彼女の選択。③
引き続きレイカ目線をお楽しみください。
「ずっとあなたが、好きでした。」にリンクしています。
ハイド君は戸惑っている。
もう。ちゃんとアンちゃんも連れてくる時に説明しないから。わざとだな。
横を見ると目を逸らして楽しそうだ。
「は、話がみえない。よくわからないのですが?
さっきメリイさんの婚約者とかなんとか聞こえたような…。」
その通りです。
「うん、まず私が説明しようか。彼女はね、早急に諸事情で婚約者を立てることになった。」
リード様が説明する。
「え、何でですか?王家が彼女の結婚は保証してるのでは?」
おや、ハイド君、怒ってるね?いいねえ。
「ふうっ。色々あってね。とりあえず仮の婚約者を立てることになって。我が父が押し付けてくる者よりも、彼女が選んだ人が良いだろう?」
「何だ、仮ですか。え?彼女が選んだって?」
その通りですよ、理解出来たかしら。
バササッ。
「オイ、ハイド。ウチのメリイに不満がアルノカ?」
龍太郎君がハイド君の所へ行って凄む。
「いてて。爪を立てないでっ。あるわけないだろっ。でもさ龍ちゃん嫌じゃないの。」
「ウン、マア。」
キュー。
「おお!キューちゃんもハイド君が良いと!」
「シンゴくんは次点ですか。」
おやおやおや。神獣二人のお墨付きかあ。
繰り上げ当選なら、シンゴ君ですよ、と来たもんだ。
「あ!そうか!?シンゴじゃ無くて良いんですか?メリイさん??」
うわ、最悪な事を言ってるぞっ、
このバカちんがっ!!
私に武田鉄矢が降臨する。これ以上ふざけたことを言うならしばいたる。
私は鉄扇を握り締めた。今宵のテッシーは血に飢えておる。
(実際は朝だが)
「オラ、ハイド。メリイさんに恥をかかせるな!
おまえが良いってさ!」
アンちゃんが、一喝。あら、ハイド君。震え上がったね?
「…あの。俺は貴女よりも九つも年上で。」
「あら、私とアンディさんも八歳違いよ。」
そんなことを気にしちゃダメダメ。
あんたさ、まーだ20代じゃんか。
「…怪我もしたから、貴女を守り切れるか自信が無くて。」
おや、ヘタレめ。まだぐずぐずしてる。
「あの時は済まなかった!」
リード様に飛び火だよ。
影が王子様に頭を下げさせてはいかんやろ。
「何イッテル。俺がイルダロ?俺が守ルヨ。」
龍太郎君。男らしいぞ。
これはあれだな?自分なんてムリですうーと言って
いやいやそんな事ないよ、大丈夫だよ。
と言って欲しい振りかいな。
あのさ、ティーンの女の子じゃねえんだから。
シンゴだったら、いいんすか?ラッキー!!となるはずだ。
でもさ、メリイさんはこのヘタレが好きなんだな。
「…嫌なんですか?」
ほらよ。メリイさんが泣いちゃったじゃん。
「そんな事は。」
ハイド君、狼狽える。
「私は!あの時貴方が死んでしまうかと!また大事な人が居なくなったらどうしようかと!」
ああっ!メリイさん。落涙しながらガチ告白だっ!
聞いていて良いんでしょうか。
席を外せないだろうか。王妃様なら大喜びだろうが。
「今、顔を見て思いました。やはり、ハイドさんが良いんです。
…仮の婚約者でなくて、そのうち本当の婚約者になってくださって構わない。それが私の気持ちなんです。」
彼女の想いは私にもストレートに伝わる。
昔を思い出して胸が熱くなりますよ。
―女の彼女にそこまで言わせて、知らんぷり、知らんぷりするんじゃなかろうなあ。
美・サイレント。
沈黙が続く。どれ、奴をしばいてカツを入れてやろう。
後の騒ぎはアンちゃんがどうにかするであろう。
鉄扇を握り締める。
パチパチパチパチ。
沈黙を破ったのはリード様だ。
涙を浮かべて、拍手をしてらっしゃる。
パチパチパチパチ。
エリーフラワー様とエドワード様も続く。
「お、お。感動したよ、私は!」
リード様は美しい顔を上気させてらっしゃる。
「ううっ。なんかジーンとしたでごわす。」
エドワード様は泣いている。
キュー。
白狐様が涙を舐めている。
「乙女心に心が打たれましたわ!ハイドさん!
ちゃんと答えなくては、男じゃなくてよ!」
エリーフラワー様も泣いている。
パチパチ。私も拍手だ。
「うん、なんか甘酸っぱくてジンとした。
自分の時のことを思い出したよ。」
チラリとアンちゃんを見る。
「れ、レイカちゃん、そうよね。」
アンちゃんも顔を染めている。
「そうでしたね。レイカさんも結婚の自由を勝ちとってアンディ殿に求婚したんですものね。」
ネモさん。お願いあんまり触れないで。
実際あれはプロポーズの言葉だったのだろうか。
一緒に食堂をやりましょう、は。
「貴方が作る味噌汁が飲みたい。」
みたいな遠回しさだ。
とにかく、それをアンちゃんはプロポーズの言葉としてとらえて満面の笑みを見せた。
まあ、結果オーライだから良いのだが。
するりと口から出た言葉だ。
やはり「月が綺麗ですね。」と決めたかったなあ。
そこからのアンちゃんのお返事が遅かったんだよな。
先にランド兄さんやアラン様に根回ししてさ。
うん?考えてみればアンちゃんもヘタレではないかな。
「そうだよね、自分で結婚相手を選ぶのは良いんだからね。」
リード様が頷く。
「ま、待ってくださいっ!妹の気持ちは分かりましたっ!だけどまだ婚約者になった訳じゃないでしょう!ハイド君、キミの気持ちはどうなんだ!」
「レプトンサン?シスコンは見っともないゼ。」
「り、龍ちゃん。」
龍太郎君。キミって大人だな。
キミの立場だったらゴネても良い所だ。
それなのに、メリイさんの幸せを一番に思っている。
「あの、私は。突然の事で混乱していまして。
妻子を亡くしてからとんと、そっちの感情には疎くなっていて。」
ハイド君が言葉を絞り出す。
「自分でも空っぽなヤツだと思います。
だからその。何と言うか。」
おや。また愚痴愚痴言ってるか。
そんな事無いですよ、待ちか。
「嫌なんですか?」
ほらあ?またメリイさんがほろほろと涙を落としてる。
「…そんなことはありません!そんなことは。
貴女は私に生きろと、ちゃんと生きろと。
怒ってくれました。
そのとき、心に火が灯った気がしました。」
そこで二人は見つめあう。
「そのあと看病に連日来て下さいましたね。
少しずつ温かいものが満ちていって。
まだこの世も捨てたものじゃないと。」
ハイド君の端正な顔にはいつもと違って赤みがさしている。
「この気持ちがなんなのか。貴女を見ると幸せな気持ちになるんです。
貴女と龍太郎君を見るとしあわせだった若い頃を思い出すんですよ。」
「ウン。メリイの相手はオレを受けいれてくれなきゃな。」
「そうだね、龍ちゃん。私は君達を見守ると誓うよ。
喜んでその勤め、承ります。」
「勤めカア。マア今はソレデ良イイサ。」
「はい、宜しくお願いします。ハイドさん。」
「わかった。父上にはその様に報告しよう。
アンディ達という前例もあるし。受け入れられると思うよ。」
リード様のお言葉に一同頷いた。
いや、私達を引き合いに出さないでくださいよ。
でも良かったね、メリイさん。
おめでとう。彼らの未来に幸いあれ。
「アラン様には私が報告に行くワ。」
そして私にしか聞こえない声で、
「シンゴの奴、泣くだろうなあ。アイツは落ちついてるから老けて見えるけど、まだ十八歳なんだからな。」と呟いた。




