッツやピカンナッツ、カシューナッツや松の実や、かぼちゃのタネなんかを出して来た。
はーん、ルリルリちゃんにあげるために取り寄せたな?
「ほら、メンチとコロッケも揚がったよ。」
「あらー!いい匂い!お相伴にあずかりたいですう。」
ショコラさんがひょっこりと顔を出した。
おや、サマンサちゃんも。
「レイカさん、メンチ食べていいですか?
ワラジサイズじゃなくて食べやすそう。」
「モチのロンよ。シンゴくん同席いいわね?」
「はあ。サマンサさんは、レイカ姉さんのご親戚じゃ無いですか。否応もありませんよ?どうぞ。」
そこでチラリとショコラさんを見る。
「こっちはアンディ様のお子様の世話係なんでしょ、だけどアレは何だ?
ショコラ、なんであんなの連れてきた?」
え?と見るとカーテンの後ろから出てきたのは、
キャリーさんだ。
「アイツはハシナ国の関係者でしょ!アンディ様はアイツらに斬られたんだ!」
「…シンゴ。まあお前の言いたいことはわかるけどね。
アラン様がこの娘をブルーウォーターに送ったじゃないか。」
「ですが!」
「ブルーウォーターに送ッテ、白狐のダンナに焼カレ無ケレバヨシ、と言ったンダヨな。」
「龍太郎!それはそうだけど。」
うん、まあ。何でここにいるのかな?は私も思った。
「メアリアン様が、こちらで働くといいわとおっしゃって。」
キャリーさんはおずおずと切り出した。
「それで、裏で下拵えの手伝いをやったりしていたのですけど。」
「レイカの姉さん。この子手際いいですよ。」
ショコラさんがにこやかに言う。
「私すっかり気にいりました。」
「はい。あいつら四人の食事の世話とかしてましたから。」
うむむ。冷遇されていたお姫様か。
似た立場にビッキーさんがいるが、あの子は家事は他の女性がやってくれていたらしい。
「ま、レイカちゃんが良ければレストランの手伝いをさせれば。」
遠回しにハイドくんがいなくなったから、手が足りないでしょ、と言っている。
「ま、サプライズよ。レイカちゃんこの子を気にいってるでしょ。くくく。」
うーん、その言葉を額面通りにとって良いものだろうか?
まあ、良いや。
「ええと。ウチは構わないけど。貴女はいいの?
希望すればサーカスとか牧場とか、シェルターとかでも働けるのよ。ビッキーさんと仲が良かったでしよ。」
するとキャリーさんは困った顔をした。
「うーん。実はですね。」
セティさんが、ビッキーさんと似た境遇、似たような髪の色の彼女に興味を持ったのだと言う。
ビッキーさんが振り向かないからか。
とことんロリコン野郎だぜ。
すると、ビッキーさんの機嫌も悪くなったのだと。
複雑な乙女心である。
「それをね、あちらのスタッフから聞いたアンディさんが、メアリアンさんの助言もあってこちらに連れて来るように言ったのです。」
「セティくんは突っ走るタイプだからね。
で、どう。キャリー、ここで働く?」
「はい、出来れば。ここは温かい気で満ちています。何より身の危険を感じません。」
そりゃあね。過保護なアンちゃんが徹底的に排除するからな。
「ふーん、じゃア名前だけでも変えようか。
キャリーの名前のままではそのうち、アンタがハシナ国の姫だと気がつくかもね。」
「はい。」
そこで龍太郎が、飛び回った。
「ジャアサ、男女どっちでもイケル名前が、イイヨ。マコトとか、シノブとかさ。」
「龍太郎君、それは良いけど。日本の名前じゃん。」
「じゃあ、ラーラは?これはさ、ウチにあった剣に彫られていた名前ナンダ。人名か国名かワカラナイケド。」
「いーじゃん。ラーラ。なあ?」
「ハイ、嬉しいです。キャリーという名前は嫌いでしたから。亡くなった姉の名前でした。」
アンちゃんが複雑な顔をする。
「聞いた事がある。あちらは姫の名前があらかじめ決まっている。十二個かな。」
「ええ、それで順番につけていくのです。
偶然なのか、呪いなのか、十二人以上同時に姫がいたことはないのだとか。」
十二個の名前がめぐる。十二支?
ラーラさんが仲間に加わった。
「明日からは、本格的に働いてもらうわね。
とりあえず今日はお食べなさい、ねっ。」
料理を勧める。
「ありがとうございます!ところでこちらで、さっきからぐずぐず泣いてるのは、あの黒き狼ですか?」
「なんだとっ!」
「あははは!シンゴ。お前知らないうちにたいそうな、二つ名前が付いてるじゃないか!けけけ!」
「そ。それは。…おい!ラーラとやら、グズグズ泣いていて悪いかよっ!」
「いや、驚いてるだけだ。いつものお前とあまりにも違うから。」
「ふん!」
シンゴくんはワインを呷った。
「ここはな、息抜きができる場所なんだ!いつも気を張ってられるかよ!」
「それは、そうだな。すまなかった。」
おう。シンゴくん相手には男言葉か。ますますヅカっぽくて宜しい。
「おい、オマエも飲めよっ!」
「良いのか。私は強いよ。」
「仕方ナイなあ。レイカサン。二人に飲マセテやって。オレニモ。」
龍太郎君が首の後ろからルビーの粒を出す。
「あら、そんなところから?」
「ウン。ウロコが落ちたトコロはシバラク凹んでる。他のウロコでカクレルから別にイイけど。
メリイと出掛ける時ニ、手元不如意ジャ困るダロ。」
手元不如意も古いなあ。
「ソレニ。【ル○ンはいつもここに隠すわ】デショ。」
ニヤリと笑ってドヤ顔の龍太郎君だった。
失恋レストラン。懐かしい歌ですね。
それから龍太郎は、カリオストロの城が大好きです。




